燃料電池の原理は、19 世紀初頭に英国の化学者であり発明家であるデービー卿が初めて提唱したといわれ、1839 年には英国の化学者であるグローブ卿が、実験的に燃料電池で発電できることを発表しています。その後、多くの先人たちが燃料電池の開発に携わり、21 世紀の私たちの実生活で燃料電池が活躍するようになりました。今回は、燃料電池がどのような場面で使われているのかを解説します。
第5回「固体高分子型燃料電池の現状」を解説していきます。
1. りん酸形燃料電池(PAFC)の商用化
1990 年に設立された米国 ONSI 社は、200kW オンサイト型 PAFC をPC25 シリーズとして世界中に販売してきました(第 2 回参照)。この開発には日本の東芝も加わり、PC25C 型は 280 台、PC25 型機全体では300 台以上が世界中に出荷されています。
PAFC は 200℃程度の高温で運転されるため、その排熱を有効活用するコジェネレーションシステムとして、ホテルや病院などさまざまな施設に導入されています(図 1)。PAFC は、基本的に連続運転で使用され、導入施設内のベースロード(基礎負荷)電力を賄います。高温の排熱は、給湯の他、冷暖房用機器の熱源として利用します。
PAFC は、燃料として都市ガス(天然ガス)や LPG などを利用し、これらから改質器での化学反応によって取り出した水素を燃料電池に送り込んで発電します。その他の燃料源として、半導体工場で廃棄処理されていた洗浄剤のメタノールや、下水処理場の発酵処理槽から得られるバイオガス(メタンが主成分)などを有効利用する例があります。
東芝が PAFC の事業から離れた後、ONSI 社の技術は Doosan Fuel Cell社に引き継がれ、現在は米国の Doosan Fuel Cell America 社で 400kW級機の製造を続けています。
現在の日本国内で唯一の PAFC メーカーである富士電機は、1998 年から 100kW 級機に特化した商用機の製造・販売を続けています。2019年 3 月現在、累計 93 台が出荷されています(そのうち 76 台が稼働中)。その中で、新しい適用先としてデータセンターなどの防火システムがあります。発電した電気と排熱を利用する他に、正極から発生する低酸素濃度排ガスを建屋内に送り込み、室内を防火するシステムです(図 2)。従来のシステムでは騒音が大きくエネルギー消費量が多いのに対し、PAFC を使用したシステムでは静粛性が高くエネルギー効率も高いのが利点です。
2. 家庭用燃料電池「エネファーム」
定置用 PEFC(固体高分子形燃料電池)の用途の一つとして、一般家庭向けの開発が長年進められ、2009 年には世界初の家庭用燃料電池「エネファーム」の一般販売が始まりました。現在、販売されている最新モデルの定格出力は 700W で、不足する分は電力会社からの電力を使います。
エネファームは、燃料電池ユニットと貯湯ユニットから構成され(図 3)、全体の寸法は高さ 1,650mm、幅 400mm、奥行 350mm です。
燃料の都市ガス(メタンが主成分)には、ガス漏れ時に感知できるよう付臭剤(硫黄化合物)が含まれています。この付臭剤が改質器の触媒を劣化させるため、まず脱硫装置で硫黄化合物を除去します。その後、燃料は水蒸気とともに改質器に入り、次の反応を経て水素が取り出され、燃料電池スタックの負極へ導入されます。
CH
4
+ H
2
O → 3H
2
+ CO ・・・(1)
CO + H
2
O → H
2
+ CO
2
・・・(2)
CO + 1/2O
2
→ CO
2
・・・(3)
全反応式 CH 4 + 2H 2 O → 4H 2 + CO 2
(1)の反応で、水素とともに濃度 10% 程度の CO が生成します。このCO は、運転温度が 80℃程度の PEFC では、電極触媒に使われているPt の表面に強く吸着してしまい、触媒の活性を低下させます(被毒)。この CO 濃度を下げるために、(2)の反応で水素を生成しながら CO 2 へと変換します。しかし、この段階でもまだ 5,000ppm(0.5%)程度のCO が残存し、Pt 触媒を徐々に被毒します。そこで、さらに(3)の反応を進めることで、CO 濃度を 10ppm 以下まで低下させます。このような微量の CO であっても、長期の運転により負極の電極触媒は徐々に劣化していきます。これを防ぐために、負極にはルテニウム(Ru)と Ptを合金化させた触媒などが使われます。
燃料電池での発電時には熱も発生します。この熱を外部に捨てず、お湯を作って貯湯槽に貯め、給湯や暖房などに使うことでエネルギーを最大限に有効利用します。最新型のエネファームが定格運転しているときのエネルギー効率は、発電効率が 40.0%、熱回収効率が 57.0%(いずれも低位発熱基準─燃料電池の反応で生成する水が気体の状態─で計算)となっており(東京ガスのウェブサイトhttps://home.tokyo-gas.co.jp/living/enefarm/panasonic/index.html よ り引用)、総合エネルギー効率は 97.0% にもなります。従来の一般的な火力発電では、発電所から家庭に送電されるまでに 60 ~ 65% のエネルギー損失があります。つまり、家庭で使えるのは元の燃料が持つエネルギーの 35 ~ 40% です。これに比べてエネファームでは、投入した都市ガスのエネルギーのほとんどを利用し尽くしており、CO 2 の排出削減に大きく貢献していることになります。
PEFC 型のエネファームに加えて、2012 年には SOFC(固体酸化物形燃料電池)型のエネファーム Type-S の販売が開始されました。PEFC に比べて SOFC の発電効率は 52%(低位発熱基準)と高く、逆に熱回収分は低くなります。どちらのタイプを選ぶかは各家庭での利用条件によって変わってきます。お湯よりも電気を多く使うという家庭では、SOFC タイプの方が向いているでしょう。
3. 燃料電池自動車
4. その他の適用例
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 燃料電池とは何か?
- 第2回 燃料電池の種類1-低温形-
- 第3回 燃料電池の種類2-高温形・その他-
- 第4回 固体高分子型燃料電池を構成する材料
- 第5回 固体高分子型燃料電池の現状
- 第6回 燃料電池の課題と将来