前回は、主な燃料電池の種類と発電原理について解説しました。今回は、その中でも特に一般家庭や自動車用途に導入が進む固体高分子形燃料電池(PEFC)のセル構造と、そこに使われる材料について解説します。
第4回「固体高分子型燃料電池を構成する材料」を解説していきます。
第4回もくじ
1. セルの構造
図 1 に PEFC のセル構造の概要を示します。電池を英語でセル(cell)と呼び、負極・正極を含めさまざまな材料を組み合わせて構成された最小単位を単セルと呼びます。この単セルを数多く積層したものがスタック(stack)であり、家庭用燃料電池や燃料電池自動車に組み込まれ、発電を行っています。
単セルの構成材料は、まず中心に電解質となる固体高分子膜(厚さ数10μm 程度)があり、その両面に負極層と正極層(それぞれ厚さ数 10μm 程度)が形成されます。ここには、各極の電気化学反応を進めるための触媒(基本的には Pt 触媒)が含まれています。その外側には、炭素繊維で作られたカーボンペーパーなどの多孔質体層(厚さ数 10μm ~百数 10μm 程度)が、ガス拡散層として配置されます。そして、これらを 一 体 化した もの が 膜 ー 電 極 接 合 体(MEA:MembraneElectrode Assembly)です。この MEA を積層してスタックを作るために、ガス流路が形成されたセパレータ(厚さ約 0.5 ~数 mm 程度)が各MEA の間に配置されます。
燃料電池自動車では、限られた空間にスタックを収めるため、単セルの厚さをできるだけ薄くし、スタックの寸法をコンパクトにすることが求められます。そのため各部材の厚さを薄くする必要がありますが、それによって例えばセパレータでは機械的強度が低下してしまいます。また固体高分子膜では、薄くすることでセルの内部抵抗を低減できますが、一方で機械的強度の低下はもちろん、水素と酸素が膜を通り抜ける現象(ガスクロスオーバー)が起こり、化学的劣化が進みやすくなります。電池性能や耐久性などのさまざまな要求特性を満たすために、各材料の開発とそれらの組み合わせの検討が長年続けられ、現在の家庭用燃料電池や燃料電池自動車の一般販売に至りました。もちろん、現在も各材料のさらなる改良が続いています。
2. 電極触媒
燃料電池の性能を大きく左右するのが、負極と正極に使われている電極触媒です。いわば燃料電池の心臓部といってもよい材料です。比較的低温(80℃程度)で稼働する PEFC では、負極の水素酸化反応と正極の酸素還元反応を速やかに進めるために、高活性な触媒として Pt が基本的に使われます。負極よりも正極の反応の活性化エネルギー(反応を進めるために超える必要のあるエネルギーの山)が大きいため、正極の触媒活性をより高める必要があります。
触媒反応は物質の表面で起こるため、触媒の活性を上げるためには、その表面積を大きくする必要があります。つまり、Pt 材料をより小さな粒子にして使うことが求められます。しかし、単純に Pt を小さな粒子にしようとすると粒子同士が凝集し、触媒として働く露出表面は逆に少なくなってしまいます。
そこで、小さくした Pt 粒子が凝集しないように、下地材(担体と呼ばれます)となる材料の表面に分散させて固定化するという方法で Pt 触媒を製造します。これに加え、電極反応が速く進むためには、電子が速く移動する必要があります。従って担体には、高い電子伝導性を持ち、かつ比表面積(単位質量当たりの表面積)が大きい材料が使われます。基本的にはカーボンブラック(粉末状炭素)のような材料です。
図 2 に示したとおり、カーボン担体上には数 nm 程度の大きさの Pt 粒子が担持(担体の上に粒子を固体化すること)されます。担体の比表面積が単純に大きいほど良いというわけではありませんが、小さすぎると Pt 粒子が凝集してしまうため、適度に大きな比表面積をもつ担体が用いられます。
図 3 はカーボン担持 Pt 触媒の透過型電子顕微鏡写真です。写真中の小さな黒い粒が Pt 粒子です。計算上、直径 2nm の Pt 粒子の比表面積は約 140m 2 /g となります。
触媒の Pt は、資源量が少なく非常に高価な材料のため、使用量をできるだけ抑える必要があります。触媒の活性を比較する場合、Pt 単位質量当たりの表面積 (cm 2 /g-Pt) と電池出力 (A/g-Pt) を、いかに増加させるかという点が重要となります。そこで、触媒活性を次の式で表すことで、異なる触媒の活性を比較検討することができます。
質量活性 (A/g-Pt) = 比活性 (A/cm 2 -Pt) × 比表面積 (cm 2 /g-Pt)
電池出力(電流値)すなわち質量活性は、Pt 触媒の比表面積に比例すると考えることができます。上記の式の比例定数部分は比活性と呼ばれ、Pt 単位表面積当たりの出力(電流値)となります。この式から、触媒の質量活性を上げるには、「触媒の比表面積を上げる」「触媒の比活性を上げる」という2 点を検討していくことになります。
まず、触媒の比表面積を上げるために最も基本となるのは、担体のカーボンの比表面積を上げることです。また、同じカーボン担体を用いても、触媒の製造方法によっては Pt の比表面積が変化します。どのような方法で Pt を担持するかは、各触媒メーカーが量産性も考慮に入れたそれぞれのノウハウで製造しています。
もう一つの変数である、触媒の比活性を上げるには、触媒を Pt と他の元素と組み合わせた合金とする方法があります。これも、組み合わせる元素や製造方法によって活性が変わってきます。最近では、計算化学を取り入れた合金組成の検討も進んでいます。さらに最近では、Pt 以外の元素の粒子表面に 1 ~ 2 原子層だけ Pt 層を形成させるコアーシェル型触媒の研究開発が行われています。これにより、粒子の大きさは同じでも質量活性が大きく向上し、Pt の使用量を減らすことができるという結果が得られており、これを量産するための検討も世界中で進んでいます。
また、高価な Pt の使用によるコストを下げるために、Pt を使わない触媒の研究開発も進められています。今後も Pt 触媒、非 Pt 触媒のどちらも活性向上させるための開発が、精力的に進められていくことでしょう
3. 固体高分子膜
4. 膜ー電極接合体(MEA)
5. セパレータ
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 燃料電池とは何か?
- 第2回 燃料電池の種類1-低温形-
- 第3回 燃料電池の種類2-高温形・その他-
- 第4回 固体高分子型燃料電池を構成する材料
- 第5回 固体高分子型燃料電池の現状
- 第6回 燃料電池の課題と将来