前回は、比較的低温度領域で作動する燃料電池について解説しました。今回は、高温度領域で作動する燃料電池の基礎知識(発電原理、特長、開発の歴史など)を解説します。また、燃料として直接水素を導入しない種類の燃料電池についてもいくつか紹介していきます。
第3回「燃料電池の種類2-高温形・その他-」を解説していきます。
1. 溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)
溶融炭酸塩形燃料電池(以下 MCFC)の発電原理を図 1 に示します。電解質には Li や K の炭酸塩の混合物が使われます。600 ~ 700℃程度の運転温度では電解質が溶融状態になっており、炭酸イオン(CO 3 2- )が電解質中を移動します。電解質の炭酸塩が溶融状態で稼働することから、溶融炭酸塩形と呼ばれます。
燃料として負極に導入された水素は電解質中のCO 3 2- と反応し、水と二酸化炭素が生成します。この時に生じた電子が正極へ移動し、外部回路で電気エネルギーとして利用されます。負極での反応には、やはり触媒が必要となります。稼働温度が比較的高いため、触媒には白金(Pt)などの高価な貴金属ではなく、ニッケル(Ni)などのより安価な金属が使用できます。
正極には酸素と二酸化炭素を導入します。これらが外部回路から移動してきた電子と電極上で反応してCO 3 2- が生成し、電解質中を負極へ向かって移動します。正極の反応にも触媒が必要で、Ni酸化物などが使われます。正極の反応には二酸化炭素が必要なので、負極で生成した二酸化炭素を正極にリサイクルして利用します。このため、MCFC の全反応式には二酸化炭素は見かけ上入っていません。
本連載第 1 回の 4 章で説明したように、現状では化石燃料由来の水素が燃料として使用されています。化石燃料の改質反応で水素を取り出す際、不純物として CO が生成します。MCFC では、負極触媒上で起こる次の反応により、CO も燃料として使用することができます。
CO + H 2 O → H 2 + CO 2
低温形燃料電池、特に固体高分子形燃料電池(PEFC)の場合、水素中に CO が含まれていると、使用する Pt 触媒の表面が被毒(表面の活性点に CO が吸着)されてしまいます。その結果、触媒活性が低下するため、十分な CO の除去が不可欠です(次回解説)。これに対し、MCFC では CO を除去せずに、そのまま燃料として利用できる点が大きな特長のひとつです。
MCFC は、高温で作動することから高い発電効率が期待されます。また、高温の排熱も有効利用でき、発電容量が数百 kW から MW 級のプラントが開発されてきました。日本では 1000kW 級プラントの開発まで進みましたが、商用化には至りませんでした。現在は、米国の Fuel CellEnergy 社が主要メーカーとして MW 級プラントを世界中に出荷しています。
2. 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
固体酸化物形燃料電池(以下 SOFC)の発電原理を図 2 に示します。各種燃料電池の中では SOFC の作動温度が一番高く、700 ~ 900℃程度で運転されます。酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO 2 )に酸化イットリウム(イットリア:Y 2 O 3 )を少量加えて安定化させた固体酸化物(イットリア安定化ジルコニア:YSZ)を電解質に使うため、その名がついています。この電解質中を酸化物イオン(O 2- )が移動することで発電します。
固体のセラミックス材料中を酸化物イオンが伝導する様子を図 3 に示します。ジルコニア(ZrO 2 )の結晶内には Zr 4+ と O 2- が規則正しく配列しています。ここにイットリア (Y 2 O 3 ) を少量加えると、Zr 4+ の一部が Y 3+ に置き換わります。そうすると、全体のイオンの電荷バランスをとるために、O 2- の一部が酸素欠陥の状態となります。温度が高くなると、この酸素欠陥を埋めようとして O 2- が移動するようになります。
SOFC は作動温度が高いため、貴金属以外の触媒で反応が十分に進みます。負極には Ni-YSZ 混合材料が、正極にはランタン(La)系酸化物が触媒として使われます。負極に導入された水素は電極表面で電解質の O 2- と反応し、水が生成します。この時に生じる電子が外部回路に取り出され、電気エネルギーとして利用されます。正極では外部回路から移動してきた電子と酸素が電極触媒上で反応して O 2- が生成し、電解質中を負極へ向かって移動します。
水素燃料として化石燃料の改質ガスを利用する場合、MCFC の章で説明したように、不純物として CO が含まれてきます。SOFC では、負極で次のような反応が起こり、この CO も燃料として利用することができます。
CO + O 2- → CO 2 + 2e ‒
SOFC は、作動温度が高いことで電解質中の酸化物イオンの伝導性や発電効率が向上します。その反面、電池に使われる材料の耐久性に問題が出てくることから、電池の寿命を延ばすために作動温度を下げる努力が続いています。このため、より低温でも酸化物イオン伝導性が高い材料の開発が進められ、現在では 700℃程度での運転が実現しています。
SOFC は、PEFC に比べて高い発電効率が得られることから、排熱利用(お湯として利用)よりも電気の利用が多い家庭用に開発が進み、「エネファーム Type S」という名称で 2012 年から販売が始まりました。その他、数 kW 級の SOFC が業務用途として、コンビニエンスストアやファミリーレストランなどに導入され始めています。
3. 直接メタノール形燃料電池(DMFC)
4. 水素以外を燃料として利用する燃料電池
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 燃料電池とは何か?
- 第2回 燃料電池の種類1-低温形-
- 第3回 燃料電池の種類2-高温形・その他-
- 第4回 固体高分子型燃料電池を構成する材料
- 第5回 固体高分子型燃料電池の現状
- 第6回 燃料電池の課題と将来