前回は、ダイカストの特徴と歴史を紹介しました。今回はダイカストに使われる合金を取り上げます。JISに規定されているダイカスト合金は、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金の3種類です。その他に、銅合金、スズ合金、鉛合金なども用いられます。これらの合金の特徴や用途を解説します。
第2回「ダイカスト合金の種類と特徴」を解説していきます。
1. アルミニウム合金ダイカスト
アルミニウム合金ダイカストは、軽量で耐食性に優れ、経年寸法変化が少ないことから、ダイカスト合金の中では最も多く用いられています。ダイカスト合金全体の97%以上を占め、多くの産業分野で使用されています。経済産業省が発表している生産動態統計によると、2017年のアルミニウム合金ダイカストの用途は、自動車用が89.3%、一般機械用が3.1%、自動二輪用が2.7%、電気機械用が1.6%です。ダイカスト用のアルミニウム合金地金は、JIS H 2118ダイカスト用アルミニウム合金地金に規定されています。また、JIS H 5302アルミニウム合金ダイカストには、20種類のアルミニウム合金ダイカストと、その化学成分などが規定されています。
・アルミニウム合金ダイカストの種類と特徴
アルミニウム合金は、大きく分けてAl-Si系合金と、Al-Mg系合金の2種類があります。またAl-Si系合金は、Al-Si系、Al-Si-Mg系、Al-Si-Cu系に分類されます。日本で現在使用されている合金の多くはAl-Si-Cu系のADC12合金です。アルミニウム合金ダイカストの機械的性質、物理的性質を表1にまとめました。表1の機械的性質(引張強さ、伸び、衝撃強さ、せん断強さ)は、ASTM(旧米国材料試験協会:AmericanSociety for Testing and Materials)規格で定められた試験片を理想的な条件で鋳造し、試験測定したものです。そのため、実際のダイカストの機械的性質よりも高い値を示しています。実体強度はASTM試験片の約7割といわれています。
1:ADC1(Al-Si系)
ADC1は耐食性が良く、金型内での溶湯の流動性が高く鋳造加工しやすい(鋳造性が良い)ものの、耐力はやや低く、自動車のメインフレーム、フロントパネル、屋根瓦に用いられます。
2:ADC3(Al-Si-Mg系)
ADC3は衝撃強さと耐食性が良いものの、鋳造性に劣ります。自動車のホイールキャップ、二輪車のクランクケース、自転車のホイール、船外機のプロペラに用いられます。
3:ADC5(Al-Mg系)
ADC5は耐食性に非常に優れ、高い伸びと衝撃強さを示すものの、鋳造性に劣ります。農機具のアーム、船外機のプロペラ、釣り具のレバー・スプール(糸巻き)に用いられます。
4:ADC6(Al-Mg-Mn系)
ADC6は耐食性はADC5に近く、鋳造性はADC5より優れているものの、Al-Si系に比べると劣ります。二輪車のハンドレバー、ウインカーホルダー、ウォーターポンプ、船外機のプロペラケースに用いられます。
5:ADC10、ADC12(Al-Si-Cu系)
ADC10、ADC12は機械的性質と鋳造性に優れています。また、ADC10は被削性にも優れます。どちらも、アルミニウム製品のほとんど全てのものに用いられます。例えば、シリンダブロック、トランスミッションケース、シリンダヘッドカバー、農機具用ケース類、ハードディスクケース、電動工具、ミシンアーム、ガス器具、床板、エスカレータ一部品などです。
6:ADC14(Al-Si-Cu-Mg系)
ADC14は耐磨耗性に優れているものの、伸び、衝撃強さに劣ります。自動車のエアコン、シリンダブロック、ハウジングクラッチ、シフトフォークに用いられます。
・アルミニウム合金ダイカストの化学組成と金属組織
ダイカストの物理的性質は、合金の化学組成に影響します。ケイ素Siは熱膨張係数を低下させることから、Al-Si系の合金ではケイ素Siの量が多いほど熱膨張係数が小さくなります。また、Al-Mg系の合金はケイ素Siの含有量が少ないため、熱膨張係数が大きく、割れが発生しやすくなります。図1に、代表的なアルミニウム合金ダイカストの金属組織を示します。
ADC6(図1の左)は素地のα-Al晶を持つAl-Mg系合金であり、流動性を改善するために微量(1.0%以下)のケイ素Siが添加され、α-Al晶の境界にAl-Mg2Si共晶の晶出が見られます。Al-Si-Cu系合金のADC12(図1の中)は、α-Al晶と、周囲のAl-Si共晶組織、灰色で多角形のAl-Fe-Mn-Si系金属間化合物、灰色でやや微細なAl-Al2Cu共晶などが観察されます。過共晶Al-Si系合金のADC14(図1の右)は、多角形で暗灰色のケイ素Siが初晶として晶出しています。また、周囲にはAl-Si共晶や、Al-Fe-Mn-Si系金属間化合物、Al-Al2Cu共晶などが観察されます。初晶ケイ素Siは高い硬度を有するため、合金の耐摩耗性を向上します。
2. 亜鉛合金ダイカスト
亜鉛合金ダイカストは、薄肉で複雑な形状の鋳物が製造可能です。寸法精度が高く、優れた機械的性質を示します。特に衝撃に強く、めっきなどの表面処理性にも優れています。2017年の亜鉛合金ダイカストの用途は、自動車用が約56%を占めています。
・ダイカスト用亜鉛合金の種類と特徴
ダイカスト用亜鉛合金地金はJIS H 2201ダイカスト用亜鉛合金地金に規定されています。また、JIS H 5301亜鉛合金ダイカストには、Zn-Al-Cu系のZDC1と、Zn-Al系のZDC2の2種類が規定されています。使用されている合金の多くがZn-Al系のZDC2です。なおJIS合金以外ではわずかに、金型用合金3種、ベリックなどの亜鉛合金ダイカストが使用されています。
表2に、亜鉛合金ダイカストのASTM規格試験片による、機械的性質および物理的性質を示します。機械的性質では、室温での伸びや衝撃強さが高いことが特徴です。特に衝撃強さは、ADC12の約20倍の値を示します。ただし、0℃以下の環境では、伸びや衝撃強さは低い値を示すため、寒冷地での使用には注意が必要です。-20℃での伸びは室温の1/2、衝撃強さは1/10になります。
1:ZDC1(Zn-Al-Cu系)
機械的性質および耐食性に優れています。ステアリングロック、シートベルト巻き取り金具、ビデオ用ギア、ファスナーつまみなどに用いられます。
2:ZDC2(Zn-Al系)
鋳造性およびめっき性に優れています。自動車のラジエターグリルカバー、モール、ドアハンドル、ドアレバー、PCコネクタ、自動販売機のハンドル、業務用冷蔵庫のドアハンドルなどに用いられます。
・亜鉛合金ダイカストの特性
亜鉛合金ダイカストを使用する上で注意しなければならないのが、粒間腐食です。粒間腐食は、アルミニウムAlを含む亜鉛合金が、湿潤な雰囲気の大気中に長時間置かれた際に、結晶内部に腐食が進行し、割れが発生する現象です。合金に不純物が多い場合に発生します。図2に、粒間腐食を発生した製品の外観を示します。複数の割れが製品を貫通し、容易に手で折れる状態です。粒間腐食が進行すると、製品形状をとどめないほど粉々になることもあります。
粒間腐食は、鉛Pb、スズSn、カドミウムCdが、それぞれ0.005%、0.004%、0.003%以上含まれると発生するため、JISでは極めて微量に制限されています。また、微量のマグネシウムMgを添加することで粒間腐食を抑制できます。
亜鉛合金ダイカストのその他の特性として、ダイカスト性に優れる(湯流れ性が良い、鋳造割れが少ない、耐圧性が良い、凝固収縮が小さい、金型への焼付き・溶着・溶損が少ないなど)ため、鋳肌性状が良い、寸法精度に優れる、電気めっきがしやすいなどが挙げられます。一方、クリープ変形(一定の応力を負荷したときに時間とともに塑性変形が発生する現象)が起こりやすいので、100℃以上での使用には注意が必要です。図3に、ZDC2の金属顕微鏡組織を示します。初晶として晶出した白色のα-Zn晶のほかに、亜鉛ZnとアルミニウムAlが層状に晶出したZn-Alの共晶組織が見られます。
3. マグネシウム合金ダイカスト
4. その他の合金
全10回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 ダイカストとは?
- 第2回 ダイカスト合金の種類と特徴
- 第3回 ダイカストマシンの構造
- 第4回 ダイカスト金型
- 第5回 ダイカストの製品設計
- 第6回 ダイカストの鋳造方案設計
- 第7回 ダイカスト金型の設計
- 第8回 ダイカストの鋳造工程
- 第9回 ダイカストの品質と欠陥
- 第10回 特殊ダイカスト技術