鍛造材料の種類と性質|鍛造加工の基礎知識3

鍛造加工の基礎知識
著者:名古屋工業大学 電気・機械工学専攻 機械工学分野 教授 北村 憲彦

前回は、鍛造の加工工程、鍛造で生じる欠陥の種類、新しい鍛造加工法を紹介しました。今回は、鍛造加工で用いられる材料の種類と、鍛造材料の選定に重要な変形抵抗や塑性異方性を取り上げます。

第3回「鍛造材料の種類と性質」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 鍛造材料の種類と熱処理

鍛造加工でよく用いられる材料には、鉄鋼、機械構造用合金鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金などがあります。それぞれの使用用途や特徴を解説します。

・鉄鋼
鉄鋼(スチール)は、代表的な鍛造材料の一つです。大きな力が繰り返し作用する環境で、高い安全性・信頼性が求められる量産部品に用います。例えば、自動車のシャシーや、エンジン周辺のクランクシャフト・コンロッド・エンジンバルブ・トランスミッションなど変速機のギア部品、ボルトやナットなどの工業用ファスナー部品などです。JIS(日本工業規格)の分類では、機械構造用炭素鋼や機械構造用合金鋼が多く、特殊な用途では軸受鋼やばね鋼も採用されています。また、これらの材料をベースに、製品の特性に合わせた改良鋼が開発されることもあります。鉄鋼にはさまざまな種類があり、S40C、S53C のように、JIS で固有記号が付けられています。例えば、S40C の最初のS は材質の鋼(Steel)を、次の40C は、0.40%の炭素(Carbon)を含有していることを表しています(図1)。数字が大きいほど炭素含有量が多く、鉄と炭素が結び付いた硬いセメンタイトが増えるので、より硬い材料となります。

鉄鋼材のJIS記号
図1:鉄鋼材のJIS記号

鉄鋼を表す記号は、日本ではJIS 規格がよく用いられます。海外では別の規格で規定された材料記号を用います。主な国で用いられている材料記号をまとめました。

炭素鋼の材料記号
表1:炭素鋼の材料記号
軸受鋼の材料記号
表2:軸受鋼の材料記号
ばね鋼の材料記号
表3:ばね鋼の材料記号

クランクシャフトやコンロッドには、S40C からS48C などの機械構造用炭素鋼が、等速ジョイントには少し硬いS48C からS53C などが用いられます。なお、冷間鍛造では、より軟らかいS35C、S25C、S15C なども使われます。これらの製品では、800MPa 以上の引張強度を保証する必要があり、鍛造後に焼入れ・焼戻しの熱処理を施します。焼入れで硬くすると、じん性が低下して割れやすくなるため、焼戻して粘さを取り戻します。熱処理後、特に10μm 以下の高精度な部分には、切削や研磨加工を行い、製品に仕上げます。材料がS45C の場合は、820℃~ 870℃に加熱した材料(少し明るい橙色)を水で急冷して焼入れし、その後、550℃~ 650℃(暗い場所でほんのり赤みを帯びる)まで温度を上げてから、放冷して焼戻します。

かつては、熱間鍛造のために材料を約1,000℃まで加熱し、鍛造後に室温で冷ましてから、熱処理のために再び加熱していました。しかし最近では、これらの部品のほとんどは、非調質鋼で作られています。非調質鋼とは、熱処理(焼入れ・焼戻し)が不要な特殊な鋼で、炭素や微量のバナジウムV などが添加されています。非調質鋼では、一度冷ました材料に再び熱処理を施さなくても、熱間鍛造後の自然な放冷だけで、焼入れ・焼戻し並みの製品強度が得られます。再加熱に必要なエネルギーや、二酸化炭素の排出量を削減するだけでなく、コスト削減にも貢献しています。

・機械構造用合金鋼
機械構造用合金鋼は、ギアやスプラインなどの歯形部分のある部品や、高強度のボルトなどに使われます。摩耗しないように表面を硬くする必要があり、炭素以外にもクロムCr、モリブデンMo、ニッケルNi などを添加して、鋼の焼入れ性を高めています。焼入れ性が高い材料は、高周波焼入れや浸炭焼入れ・焼戻しなどによって製品の表面だけを硬くし、歯の芯の部分は粘さを残すように工夫します。

・ステンレス鋼
鍛造で使われる代表的な鉄鋼材料には、ステンレス鋼やばね鋼SUP6(別称:ばねろく)、軸受鋼SUJ2 などの種類があります。ステンレス鋼の鍛造では、成形時に割れの原因となる介在物の偏析(もろい化合物が材料内部に集まる現象)を抑える必要があります。そのため、清純度を高めた素材に連続鋳造・連続圧延を開始する段階から、注意を払って製造されています。

・アルミニウム合金
鉄鋼以外の鍛造材料として多く用いられているのは、アルミニウムです。アルミニウム合金は、純度の高い1000 番系(純アルミニウム)から、高い強度を有する7000 番系まで、含まれる元素によって分類されています。製品の用途に応じ、材料と熱処理が選定されます。熱処理の種類には、 高温の製造工程から冷却後、自然に硬化させたT1 処理や、6000 番系のアルミ合金に焼入れ・焼なましを行うことで強度を向上させるT6 処理などがあります。

2. 変形抵抗と引張強さ

鍛造加工の材料で重要なパラメータの一つに、変形抵抗(降伏応力、塑性流動応力)があります。変形抵抗とは、外力に対して変形しないように抵抗する強さのことです。材料に小さな荷重を加えても、塑性変形しません。材料が外からの力に対して変形しないように抵抗して、その瞬間の形を維持しているためです。 変形抵抗は、真応力で表します。真応力とは、引張試験のように材料が均一に変形しているときの荷重を、変形中の瞬間ごとの断面積で割った値です。実際の鍛造において、変形している材料の中に生じている内力を、単位面積当たりで表すのも真応力です。真応力を使うことで、複雑な材料内部の力の分布状態を表現することができます。

変形抵抗に似たパラメータに、引張強さがあります。材料の引張強さは、ミルシート(圧延材料の機械的特性が記載された書類)に示されています。引張強さは、材料を引張試験したときの最大荷重を、試験する前の断面積で割った値で、公称応力で表します。引張強さと変形抵抗は同義ではないものの、引張強さが大きい材料は、変形抵抗も大きい傾向にあります。

図2 に炭素鋼S15C(ひずみ速度30s -1 )の、各材料初期温度における、ひずみと変形抵抗の関係を示します。材料初期温度が0℃と200℃の場合、変形して大きなひずみになると変形抵抗は大きくなり、硬度と強度が高くなります。この現象を、加工硬化(ひずみ硬化)といいます。

ひずみと変形抵抗との関係
図2:ひずみと変形抵抗との関係

焼なましを施すと、加工硬化は取り除かれ、軟化します。そのため、材料の初期温度が高い場合、変形しても材料が硬くなることはありません。図2 の材料初期温度800℃では、変形が進んでも、変形抵抗は小さいままです。中間に位置する400℃、600℃は、0℃、200℃と比べて変形特性が単純でないことが分かります。

ひずみ値による変形抵抗の検証を紹介します。図3 に、炭素鋼S15C(ひずみ速度30 s -1 )の各ひずみ値における、温度と変形抵抗の変化を示します。

温度と変形抵抗との関係
図3:温度と変形抵抗との関係

ε=0.7 では、材料の温度が上がると、変形抵抗が次第に下がっていくのが分かります。ε=0.7 は、材料の長さが約2 倍に伸びるか、高さが半分程度になる変形に相当します。これは、鍛造ではよくある変形です。ところが、ひずみが0.5、0.2、0.1 と小さくなるにつれて、温度200 ~600℃の間では、温度が上がると材料の変形抵抗がやや増える現象が見られます。このとき、材料は若干のもろさを示します。この温度範囲で、材料の表面がさっと青みを帯びる瞬間があることから、この現象を青熱ぜい性といいます。その場合、炭素鋼は変形しにくく、割れやすくなるので、鍛造ではこの温度域を避ける必要があります。

鍛圧機械で材料を圧縮する速度は、100 倍近くにも変えることができます。図4 に、変形速度の違い(高速、低速)による、材料の加工硬化の様子を示します。高速変形の線が太いのは、高速変形の変形抵抗を測定する際には、温度や変形領域、摩擦などの影響によって測定値に幅が出てくるためです。

低速と高速の変形における加工硬化の様子(S25C引抜き材の例)
図4:低速と高速の変形における加工硬化の様子(S25C引抜き材の例)

多くの材料は、程度の差こそあれ、図4 と同じような特性を示します。低速変形では、ひずみが増えると、変形抵抗が徐々に上がり、硬く、強く、もろくなります。一方、高速変形では、変形が大きいほど変形発熱が大きいため、軟らかくなり、加工硬化しないように見えます。この差は、冷間鍛造の際に生じます。約1,000℃の熱間鍛造では、ゆっくり変形させたとき変形抵抗は小さく、高速で変形させたとき変形抵抗は高くなります。ただし、小さな材料をゆっくり変形させたときは、材料温度の低下によって変形抵抗が上がりやすく、大きな材料では加工時間中の温度は緩やかに下がるので、変形抵抗への影響は小さくなります。このように、変形抵抗は、ひずみ・温度・変形速度に依存し、温度は材料の大きさによっても影響の程度が変わります。

3. 割れの原因

4. 塑性異方性

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 鍛造加工とは?鍛造加工の種類は?
  • 第2回 鍛造加工の工程と欠陥
  • 第3回 鍛造材料の種類と性質
  • 第4回 鍛造の金型材料・型コーティング・潤滑剤
  • 第5回 鍛造に関する力学
  • 第6回 鍛造機械の種類と特徴

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