エンジニアリングプラスチック(以下、エンプラ)とは、機械的強度や耐熱性を向上させたプラスチックです。自動車部品や機械部品、電気・電子部品のような工業用途に使用されています。技術者の皆さんには身近な工業用素材なのではないでしょうか? 本連載では全8 回で、エンプラの基礎知識を解説していきます。第1 回は、エンプラの定義、汎用エンプラやスーパーエンプラの特徴を駆け足で見ていきます。
第1回「エンプラの種類と特徴」を解説していきます。
1. プラスチックとエンプラの違い
日本において、プラスチックの工業化が本格的に始まったのは、戦後1950 年代のことです。プラスチックにはさまざまな種類があり、その分類は多岐にわたります。
原料による分類
バイオマス系(再生可能な原料)と化石燃料系(再生不可能な原料)に分類されます。
加熱時の挙動による分類
プラスチックは加熱により溶融し、成形が可能となります。成形し、冷却固化した後に再加熱すると溶融する「熱可塑性樹脂」と、加熱により三次元硬化し冷却後は再加熱しても溶融しない「熱硬化性樹脂」とに分類されます(図1)
耐熱性、経済性などによる分類
熱可塑性樹脂は、耐熱性、機械的特性、経済性などにより、汎用熱可塑性樹脂、汎用エンプラ、スーパー(特殊)エンプラに分類されます。
結晶化度の差異による分類
結晶性樹脂、非晶性樹脂、液晶ポリマーに分類されます。
日本プラスチック工業連盟が発表したプラスチック原材料生産実績によると、2015 年の日本のプラスチックの生産量1,084 万トンのうち、エンプラ関連材料(PC(ポリカーボネート)、PA(ポリアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、POM(ポリアセタール・ポリオキシメチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、FR(フッ素樹脂))は86.6 万トンと7.9%を占めています。内訳としては、PC(ポリカーボネート)が最多で29.4 万トン、次いでPA(ポリアミド)が21.7 万トン、以下PBT(ポリブチレンテレフタレート)18.9 万トン、POM(ポリアセタール・ポリオキシメチレン)10.0万トン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)3.9万トン、FR(フッ素樹脂)2.8 万トンです。
2. エンプラの定義と歴史
元デュポン社の松島哲也氏(日本におけるエンプラのパイオニア。エンプラの本(旧エンプラ技術連絡会)など数多くの著書を執筆)によると、エンプラとは、自動車部品や機械部品、電気・電子部品のような工業用途に使用されるプラスチックであって、40MPa 以上の引張強さ、100℃以上の(長期)耐熱性を持つもの、または耐熱性がさらに高く150℃でも長時間使用できるものと定義されています。
エンプラ系材料の第1 号はPA66(ポリアミド66)です。1938 年にアメリカのデュポン社が、繊維素材として工業化しました。続いて、1939年にドイツのIG ファルベンが、PA6(ポリアミド6)を工業化しました。その後デュポン社は、1946 年にFR(フッ素樹脂)のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を、1953 年にPET(ポリエチレンテレフタレート)を繊維として工業化しました。1953 年には、PA66(ポリアミド66)が初めてエンプラとして使用されました(表1)。
その後1958 年から1970 年の間に、代表的な汎用エンプラであるPOM(ポリアセタール・ポリオキシメチレン)、PC(ポリカーボネート)、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)が工業化されました。スーパーエンプラは、1946 年のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、1964 年のPI(ポリイミド)に始まり、1970年代から2000 年にかけて次々と工業化されました。当初は、これらの材料のほとんどが欧米メーカーで開発されました。最近では、日本でも多くのエンプラが開発されています。
3. 汎用エンプラ、スーパーエンプラの特徴
汎用エンプラ
汎用エンプラのうち、代表的な7 種類の特徴を一覧表にまとめました。比較のために、汎用熱可塑性樹脂のPP(ポリプロピレン)とABS 樹脂も併記しています(表2)。
・非晶性樹脂のPC(ポリカーボネート)は優れた透明性を示します。一方、ポリマーアロイ(複数のポリマーを混合させて、新しい特性を持たせること。エンプラの材料開発の一つ。)であるm-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)は不透明です。非晶性樹脂のPC(ポリカーじん性に優れています。
・結晶性のPA(ポリアミド)、POM(ポリアセタール・ポリオキシメチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、強化PET(強化ポリエチレンテレフタレート)は、耐溶剤性、耐摩擦・摩耗性に優れています。
・非強化品の比重は、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)が1.0 台、PA(ポリアミド)が1.1 台、PC(ポリカーボネート)が1.2 台、PBT(ポリブチレンテレフタレート)が1.3 台、POM(ポリアセタール・ポリオキシメチレン)が1.4 台です。
・PA(ポリアミド)は化学構造上、吸水性が大きく、吸水により、寸法、物性が大きく変化します。エステル結合を有するPBT(ポリブチレンテレフタレート)、強化PET(強化ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)は、耐煮沸水性、耐アルカリ性に注意する必要があります。
・汎用エンプラは物性、特に耐熱性、機械的特性において、汎用熱可塑性樹脂より優れるため、価格的には割高です。
スーパーエンプラ
スーパー(特殊)エンプラのうち、代表的な10 種類の特徴を一覧表にまとめました。比較のために、汎用エンプラのPC(ポリカーボネート)とPA6(ポリアミド6)も併記しています(表3)。
・非晶性樹脂のPAR(ポリアリレート)、PSU(ポリスルフォン)、PES(ポリエーテルスルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)は透明性で、強じん性、寸法安定性に優れています。
・結晶性のPPS(ポリフェニレンサルファイド)、FR(フッ素樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)は、耐溶剤性、耐摩擦・摩耗性に優れています。
・非強化品の比重は、PAR(ポリアリレート)、PSU(ポリスルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)が1.2 台、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PES(ポリエーテルスルフォン)、TPI(熱可塑性ポリイミド)が1.3 台、PAI(ポリアミドイミド)が1.4 台、FR(フッ素樹脂)では2.0 を超えるものもあります。
・化学構造の関係でエステル結合を持つPAR(ポリアリレート)は耐煮沸水性と、耐アルカリ性に注意する必要があります。また、SO 基をもつPSU(ポリスルフォン)、PES(ポリエーテルスルフォン)などは耐煮沸水性に非常に優れる一方、耐候性に劣ります。
・成形性ではLCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などが優れます。
・表3 の各種材料の全般的傾向として、右に行くほど耐熱性が上昇し、各種特性も非常に優れており、「◎」の項目が多くなります。しかし、成形条件は右に行くほど厳しくなり、材料価格も高くなります。
・スーパーエンプラは、汎用エンプラより、さらに割高です。
いかがでしたか? 今回は、プラスチックの分類と、エンプラの定義と歴史、また汎用エンプラとスーパーエンプラの特徴について解説しました。次回は、最近のエンプラ技術動向を解説します。お楽しみに!
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 エンプラの種類と特徴
- 第2回 プラスチックの最近の技術動向
- 第3回 PC(ポリカーボネート)とm-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)
- 第4回 PA(ポリアミド)の種類と用途
- 第5回 POM(ポリアセタール)とPBT(ポリブチレンテレフタレート)
- 第6回 FR(フッ素樹脂)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、LCP(液晶ポリマー)、PAR(ポリアリレート)
- 第7回 PSU(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)
- 第8回 PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、TPI(熱可塑性ポリイミド)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)