自然災害リスクとは?|地震リスクマネジメントの基礎知識1

地震リスクマネジメントの基礎知識
著者:防衛大学校 システム工学群 建設環境工学科 教授 矢代 晴実

日本列島は、4 つのプレートがせめぎ合う境界にあり、多くの活断層があります。そのため、日本列島で生活する以上、地震と共存しなくてはいけません。ひとたび大地震が発生すると、建築物や工場・設備の被害だけでなく、人的被害や長期の操業停止など、企業活動に深刻な影響を与えます。そのため、企業はどの程度の地震に備え、どのような対策を取るかの意思決定をする必要があります。

この際、合理的な判断基準を考えることが、地震リスクマネジメントです。本連載では、8 回にわたり、地震リスクマネジメントの基礎知識を解説します。第1回は、われわれを取り巻くリスクに関して解説します。

第1回「自然災害リスクとは?」を解説していきます。

基礎知識DL

1. リスクとは?

リスクという言葉は、日常において頻繁に使われています。辞書で調べると、リスクは、危険、危険度、結果を予測できる度合い、予想通りにいかない可能性、保険で損害を受ける可能性と記されています。リスクには、めったに起こらないが、もし起こると大変なことになるという意味合いがあります。一般的に、人や組織はリスクがあると、前向きな活動を行いません。しかし、リスクを取らないと、より大きな利益は得られません。

具体的なリスクには、株や為替などの金融商品に係るリスク、がんなどの病気や、自動車・飛行機などの交通事故に関するリスク、火災や水害に関するリスク、環境汚染や放射性物質によるリスク、食べ物に関するリスクなどがあります。企業経営においては、法令違反やコンプライアンスについてのリスク、瑕疵(かし)や製品事故についてのリスク、異常気象や災害に関するリスク、戦争・テロや政変などに係るリスク、情報漏えいやシステムダウンに係るリスクがあります。これらのリスクは、確率や頻度などで表されることが多く、1 人当たりの発生、1 万人当たりの発生、1 つの国当たりの発生といった単位で示されます。また、金融などの分野では、最初に設定した収益から、どの程度かい離するかを測るため、分散や標準偏差をリスクとして扱っています。

工学分野では、自然災害、事故や火災、環境問題などのリスクを扱うとき、リスクの度合いは、事象の発生確率と損害の大きさの積で定義されます。損害の大きさは、影響度や金銭価値の指標で定義します。この定義では、頻度が高く、損害の影響度が大きいほど、リスクは大きくなります。

このようにリスクは、分野により扱い方が異なります。リスクという言葉が用いられる際、定義を明確にして使われることはほとんどありません。一般的には、将来における不確かな損失とその影響として使われます。例えば、企業の取り巻くリスクは、以下の表1 のように多岐にわたります。リスクは、時代とともに絶えず変化しています。

企業のリスク
表1:企業のリスク(引用:深津嘉成、最近の企業危機事例に学ぶTRC EYE vol.26、東京海上日動リスクコンサルティング、2003年、P.2)

2. 自然災害のリスク

自然災害のリスクは、各種条件(発生場所、発生による被害を受ける施設、リスクを受ける主体など)の組み合わせにより、さまざまです。例えば、対象施設を上水道とし、自然災害ハザードを地震とします。事業主体者である自治体の水道部局などは、水供給停止リスク、水道管・浄水場などの損傷リスク、水道料金収入の減少リスクなどを想定します。リスクを受ける主体が住民の場合、生活水の停止による生活の困窮、医療機関などの使用水停止による機能停止、消防用水の停止による消火機能の低下などが想定されます。このリスクは、施設損壊などの物理的損失や、供給停止などによる間接的な損失のリスクにもなります。このように、リスクは条件の組み合わせにより、さまざまに変化します。自然災害リスクは、日本では好む好まざるにかかわらず、受け入れなければならないリスク、すなわち受動的リスクです。

日本の国土は、地震以外の洪水や高潮に対しても、極めてぜい弱です。例えば、日本の人口の30% 強が、関東地方に住んでいます。荒川や隅田川流域周辺の低地にあたる沖積平野部では、標高が洪水時の河川水面よりも低い土地が大半を占めます。さらに、東京湾に近い江東区や墨田区などの低平デルタ地帯では、標高が海面下の土地が多くあります。この地帯には人口・資産が集積しており、水害が発生すると、人命が失われるだけでなく都市機能がまひし、その被害は甚大になると予測されます。特に海岸沿いの地盤の低い地域では津波、高潮被害や洪水により、復旧が長期間になると想定されています。

日本の災害(洪水、土砂災害、地震震動災害、地震液状化災害、地震津波災害)における国土面積・人口の暴露割合を示したものを表2 に示します。この表より、日本の人口の70% 以上、国土の30% 以上が、災害の脅威にさらされていることが分かります。

災害別の暴露面積・人口
表2:災害別の暴露面積・人口(引用:国土形成計画(全国計画)参考データ集、国交省国土政策局、2015年、P.26)

いかがでしたか? 今回は、日本における自然災害リスクの概念を解説しました。次回は、リスクと確率を解説します。お楽しみに!

全8回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 自然災害リスクとは?
  • 第2回 リスクの定量化と確率
  • 第3回 リスクマネジメントの方法
  • 第4回 日本の地震危険度
  • 第5回 地震ハザード評価
  • 第6回 地震リスクの定量化
  • 第7回 地震のリスクコントロール
  • 第8回 地震のリスクファイナンス

第2回~第8回の続きはこちらより資料をご覧ください!

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