日本の脱炭素化戦略2|脱炭素化の基礎知識6

脱炭素化の基礎知識
著者:東京大学 教養学部 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 松本 真由美

前回は、日本の脱炭素化戦略について、その長期戦略と革新的イノベーション戦略、さらにカーボンニュートラルを目指すグリーン戦略などを解説しました。さて、菅義偉前首相(2020 年9 月16 日~2021 年9 月30 日)は2021 年4 月22 日、2030 年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013 年度から46% の削減を目指すこと、さらに50% の高みに向けて挑戦を続けることを表明。岸田文雄首相も「2030 年度46% 削減、2050 年カーボンニュートラルの目標は堅持する」と記者会見で明らかにしており、日本でも脱炭素化に向けた動きが加速しています。今回は、最終回です。前回に引き続き日本の脱炭素化戦略のこれからを紹介します。

第6回「日本の脱炭素化戦略2」を解説していきます。

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1. グリーンイノベーション基金

政府の成長戦略会議による「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(2020 年12 月策定、2021 年6 月改訂)」では、洋上風力・太陽光・地熱、水素・燃料アンモニア、次世代熱エネルギー、カーボンリサイクルなど14 の重要分野ごとに高い目標を掲げています。その上で、現状の課題と今後の取り組みを明記し、予算、税、規制改革・標準化、国際連携など、あらゆる政策を盛り込んだ実行計画を策定しました。重要14 分野については、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2 兆円のグリーンイノベーション基金が造成されました(図1)。

グリーンイノベーション基金の支援対象14分野
図1:グリーンイノベーション基金の支援対象14分野(引用:経済産業省、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略、令和3年6月18日、P.23)

グリーンイノベーション基金は、研究開発にとどまらず、国が定めた2030年の技術目標を達成し、社会実装を実現するまでを目的としています。プロジェクトに採択される企業経営者には、長期的な経営課題として粘り強くプロジェクトに取り組むことへのコミットメントを求めた上で、最大10年間、研究開発・実証から社会実装まで継続的に支援を行う計画です。収益事業を行う者を主な実施主体としているものの、それは大企業に限らず、中小・ベンチャー企業の参画をも促進し、さらには大学・研究機関の参画も想定しています。

2021年2月には、この基金で実施されるプロジェクト全体の進捗管理を担う「産業構造審議会グリーンイノベーション部会」が設置されました。本部会の下には、3つの分野別ワーキンググループ「WG1:グリーン電力の普及促進分野」、「WG2:エネルギー構造転換分野」、「WG3:産業構造転換分野」が設置され、研究開発プロジェクトごとの取り組み状況をモニタリングし、毎年プロジェクトの評価を行っていきます。

第1 弾となる、令和2 年度・第3 次補正予算で措置されたグリーンイノベーション基金事業は、18 の想定プロジェクトに対して予算配分され(表1)、予算総額2 兆円のうち、3 割程度を拠出します。

第1 号案件として、水素の製造から輸送、発電までのサプライチェーンを構築する事業に3,000 億円、再エネ由来の電力を活用した水電解による水素製造に700 億円の予算規模で、実施予定先(事業者)が、8 月26 日に決定しました。筆者が関わるWG1 の洋上風力発電の低コスト化事業は1,195 億円、次世代太陽電池の開発に498億円の予算規模で、10 月1 日から11 月15 日まで公募を実施しています。18 想定プロジェクトについては、2021 年度内の事業開始を目指しています。

グリーンイノベーション基金の18想定プロジェクト
表1:グリーンイノベーション基金の18想定プロジェクト(引用:経済産業省、第3回産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会(書面審議)、2021年4月6日)

パリ協定(第5 回参照、2. 長期目標と革新的環境イノベーション戦略)の目標を達成するためには、2050 年にかけ、電化、再生可能エネルギー、水素、CO2 回収・利用・貯蔵(CCUS/ カーボンリサイクル)、エネルギー効率改善などを通じて、世界全体でCO2 排出を削減する必要があります。政府は、再生可能エネルギーとエネルギー効率改善が核となる一方、水素、電化、CCUS が、特にCO2 削減効果を増加させるポテンシャルが大きいと見込んでいます(図2)。

パリ協定の目標達成に必要なイノベーション
図2:パリ協定の目標達成に必要なイノベーション(引用:経済産業省、グリーンイノベーション基金事業の今後の進め方について、2021年3月4日、P.12)

2. 温対法改正で2050年脱炭素社会の実現を明記

国や自治体、企業、国民が取り組むべき地球温暖化対策を推進する法律である「地球温暖化対策推進法(1998 年成立)」の見直しが行われ、2021 年5 月26 日の参院本会議で改正温対法が成立しました。

改正法のポイントは、
(1)「2050 年脱炭素社会の実現」を明記したこと
(2)自治体が再生可能エネルギーの「促進区域」を指定すること
(3)脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化
などが挙げられます(参考:環境省ウェブサイト、地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について、2021 年3 月2 日)。

(2)については、再生可能エネルギーの環境アセスメントの手続きを簡素化・迅速化する「促進区域」の指定に対して、市町村への努力義務を盛り込みました。促進区域の指定においては、地元で丁寧に合意形成し、景観や生態系への影響などに十分配慮することを前提条件にしています。

(3)は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の世界的な潮流の中で、企業の脱炭素経営を促すものです。2005 年の温対法の改正以降、一定以上の温室効果ガスを排出している企業は、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」のもと、温室効果ガス排出量を政府に報告しています。しかし、報告から公表までの期間は2 年、しかも国民や機関投資家が企業の排出量を確認する場合は開示請求する必要があり、これまで削減努力をタイムリーに評価できませんでした。今回の法改正では、企業は電子システムによる報告が原則化され、事業所ごとの排出量情報について開示請求の手続きなしで公表される仕組みにしました。改正温対法は、2022 年4 月に施行される予定です。

3. 「第6次エネルギー基本計画」閣議決定

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 なぜ脱炭素化が必要なのか
  • 第2回 欧州の脱炭素化への戦略
  • 第3回 中国の脱炭素化戦略
  • 第4回 アメリカの脱炭素化戦略
  • 第5回 日本の脱炭素化戦略
  • 第6回 日本の脱炭素化戦略2

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