前回は、専門家である技術者が守るべき倫理とは何か、また倫理と法の補完関係について解説しました。技術者や企業が負う社会的責任への理解も深まったことと思います。今回は、その社会的責任の中から、消費者や一般人への説明責任と、事業者と住民が一丸となってリスクに備えるリスクコミュニケーションという手法を、掘り下げて説明します。
第2回「説明責任とは」を解説していきます。
1. パターナリズムからインフォームドコンセントへ
皆さんは病院などの医療機関で、手術や特殊な検査・治療を受ける際、医師から詳しい病状、治療方法の選択肢とリスクの説明を受け、内容を理解・同意した上で、医療行為を受けた経験があるでしょう。これがインフォームドコンセント(Informed Consent)、十分な情報を得た上での合意です。合意するか否かは、もちろん本人の自由です。重要なのは、必要な説明を聞き、十分に納得した上で、自分で判断することです。
数十年前までは、医師が患者に詳細な説明をすることは少なく、患者は全面的に身を委ねるしかないケースがほとんどでした。病状・治療法・薬のことは、専門家である医師や薬剤師が把握していればよく、当人であっても一般人は知らなくてよいという考え方が主流だったのです。このような考え方は、パターナリズムと呼ばれています。ラテン語で父親を意味するパター(Pater)が語源で、家族に関する意思決定権は父親(専門家)にあり、子供たち(一般人)は黙って従っていればよいという父権主義を意味しています。
技術分野においても、かつては電化製品が故障して修理を依頼すると、しばらくして「基板が破損していたので、直しておきました」と後から報告され、修理代を請求される流れが一般的でした。これもパターナリズムです。現在では修理に出すと、「基板が破損している可能性があります。破損部分だけを修理する、基板ごと取り替える、新しい製品に買い替える、3 つの方法があります。それぞれいくらかかります。どうしますか?」といった連絡が来ます。十分な情報と選択肢を示し、最終的には消費者側が判断するというインフォームドコンセントが原則となっているのです(図1)。
このように、消費者の知る権利意識の高まりとともに、製品・サービス提供のさまざまな分野で、専門家の行動・考え方が、パターナリズムからインフォームドコンセントへと変容しています。
2. 知る権利と説明責任
製品・サービスの提供を受ける消費者は、知る権利に対する意識を高めつつあります。しかし多くの場合、消費者は技術者が開発した製品の安全性を特に疑うことなく購入し、使用しています。これらの製品に欠陥があり、自分に損害をもたらす可能性があっても、消費者にはそれを予見する知識、また防ぐ知識や技能もありません。技術者に、安全の全てを委ねているのです。従って技術者には、自分たちが提供する製品によって事故が起きないように設計・製造する責任があります。さらに、誤った使い方によって事故が起こる可能性があるならば、事前に消費者にきちんと説明しなければなりません。
消費者は、製品・サービスの特徴や安全性、故障原因、対策方法などを「知る権利」を有しています。必然的に、技術者は消費者に対して、十分納得してもらえるまで「説明する責任」を負っていることになります。この「知る権利」と「説明する責任」が互いに呼応することによって、社会や人々の安全・安心が築かれているのです。
3. 専門家が信頼関係を形成するポイント
4. リスクコミュニケーションとは
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 技術者倫理とは?
- 第2回 説明責任とは
- 第3回 研究倫理とは
- 第4回 製造物責任とは
- 第5回 内部告発とは
- 第6回 新技術と倫理
- 第7回 知的財産の保護と営業秘密
- 第8回 環境保全と倫理