前回は、さまざまな形状の部材で応力拡大係数を計算する方法を紹介しました。今回は最終回です。応力拡大係数を使いながら、金属疲労き裂の進展速度を求めるパリス則を解説します。まずは、金属疲労き裂進展の3段階を見ていきましょう。
第8回「金属疲労き裂とパリス則」を解説していきます。
1. 金属疲労き裂進展の3段階
金属疲労は、材料強度と比較してはるかに小さな応力でも、繰り返し生じることによって、き裂が進展し破壊に至ります。疲労き裂の進展は、き裂の発生、き裂の進行、最終破断の3段階に分けられます(図1)。
第1段階では、き裂は金属結晶粒数個分のごく小さい範囲で発生し、応力方向に対して45度方向に傾いて進行します。この段階で、き裂を検出するのは、実際のところ不可能です。第2段階では、き裂は繰り返し応力に対して垂直方向に進行します。この段階では、疲労き裂の進展に対して何らかの対策を講じることができます。第3段階は最終破壊です。この段階のき裂は極めて速く進行するため、進行を食い止めることはできません。
2. S-N 線図と疲労限度
金属疲労による破壊事故は、産業革命の時代から重要な問題として扱われ、多くの研究が行われてきました。その成果の一つが、疲労試験によるS-N 線図です(図2)。疲労試験では、定められた条件下において、試験片に対し繰り返し応力を発生させ、破断するまでの繰り返し数をカウントします。S-N 線図は、繰り返し応力(Repeated Stress)を縦軸に、繰り返し数(Number of Cycles)を横軸にしてグラフ化したものです。膨大な数の疲労試験を実施することで、S-N 線図は作成されます。
S-N線図をデータに基づいて作成すると、分かることがあります。例えば、繰り返し応力が小さいと、破断するまでの繰り返し数は多くなります。これは、力が小さいので破断するまでに長い時間を要するという、常識的な感覚と一致します。また、鋼やチタニウム合金の場合、応力を小さくしていくと、繰り返し数を増やしても疲労破壊しない境界が現れます。この応力を、疲労限度と呼びます。使用する部材に対し発生する応力を疲労限度未満になるように設計すれば、理論上、疲労破壊は起こりません。
アルミニウム合金には、疲労限度が存在しないことが分かっています。そのため、疲労破壊を防ぐには、発生させる応力と一緒に使用時間(厳密には繰り返し数)を管理する対策が取られてきました。図3に、アルミニウム合金の疲労破断面の電子顕微鏡写真を示します。き裂の進行を示す、細かいしま模様(ストライエーション)が観察できます。
3. パリス則
4. パリス則を使った疲労進展予測
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 応力とは?強さとは?
- 第2回 弾性変形と塑性変形~破壊の前に起きること~
- 第3回 応力と応力集中
- 第4回 き裂と破壊
- 第5回 応力拡大係数と破壊じん性
- 第6回 応力拡大係数とき裂による破壊
- 第7回 応力拡大係数の計算方法
- 第8回 金属疲労き裂とパリス則