近年、製造業のグローバル化が進み、海外でのモノづくりが当たり前になってきました。同時に、設計者には、高い品質と精度、さらには開発期間や製造時間の短縮が求められています。このような中、幾何公差図面が注目されています。本連載では全8 回にわたり、幾何公差の必要性と正しい使い方を解説します。第1 回となる今回は、幾何公差の概念に加えて、独立の原則と包絡の条件からサイズ公差(従来の寸法公差)と幾何公差の違いを学びましょう。
第1回「幾何公差とは?」を解説していきます。
第1回もくじ
1. 幾何公差とは
幾何公差とは、設計意図を正しく伝えるために、図面に記載する形状・姿勢・位置などの幾何特性の誤差の許容値です。サイズ公差とよく対比されます。幾何公差の基本概念は、JIS B 0021:1998 製品の幾何特性仕様(GPS)によると、以下の通りです。
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4. 基本概念
4-1. 形体に指示した幾何公差は、その中に形体が含まれる公差域を定義する。 4-2. 形体とは、表面、穴、溝、ねじ山、面取り部分又は輪郭のような加工物の特定の特性の部分であり、これらの形体は、現実に存在しているもの(例えば、円筒の外側表面)又は派生したもの(例えば、軸線又は中心平面)である。 4-3. 公差が指示された公差特性と寸法の指示方法によって、公差域は次の一つになる。 ・円の内部の領域 ・二つの同心の円の間の領域 ・二つの等間隔の線又は平行二直線の間の領域 ・円筒内部の領域 ・同軸の二つの円筒の間の領域 ・二つの等間隔の表面又は平行二平面の間の領域 ・球の内部の領域 4-4. 更に限定した公差が要求される場合、例えば注記を除いて、公差付き形体はこの公差領域内で任意の形状又は姿勢でもよい。 4-5. 特に指示した場合を除いて、公差は対象とする形体の全域に適用する。 4-6. データムに関連した形体に指示した幾何公差は、データム形体自身の形状 偏差を規制しない。データム形体に対して、形状公差を指示してもよい。 |
2. 幾何公差の必要性
サイズ公差があるのに、なぜ幾何公差が必要なのでしょうか? また、幾何公差という言葉に、尻込みしてしまうエンジニアも多いことでしょう。「幾何公差を使わなくても問題が発生していない」、「コストアップになる幾何公差なんか使いたくない」という本音が聞こえてきそうです。
従来、日本では図面を描く際、サイズ公差が用いられてきました。サイズ公差とは、図面が指示する部品や製品の長さや幅、直径などの大きさ(図示サイズ)に対し、許容される誤差を意味します。言い換えれば、あるべき2 点間の距離のばらつきです。ところが、部品の形体を表す特性は、大きさだけではありません。形状・姿勢・位置も、形体を表す特性です。これらは、大きさとは別に分類され、幾何特性(Geometry、ジオメトリー)と呼ばれます(図1)。
幾何特性の誤差は、反りや角度ずれ、位置ずれなどによって生じます。また、幾何公差を使って図面を描くことを、GD&T(GeometricDimensioning & Tolerancing、幾何公差設計法)といいます。設計意図を正しく図面で伝えるためには、サイズ公差で大きさを、幾何公差で形状・姿勢・位置を、区別して指示しなければいけないのです。
3. 独立の原則と包絡の条件
サイズ公差と幾何公差を明確に区別するために、独立の原則と包絡(ほうらく)の条件を解説します。
・独立の原則
JIS(日本工業規格)では、サイズと幾何特性の関係について、独立の原則を採用しています。JIS B 0024 製図-公差表示方式の基本原則によると、独立の原則は「図面に指示された各要求事項、例えばサイズ公差や幾何公差は、特別な相互関係が指定されない限り、他のいかなる寸法や公差または特性とも関連しないで、独立して適用される」というものです。
サイズとは長さ・幅・直径など実際の大きさを指し、サイズ公差で、2点間距離のあるべき大きさからのばらつきを指示します。幾何特性とは反り・角度ずれ・位置ずれなどを指し、幾何公差で、あるべき形状からの変化の度合いを指示します。独立の原則の下では、サイズのばらつきとは別にあるべき形状からのばらつき(変形)が加算されるため、上の許容サイズ(公差の中での最大外径)である ∅30.0 を超える実効領域(物理的占有領域)を必要とします(図2)。
・包絡の条件
独立の原則とは逆に、包絡の条件では、サイズと幾何特性に相関関係を持たせます。ASME(アメリカ機械学会、American Society ofMechanical Engineers)が標準的に適用する考え方です。
JIS B 0024 製図-公差表示方式の基本原則によると、包絡の条件は、「円筒面または平行二平面によって決められるサイズ形体に対して適用する。この条件は、形体がその最大実体サイズにおける完全形状の包絡面を越えてはならない」とされています。つまり包絡の条件は、軸や穴の直径、または幅によって決められるサイズ形体に対してのみ適用できるのです。
ISO やJIS に準拠する図面に包絡の条件を適用する場合、サイズ公差の後に丸で囲んだE を付与します(図3)。これにより、最大実体寸法における完全形状の包絡面を超えてはならないという制約を与えることができます。
この場合、円筒表面は、最大実体寸法∅30.00 における完全形状の包絡面を超えてはいけません(図4)。
また、円筒の個々の実直径が公差下限値の∅29.90 である場合、完全形状の包絡面の範囲内で、寸法の差分(この場合0.1mm)だけ変形してもよいとされます(図5)。
円筒の個々の実直径が公差下限値の∅29.95 である場合、完全形状の包絡面の範囲内で、寸法の差分(この場合0.05mm)だけ変形してもよいとされます(図6)。
いかがでしたか? サイズと幾何特性を切り分けて考えることで、幾何公差の存在意義が分かったのはないでしょうか。ただし、独立の原則や包絡の条件は、サイズと変形の考え方を組み合わせたにすぎません。次回は、幾何公差を使って位置精度指示する図面と、そのメリットを解説します。お楽しみに!
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 幾何公差とは?
- 第2回 位置に対する寸法公差と幾何公差の違い
- 第3回 幾何特性の種類と記号
- 第4回 データム記号と幾何公差の表記法
- 第5回 形状偏差の指示例と公差域の定義
- 第6回 姿勢偏差の指示例と公差域の定義
- 第7回 位置偏差の指示例と公差域の定義
- 第8回 振れ偏差の指示例と公差域の定義