き裂と破壊|破壊工学の基礎知識4

破壊工学の基礎知識

著者:NDI Japan 代表 谷村 康行

これまでの連載では、応力や弾性変形、塑性変形、応力集中などの用語を紹介しながら、き裂と材料の強さを解説してきました。今回は、き裂が大きくなる条件について説明します。

第4回「き裂と破壊」を解説していきます。

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1. グリフィスの実験と研究

き裂は、部材の一部が分離している状態です。部分的に壊れた状態ということもできます。き裂が進展すると、部材は2つ以上に分離し破壊に至ります。破壊力学という学問では、部材に発生したき裂が、それ以上進展するかの判断や進展する条件を考察します。

破壊力学の礎を築いたのは、英国の王立航空研究所に勤務していたアラン・アーノルド・グリフィス(Alan Arnold Griffith)です。グリフィスは、材料の強度を研究していました。彼が着目したのは、材料の理論強度と実際の強度に10倍以上の開きがあることでした。

材料が外からの力(外力)を受けても分離しないのは、材料内に抵抗する力(内力)が働いているためです。その内力の源は、原子と原子を結びつけている原子間力です。原子間力とは、プラスの電荷とマイナスの電荷が引き合う力(クーロン力)であり、原子の配列が分かれば算出できます。この算出された材料の強さが、理論強度です。

しかし、材料の破壊試験で確認される実際の強度は、理論強度の10分の1以下でした。グリフィスは、この原因を、材料の中に欠陥があり、そこから破壊が進展するからではないかと考えました。彼はユニークな実験でこのことを実証しました。太さを変えたガラス繊維を引張試験にかけて、引張強さを測定したのです。図1のグラフは、1921年に発表されたグリフィスの論文に掲載されているデータを基にして、著者が作成したものです(単位をinch・lbから、mm・MPaに変換)。

ガラス繊維の直径と引張強さ
図1:ガラス繊維の直径と引張強さ(データ参照元:A.A.Griffith、The Phenomena ofRupture and Flow inSolids、PhilosophicalTransactions of the Royal Society、1921年)

このグラフから、ガラス繊維の直径が0.1mmよりも小さい領域では、直径が小さくなるほど、引張強さが増すことが分かります。細いガラス繊維の場合、内部に生じた欠陥の最大サイズは、ガラス繊維の直径以下です。グリフィスは、ものが壊れる要因として重要なのは、材料の中にある欠陥の数よりも、欠陥の最大サイズであると考えました。

グリフィスは、もう一つ重要な実験をしています。ガラスの球と管にき裂を入れたサンプルを作り、中に空気を送り込んで圧力を加えて、破裂させました(図2)。き裂のサイズと破壊の関係を調べたのです。ガラスなので、き裂の長さは分かります。球もしくは管の直径と厚さと圧力が分かれば、生じている応力は計算で求められます。破壊時の圧力が分かれば、き裂のあるガラスの強度が分かります。ちなみに、厚さは破壊してから破片を集めて測定しました。破壊時の応力とき裂サイズの関係を示したのが、図3です。

グリフィスが行ったき裂と破壊の実験
図2:グリフィスが行ったき裂と破壊の実験(参照:A. A. Griffith、The Phenomena ofRupture and Flow inSolids、PhilosophicalTransactions of the Royal Society、1921年)
ガラスにあるき裂と強度の関係
図3:ガラスにあるき裂と強度の関係(データ参照元:A. A.Griffith、The Phenomena of Rupture andFlow in Solids、Philosophical Transactions ofthe Royal Society、1921年)

この実験により、破壊時の応力(強度)は、き裂長さのルートに反比例することが分かりました。この結果から、グリフィスはき裂が急速に進展する条件を導き出しました。

2. き裂が成長する条件

グリフィスは、き裂が進展するかしないかの条件を、エネルギーバランスの観点から考えました。外部から力が加えられた部材の中には、応力が生じています。また同時に、応力に応じたひずみも生じています。き裂が生じると、き裂の周辺では力が伝わらないため、弾性ひずみエネルギーが消失します。この消失したエネルギーは、どこに行ったのでしょう。グリフィスは、新たに生じたき裂面の表面エネルギーに変換されたと考えました(図4)。

き裂によって消失する弾性ひずみエネルギーと、新たに生じる表面エネルギー
図4:き裂によって消失する弾性ひずみエネルギーと、新たに生じる表面エネルギー

き裂の先端で、き裂がわずかに進展するとき、消失する弾性ひずみエネルギーの減少率dU E /daと、き裂の進展による表面エネルギーの増加率dU S /daは、以下の式で表すことができます。

ここで、U E は弾性ひずみエネルギー、σ n は周囲の平均応力、Eは縦弾性係数(ヤング率)、U S は表面エネルギー、γ S は単位面積当たりの表面エネルギーです。き裂が進展する条件は以下になります。

さらに、き裂のある部材の強度σ f を、以下の式で表すことができます。

3. き裂のある部材の強度

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全8回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 応力とは?強さとは?
  • 第2回 弾性変形と塑性変形~破壊の前に起きること~
  • 第3回 応力と応力集中
  • 第4回 き裂と破壊
  • 第5回 応力拡大係数と破壊じん性
  • 第6回 応力拡大係数とき裂による破壊
  • 第7回 応力拡大係数の計算方法
  • 第8回 金属疲労き裂とパリス則

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