ダイカストは、精密な金型(キャビティ)に溶融金属を高速で注入し、高圧をかけて冷やして固める鋳造方式です。高い精度の鋳物を短時間で大量に生産でき、自動車関連部品などに多く使用されています。本連載では技術者に必要なダイカストの基礎を解説します。第1 回では、ダイカストの特徴と、ダイカスト鋳造法が発明された近代から現在までの歴史を紹介します。
第1回「ダイカストとは?」を解説していきます。
1. ダイカストとは?
ダイカストは、金型(Die)による鋳物(Cast)の意味で、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、銅合金などの溶融金属を、精密な金型(キャビティ)に高速で充填し、高い圧力をかけて鋳造する金属加工法です。溶融金属とは、溶かして液体状態にした金属や合金のことで、鋳造では溶湯(ようとう)といいます。また、同方法により得られる製品もダイカストと呼ばれます。
ダイカストは寸法精度が高く、滑らかな鋳肌を持つ鋳物を短時間で大量に生産できます。また、強度に優れ、機械による仕上げ工程が少ないといった特徴があり、自動車関連を中心にOA 機器、家電用品、建築用品などの構造部品、機能部品として広く使用されています。
2. ダイカストの特徴
他の鋳造加工製品と比べたダイカスト製品のメリットは、高い寸法精度、美麗な鋳肌、薄い肉厚、微細な鋳造組織、高い強度、高い設計自由度、鋳込み金具が使用できる、ニアネットシェイプ化(材料を最終形状にするための仕上げ作業をほとんど必要としないこと)などです。それぞれについて解説します。
・高い寸法精度
ダイカスト製品は、高い寸法精度を有します。図1 に、ダイカスト、精密鋳造、金型鋳造、砂型鋳造の寸法精度を示します。
JIS B 0403鋳造品-寸法公差方式及び削り代方式には、鋳造品の寸法精度を示す交差等級CT1 ~ 16が規定されています。数値の小さい方が精度に優れ、アルミニウム合金ダイカストはCT5 ~ 7 に等級に相当します。砂型鋳造のCT9 ~ 12、金型鋳造のCT6 ~ 8と比較して寸法精度が高く、精密鋳造のCT4 ~ 6に近い精度であることを示しています。また、亜鉛合金ダイカストの交差等級はCT4 ~ 6で、アルミニウム合金ダイカストよりも高い寸法精度が得られます。
・美麗な鋳肌
ダイカストは、溶融金属を金型キャビティに充填した後に、30~70MPaの高い圧力をかけるため、美麗で平滑な鋳肌が得られます。
・薄い肉厚
ダイカストの肉厚は、小物ダイカストで0.8~3.0mm、大物ダイカストで2.0~ 6.0mmです。ただし7mm以上になると、鋳巣などの内部欠陥が多く発生します。
・微細な鋳造組織
ダイカストは、砂型鋳造や金型鋳造に比べて冷却速度が速いため、より微細な鋳造組織が得られます(図2)。
・高い強度
ダイカストは鋳造組織が微細なので、鋳放し(鋳造のまま)では砂型鋳造や金型鋳造よりも高い強度が得られます。
・高い設計自由度
ダイカストは鋳抜きが容易で、寸法精度、鋳肌面粗度に優れているので、最終形状に近い鋳物が得られます。そのため、設計自由度に優れているという特徴があります。しかし、鋳型は金属で構成されるため、アンダーカットのある鋳物には不向きです(詳細は第5回で解説します)。
・鋳込み金具を使用可能
ダイカストは、別に鋳造しておいた金属材料(鋳込み金具)を鋳型に入れ、本体の正確な位置に接着する鋳包み(いくるみ)ができます。鋳込み金具を利用することで、ダイカスト合金では得られない硬さ、強度、耐摩耗性などが容易に得られます。
・ニアネットシェイプ化
ダイカストはニアネットシェイプ化(材料を最終形状にするための仕上げ作業をほとんど必要としないこと)が可能です。これにより、面削、バフ加工、機械加工などの工程を削減できます。
3. ダイカストの歴史
ダイカストの歴史は、1838年にアメリカのデビッド・ブルース(DavidBruce)が手動式の活字鋳造機を発明したことに始まります。鋳物の起源は、紀元前4,000年頃のメソポタミア地方とされるので、ダイカストの歴史は新しいといえるでしょう。図3 に、ブルースが1838年に特許出願した活字鋳造機の一部を示します。ピストンを下に移動させることで、ポット内で溶解した活字合金(Pb-Sb-Sn)を鋳型に射出、充填する機構を有しています。
1905年に、アメリカのハーマン・H・ドーラー(Herman H. Doehler)は、活字鋳造機の原理を応用して、プランジャー式ダイカストマシンを開発します。これが、世界初のダイカストの商業生産となりました。1907 年には、アメリカのジョセフ・ソス(Joseph Soss)が、手動式横型トグル型締めプランジャー式ホットチャンバーマシンを開発し、世界で初めてダイカストマシンを市販しました。
1915年、ドーラーは世界で初めて、移動グースネック式ダイカストマシンでアルミニウム合金ダイカストの商業生産を開始します。しかし、この方式は空圧式のため、高い鋳造圧力をかけることができず、必ずしも良い品質とはいえませんでした。
1926年、チェコのジョセフ・ポーラック(Josef Polak)は、横型締め、縦射出の水圧式コールドチャンバーダイカストマシンを開発しました。これは、溶解ポットと加圧チャンバーを切り離したコールドチャンバー方式によるもので、高い鋳造圧力をかけることが可能でした。アルミニウム合金ダイカストの品質が向上し、自動車部品や航空機部品などにおいて、今日と遜色ない品質が得られました。その後も、油圧式の横型締め、横射出のダイカストマシンが登場し、今日のダイカストへと発展しました。
日本では、1917年9月にダイカスト合資会社が設立されました。日本でダイカストの工業化が進展したのは1930年頃です。アルミニウムを中心とする軽金属が注目を集め、航空機部品、自動車部品、光学機器部品などの生産が行われました。1935年頃には、航空機の空冷エンジンの部品や自動車部品など、大型ダイカストの生産が始まります。第二次世界大戦後、ダイカストは民需産業で発展を続けました。図4 に、日本における1950年以降のダイカストの生産推移を示します。
1950年のダイカストの国内生産量は、わずか1,224トンでした。しかし、1955年以降、日本経済は急激に成長を遂げ、いわゆる高度成長時代を迎えます。これに伴い、大量消費、大量生産が定着し、ダイカスト製品の需要増加を支えました。1950年代前半におけるダイカストの主な需要先は、カメラ、家庭電気用でした。しかし、1960年以降、モータリゼーションの進展で自動車の生産台数が一気に増加し、クランクケース、エンジンブロック、ミッションケースなど、自動車関連部品の生産が増加しました。
1973年の第1 次オイルショック、1980年の第2次オイルショックにより、ダイカストの生産量は、一時的に減少します。しかし輸出需要は好調で、自動車生産台数が増加し、それに伴いダイカストの生産量も増加し続けました。1990年代初頭には、バブル崩壊による経済停滞期を迎えました。その後、自動車関連、電機関連を中心に、ダイカストの生産品種・生産量は共に増加します。特に2002~2007年は自動車の輸出が好調で、ダイカストの生産量は著しく伸びました。2008年、リーマンショックの影響で生産量はバブル崩壊直後と同程度まで落ち込んだものの、2010年には回復し、その後100万トン前後で推移しています。
参考文献
一般社団法人日本ダイカスト協会、日本ダイカスト史、日刊工業新聞社、1986年
4. ダイカストの現況
表1に、2017年のダイカストの生産量を、合金別、用途別に示します。合金別には、アルミニウム合金ダイカストが97.7%、亜鉛合金ダイカストが1.9%、その他が0.4% の割合です。用途別には、自動車用がアルミニウム合金ダイカストでは89.3%、亜鉛合金では52.2% を占めています。
いかがでしたか? 今回は、ダイカストの特徴と歴史を紹介しました。次回はダイカストに使われる合金を解説します。お楽しみに!
全10回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 ダイカストとは?
- 第2回 ダイカスト合金の種類と特徴
- 第3回 ダイカストマシンの構造
- 第4回 ダイカスト金型
- 第5回 ダイカストの製品設計
- 第6回 ダイカストの鋳造方案設計
- 第7回 ダイカスト金型の設計
- 第8回 ダイカストの鋳造工程
- 第9回 ダイカストの品質と欠陥
- 第10回 特殊ダイカスト技術