前回は、技術者が最もけがをしやすい、手と指先の安全対策について解説しました。今回は、工場内で工事をする際の安全対策を説明します。工事の安全対策は、準備段階、作業中、工事完了後の3つに分けられます。各ポイントを押さえることで、工事中の事故発生を防ぎましょう。
第4回「工場における工事の安全対策」を解説していきます。
1. 工場工事の準備段階の安全対策
まずは工場内で工事する際の準備段階における安全対策を解説します。工事を依頼する時の注意点、依頼者と請負側の協力、工事計画書の策定、クレーンの選定・設置計画の4項目です。
1:工事を依頼する時の注意点
工事を依頼する場合、複数の業者から見積もりを取り、同じ条件であれば安い業者を選ぶのが定石です。この時、見積仕様書に、安全上の注意事項や要求事項を明確に書いたかを、確認していますか?
工場での工事で安全上注意すべきことを、お互いに把握できているかを確認しましょう。例えば、可燃物のタンクが近くにあることや、高圧電線が通っているなどの危険源です。この段階で依頼者側の提供するものと、請負側が用意するものを明確にしなかったために、工事当日、安全用具が現場にないというトラブルもしばしば起きています。見積仕様書に安全養生などの明細が書いてあれば、請負側が安全対策をどこまで具体的に想定できているかチェックできます(図1)。見積額は少々高くても、安全対策をしっかり考慮している業者を選ぶ方が、安心して工事を任せられます。
2:依頼者と請負側の協力
工場で工事を行う際、作業者は2 つの立場に分かれます。工事の依頼者と請負側です。両者は、金銭面などでは利害が対立するかもしれません。しかし、安全面での利害は一致します。依頼者側は、自分の工場で事故を起こしてほしくありません。請負側は、作業者にけがをさせたくありません。両者は安全については全面的に協力する立場にあるのです。
3:工事計画書の策定
事前の工事計画書の策定は、非常に大切です。特に重機が絡んだ事故が起きると、大事故になる場合があります。例えば、2004 年に米国カリフォルニア州ウォルナットクリークで起こった事故では、掘削用重機の先端が地中のガソリン用パイプラインを破壊してしまいました。漏れたガソリンに引火して爆発が起こり、5 名の作業者の命が失われました。
このように大きな危険を伴う重機作業では、重機の搬入から作業、搬出までの作業フローを、具体的に決めておくことが大切です。掘削機を使用する場合、地中に何が埋まっているのかを把握していれば、危険を回避することができます。しかし、敷地内の全ての埋設物を正確に図面に残している工場は、ほとんどないのが実情です。自然のままの荒れ地に一から工場を建てる場合を除き、どこかに何かが埋まっていると考えた方が無難です。配管や電線が埋設されている場合は、工事中はできる限り使用を停止しましょう。
4:クレーンの選定・設置計画
工事中に設備・装置を設置するため、クレーンを利用することは少なくないでしょう。クレーン作業は、重量物を吊って上げ下げするだけでも危険性の高い作業です。クレーンが強風で倒れたり、地盤が緩かったために転倒したりと、さまざまな事故が発生しています。
工事の準備段階で最初に行うことは、クレーンの選定です。クレーンを設置する場所、吊り荷を上げ下ろしする地点、吊り荷の重量を考慮して、目的を満たせる機種を選びます。
既存工場でクレーン作業を計画する場合には、正確な平面図上に設置予定のクレーンを書き足して確認します。この時、クレーンの主要寸法図、作業半径揚程図、定格総荷重表などから情報を得ることが必要です(図2)。これらはクレーンの仕様書に記載されているので、クレーンメーカーのカタログを入手し、確かめましょう。なお、荷重の計算には吊り荷の重量のほかに、シャックルやワイヤなどの吊り具、クレーンフックの重量を加算して考えます。作業時のクレーンには動荷重もかかるので、吊り上げ能力に30%程度は余裕のある機種を選びましょう。
吊り荷にどのようにワイヤやスリングを掛けるかは、プロの腕の見せどころです。壊れやすい荷を吊る場合は、事前に専用の吊り金具やフレームなどが必要になる場合もあるので、依頼者とクレーン業者との打ち合わせも大切です。
2. 工場工事の作業中の安全対策
準備段階を終えたら、いよいよ工事に入ります。工事前に押さえるポイント、工事中の変更対策の2項目を取り上げて説明します。
1:工事前に押さえるポイント
ある程度大きな工事の場合、各専門業種の人たちが、工事請負会社の監督下で作業します。このような場合には、当日初めて現場に来る作業者もいます。作業前に、現場で安全上の注意点を、彼らに確実に伝えなければなりません。現場で着用が必要な保護具のルール、緊急時の対処方法、喫煙ルールなども説明が必要です。一番重要なメッセージは、けがをせず、無事に家に帰ることが作業者の一番重要な仕事だということです。これらの説明を誰がいつ行うのか、事前に決めておきます。作業者も、自分や仲間がけがをしないことが一番大切だという気持ちで、作業に取り掛かりましょう。
経験豊富な作業者は、誰かから安全上の注意を受けた場合に、やり慣れた作業にとやかく言われたくないと感じるかもしれません。しかし、自分の身を案じてくれたのだと広い心で受け止め、身を引き締めるきっかけとしましょう。
工事を依頼する側も、作業をする側も、工事を始める前に安全上何が問題かを把握して、その対策を持って作業に取り掛かるようにしましょう。
2:工事中の変更対策
工事中に、想定外の事態が起こり、変更が生じることは少なくありません。実は、ほとんどの大事故は、工程に変更が生じた時に、十分な危険分析をしなかったために発生しています。何かしらの工程変更が生じた場合には、忘れずに安全確保の検証を行ってから作業に入りましょう。
誰かが作業を間違えることも、当然あります。間違いは予定変更を余儀なくするものなので、人はそれをなかったことにしたいという心理になりがちです。そのために、安全ルールを無視した行動を取ったり、ミスを隠したまま作業を続けてしまうことこそが、2度目の間違いです。致命的な事故は、こうした負の連鎖で起きている例が少なくありません。作業を間違えたら、正直に間違えたと言いだせる現場が、安全な現場です(図3)。間違いによる損失は、お金で償うことができるかもしれません。しかし、人の命は、お金で償うことはできません。
3. 工場工事の完了後の安全対策
全5回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 工場の事故の原因
- 第2回 反復的負荷障害とエルゴノミクス
- 第3回 手と指先の安全対策
- 第4回 工場における工事の安全対策
- 第5回 ロックアウト・タグアウトとは