前回は、固体高分子型燃料電池の現状を説明しました。最終回となる今回は、燃料電池の普及を広めていくための課題について解説します。燃料電池の稼働に必要な水素を今後どのように調達していくかは、非常に重要な課題です。地球環境に負荷をかけないことはもちろん、低コスト化も進めなければさらなる普及は望めません。将来の社会を見据えた視点で燃料電池の今後を考えていく必要があります。
第6回「燃料電池の課題と将来 」を解説していきます。
1. 水素の製造・輸送・貯蔵
燃料電池は、水素を燃料として発電します。石油や天然ガスのように資源として存在する一次エネルギーに対し、水素(ここでは水素分子 H 2 のことを表す)は燃料電池でそのまま使える状態では存在していません。現状では、石油や天然ガスから改質反応で取り出した、二次エネルギーとしての水素を燃料電池で利用しています。その他、水素の製造方法としては、コークスの製造工場や水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の製造工場から排出される副生水素を精製する、バイオマスの発酵から得られるエタノールを改質する、廃木材などを高温分解して得られるガスを精製する、などが挙げられます(図 1)。
前述の方法では、いずれにしても二酸化炭素(CO 2 )の発生を伴います。バイオマスの利用はカーボンニュートラルといわれますが、バイオマスの改質や燃焼を行う時点で二酸化炭素は排出されます。この排出分を植物が吸収し、真にカーボンニュートラルとなるには、長い時間が必要となることに留意したいものです。
現状、水素の製造工程では二酸化炭素が排出されていますので、燃料資源を得る段階から発電工程までの全てを考慮すると、燃料電池はまだ究極のクリーンエネルギーとは呼べません。しかし、例えば家庭用燃料電池エネファームは、燃料が持つエネルギーを電気および熱エネルギーとして高効率で利用できるため、得られるエネルギー単位量当たりの二酸化炭素排出量は、既存の火力発電所に比べて大幅に低減されます。
将来的には、燃料電池で利用する水素を、二酸化炭素を排出しない方法で大量に製造することが必要となります。その一つとして、風力発電や太陽光発電で得た電気エネルギーで水を電気分解する方法があります。これらの発電で得られた電力は、もちろんそのまま電気エネルギーとして利用されていますが、出力変動が大きいという課題があります。そこで、自然エネルギーで得られた電気によって水素を製造・貯蔵しておき、必要時に燃料電池で発電することで安定した電力を得るという方法が考えられます。
自然エネルギーの貯蔵方法としては、二次電池(充電式電池)の利用も可能です。ただし、二次電池は長期間の貯蔵時に徐々に自然放電してしまうというデメリットがあります。これに対し、例えば高圧にして貯蔵した水素は、いつまでも安定した状態で貯蔵できます。自然エネルギーを貯蔵しておくことは、自然災害などの緊急時対策としても有効です。二次電池に蓄えるか、高圧の水素で蓄えるかという二者択一ではなく、状況に合わせて両方法を使い分けるかたちで、さらに社会へ広く普及していくと考えられます。
将来の水素エネルギー社会を構築していくためには、大量の水素を効率よく製造し、これを安全に輸送・貯蔵することが求められます。同時にそのコストも低減していく必要があります。日本の NEDO プロジェクトの取り組みとして、海外で未利用の低品質な褐炭から水素を作り、これを日本に輸送するという計画が進んでいます。当然ながら、褐炭から水素を製造すると二酸化炭素が排出されます。これを地下の地層中に貯留させる CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という技術の開発も、合わせて進められています。さらに、水素を効率よく輸送するにはできるだけ体積を減らす必要があります。大量の水素を超高圧に圧縮するよりも大幅に体積を減らすことができる液化水素の状態(体積は気体の 800 分の 1 に減少)で輸送する計画があり、運搬するための船の製造も進行中です。ただし、水素を液化するには非常に大きなエネルギーが必要です。
大量の水素をより簡便に運搬する別の手段として有機化合物を利用する方法があり、NEDO プロジェクトとして進行中です。例えば、トルエンという有機化合物に水素を反応させると、メチルシクロヘキサンという化合物(水素化された有機化合物。有機ハイドライドと呼ばれる)に変化します。この化合物から必要時に水素を取り出して利用します(図 2)。
どちらの化合物も常温で液体として取り扱えることが利点です。ただし、トルエンの水素化時には発熱し、逆にメチルシクロヘキサンから水素を取り出すためには触媒を使って熱エネルギーを投入する必要があります。このように、有機ハイドライドを使った水素の貯蔵・運搬システムを構築するには、全体のエネルギー収支を考える必要があります。
その他に、水素をメタノール(CH 3 OH)やアンモニア(NH 3 )などの形で大量に貯蔵・運搬することも考えられます。水素の貯蔵・運搬にはどの方法が最適なのか、まだ答えがない状態です。さまざまな方法を試しながら、その時々の条件下で一番良いと考えられた方法が取られていくことになるでしょう。
2. 水素ステーション
燃料電池自動車(FCV)を普及させるためには、燃料の水素を充填する水素ステーションを増やしていく必要があります。2019 年 11 月末の時点で、日本国内に開設されている水素ステーションは 110 か所です(図3)。この他に、計画中の水素ステーションが 22 か所あります。東京と福岡を結ぶラインを中心に開設されていることが分かります。しかし、現状ではその設置費用が通常のガソリンスタンドの 3 倍程度かかっており、これを低減することが大きな課題となっています。
水素ステーションの数と FCV の数を増やすことは、ニワトリと卵の関係に例えられます。しかし、どちらが先かではなく、両者をバランスよく増やしていく必要があると思われます。2019 年 3 月に経済産業省が発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、FCV の普及目標として2025 年に 20 万台、2030 年に 80 万台という数字を出しています。これに対し水素ステーションは、2025 年に 320 か所、2030 年に 900 か所相当の設置を目標としています。
水素ステーションには定置式と移動式の 2 つの方式があります。定置式はさらにオンサイト型とオフサイト型に分けられます。オンサイト型では、水素ステーション内で天然ガスや LPG などを改質して水素を製造し、圧縮貯蔵します。オフサイト型では、別の場所にある工場で製造した水素を圧縮し、水素ステーションに運搬します。どの方式においても超高圧水素を扱うため、多くの安全対策が講じられています。
3. 白金のリサイクル
4. 燃料電池の普及には長期的な視点が必要
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 燃料電池とは何か?
- 第2回 燃料電池の種類1-低温形-
- 第3回 燃料電池の種類2-高温形・その他-
- 第4回 固体高分子型燃料電池を構成する材料
- 第5回 固体高分子型燃料電池の現状
- 第6回 燃料電池の課題と将来