応力拡大係数とき裂による破壊|破壊工学の基礎知識6

破壊工学の基礎知識

著者:NDI Japan 代表 谷村 康行

前回は、き裂と強度の関係を説明しました。今回は、応力拡大係数と破壊の関係について、き裂のある材料における具体的な破壊条件と、ロケットの材料開発と破壊検査の事例を解説します。

第6回「応力拡大係数とき裂による破壊」を解説していきます。

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1. 破壊じん性とその意味

連載第5回で、破壊じん性値を求める試験方法を紹介しました。あらかじめ疲労き裂を入れたCT試験片に力を加え、き裂が急速に進展して破壊するときのき裂長さを測定します。また、き裂に対する力のかけ方には、3つのモード(モードI~III)がありました。表1に、代表的な材料に、モードIで力を加えたときの、破壊じん性値KIcと、引張強さを示します。ここでは、引張強さは降伏強さσy(塑性変形が始まる降伏点における応力)で示しています。

代表的な材料の降伏強さと破壊じん性値
表1:代表的な材料の降伏強さと破壊じん性値(モードIの破壊試験)

図1に、き裂の長さを横軸に、応力を縦軸に取った破壊じん性のグラフを示します。赤い曲線は破壊じん性を表し、き裂長さのルートに反比例しています。応力とき裂長さが曲線の下の領域にあれば、その部材は壊れません。曲線を超えると、き裂が急速に拡大して破壊します。この破壊の仕方を、線形弾性破壊といいます。また、ピンク色の横向きの直線は、引張強さを表しています。応力がこの線を超えると、き裂がなくてもその材料は大きく塑性変形を開始して、破壊します。この破壊の仕方を、塑性崩壊といいます。

き裂のある材料が線形弾性破壊する条件
図1:き裂のある材料が線形弾性破壊する条件

2. ソフトウェアで見る応力拡大係数と破壊じん性

筆者のブログでは、図1のようなグラフを簡単に描くことができるソフトウェアStress Intensity Factorを公開しています。図2は、高強度鋼(4340)のデータを設定した場合の実行例です。応力 200MPa、き裂長さ10mmは、赤い線の下側にあるので、破壊しないことが分かります。しかし、応力が200MPaのままでも、き裂長さが27mmを超えると、応力拡大係数が破壊じん性値 67MPa√mを超え、線形弾性破壊します。また、き裂長さが10mmのままでも、応力が388MPaを超えると、やはり応力拡大係数が破壊じん性値67MPa√mを超え、線形弾性破壊します。

ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、高強度鋼
図2:ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、高強度鋼(4340)

図3に、低合金鋼(A533B-1)のデータを設定した場合の実行例を示します。この材料では、応力200MPaの場合、き裂長さが100mmを超えても、線形弾性破壊しないことが読み取れます。低合金鋼(A533B-1)は、高強度鋼(4340)に比べ、き裂に対して強いことが分かります。

ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、低合金鋼
図3:ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、低合金鋼(A533B-1)

このように、同じ種類の材料でも、合金元素の配合を変えたり、熱処理をしたりすることで、引張強さを上げ、強い材料にできます。一般的に、材料は強くすると、破壊じん性が下がります。強くなっても、タフではなくなります。強くてタフな材料は作るのは、極めて困難です。

図2、図3の実行例の上部に、線香花火のような絵があるのに気付いたでしょうか?これは、き裂先端付近の応力の様子を示しています。応力拡大係数が大きくなると、き裂先端付近の応力も強くなります。応力拡大係数は、き裂先端付近の応力場の激しさを表す係数でもあります。応力拡大係数は、英語でStress Intensity Factorです。Intensityは激しいという意味なので、直訳すると、応力激しさ係数になります。

ソフトウェアの図解について、2点補足します。1点目は、このソフトウェアでは、き裂を無限平面の端にあると想定し、補正係数を1.12として、次の式で応力拡大件数を計算しています。

2点目は、実際の破壊現象を観測すると、じん性を示す曲線と引張強さを示す直線の交点近くは、図4の破線のようになります。この領域では、塑性変形が進みながら、き裂も進展していく壊れ方(弾塑性破壊)をします。この領域の分析には、J積分と呼ばれる手法を使う必要があります。ただし、このソフトウェアでは、考慮していません。

弾塑性破壊の領域
図4:弾塑性破壊の領域

3. ポラリスロケットの材料開発

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全8回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 応力とは?強さとは?
  • 第2回 弾性変形と塑性変形~破壊の前に起きること~
  • 第3回 応力と応力集中
  • 第4回 き裂と破壊
  • 第5回 応力拡大係数と破壊じん性
  • 第6回 応力拡大係数とき裂による破壊
  • 第7回 応力拡大係数の計算方法
  • 第8回 金属疲労き裂とパリス則

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