これまで職業倫理としての技術者倫理を、なるべく具体的に分かりやすく解説してきました。最終回となる今回は、多くの技術者の知恵と力を必要とする、環境倫理をとり上げます。地球の未来のために、技術者だからこそできる貢献とは何か、一緒に考えていきましょう。
第8回「環境保全と倫理」を解説していきます。
1. 地球が直径1 メートルの球だったら
もしも地球が直径1 メートルの球だったら、以下のそれぞれは、どのくらいの値になるでしょう(図1)?
A:大気の厚さは?
B:海水も含めた水の全量は?
C:その中で飲める水の量は?
D:石油の量は?E:緑地の面積は?
F:1 年に消える緑の面積は?
天文学者の永井氏による換算では、A:約1mm(一円玉の厚み程度)、B:660cc(ビール瓶1 本分程度)、C:5cc(スプーン1 杯程度)、D:1 万分の1cc(霧吹きから出る水滴1 粒程度)、E:A3 用紙1 枚程度の大きさ、F:証明写真1 枚程度の大きさだということです(各数値の出典:永井智哉、地球がもし100cm の球だったら、世界文化社、2002 年、P.22-63)。この換算で、地球資源の希少さ、環境変容の大きさがよく理解できるでしょう。地球は閉じた空間であり、資源は有限であることを再認識しなければいけません。
長い年月をかけて動植物の死骸が地中に堆積した石油・石炭などの化石燃料や、希少鉱物の枯渇は、国同士の衝突や紛争問題にもつながります。資源に関する国同士の衝突や紛争は、資源配分の問題といえます。1962 年の国連総会「天然資源に対する恒久主権の権利」の決議をきっかけに、資源保有国が自国で資源管理しようという資源ナショナリズムの傾向がますます強まっています。では、これらを共有化することが解決策となるのでしょうか? 必ずしもそうともいえません。なぜなら、共有財産に対しては個人個人の競争心が働き、結局枯渇の速度が速まってしまう可能性があるからです。立食パーティーでの大トロの寿司皿みたいなものです。いわゆるコモンズの悲劇(資源は、共有財= コモンズとなると、乱獲されて枯渇するという経済学の法則)です。また、資源の問題は、未来の世代の生活を脅かしてはいけないという世代間倫理の立場でも考えられなければいけません。つまり、資源問題は、空間と時間の両方の軸で議論されるべきものなのです。
2. 環境に適応してきた生物、環境を変えてきた人間
地球が誕生し生物が発生してから、生物は環境の変化に適応するための進化を続けてきました。いわば自分自身が変化することで、生き残ってきたのです。そして今から数百万年前、人類が出現しました。人類は種として環境に適応しつつも、それが難しい場合には、知恵や技術を使って環境や自然の方を改変することで、存続してきました。つまり、現在の人類の文明は、資源の利用も含め、環境を圧迫した上で成り立っているといっても過言ではありません。このまま圧迫を続ければ、自然破壊が進み、天然資源は先細り、環境バランスが崩れて、地球が変容する可能性が高くなります。そうなると、地球から恩恵を受けてきた私たちの社会生活の存続も、危うくなる恐れがあります。
具体的には、水質や大気汚染が広がれば私たちの健康がむしばまれ、地球温暖化が進めば洪水や干ばつ、竜巻などが私たちを襲い、資源が枯渇すれば、私たちの生活が行き詰まります。現に、地球の二酸化炭素濃度は高くなり、気温も高くなる傾向にあります(図2、図3)。
気候の極端化も進んでいます。日本でも異常な猛暑日が続いたり、直後に急に寒くなったり、激しい豪雨が各地に多大な被害をもたらすなど、極端な気候の変化が起こっています。石油や鉱物も、確実に枯渇が進んでいます。2018 年3 月、最後のオスが死亡して話題になったキタシロサイのように、生物の絶滅も相次いでいます。
タンカー事故による重油流出、マイクロプラスチックによる海洋や沿岸の汚染、PM2.5 などに汚染された大気の拡散など、海洋汚染や大気汚染は、気流や海流によって国境と無関係に拡大します。環境破壊は地球規模で起こっており、逆にそれを食い止めるにも、地球規模の取り組みが必要となります。温暖化対策に関する国際的取り決めであるパリ協定から、2018 年6 月にアメリカが離脱を表明するなど、波乱含みではありますが、各国とも自国の利害を超えて力を合わせる強い姿勢が求められています。さらに環境破壊の影響は、時間が経ってから現れる上に、あるところまで進行すると不可逆な状態になります。従って、それを食い止めるためにも、一刻も早い取り組みが必要です。そして人間が改変し、破壊までしてきた環境の問題は、人間が自分たちの力で解決しなければなりません。
3. 環境倫理と技術者の責務
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 技術者倫理とは?
- 第2回 説明責任とは
- 第3回 研究倫理とは
- 第4回 製造物責任とは
- 第5回 内部告発とは
- 第6回 新技術と倫理
- 第7回 知的財産の保護と営業秘密
- 第8回 環境保全と倫理