前回は、防食設計と防食管理を説明しました。今回は最終回です。腐食の原因解析と、腐食事例のデータベースについて解説します。腐食事故が発生した場合、原因の解析を迅速に行い、対策を講じる必要があります。その際にデータベースを用いると、過去に発生した類似の腐食事例を参照でき、原因の検証や対策の立案に役立ちます。
第6回「腐食の解析と腐食事例のデータベース」を解説していきます。
第6回もくじ
1. 腐食の解析手順
腐食解析の目的は、腐食の原因を明らかにし、経済性を考慮しながら、最も適切な対策を講じることです。設備の中で腐食が生じた場合、一般的には5つのステップで解析します。
1:設備の機能と機能の確認
解析の前に、設備の中で腐食が生じている箇所の機能と役割を確認します。
2:設備の材料と使用環境の確認
腐食が生じた箇所の材料組成と金属組織を確認します。また、材料が使われていた環境を確認します。重要なポイントは、設備運転中と運転休止中の両方の環境を確認することです。
3:腐食箇所の観察と損傷原因の解明
腐食箇所の状態を観察します。また、腐食部の付着物や腐食生成物をサンプリングし、分析します。割れが生じている場合は、破面形態を調べます。こうした分析により、腐食の原因とメカニズムを推定します。
4:既存事例による原因の検証
多くの場合、発生した腐食事例と同様の事例が、過去にも発生していると考えられます。したがって、腐食事例データベースで過去の類似事例を参照し、情報を活用することで、原因の検証、対策の立案を進めやすくなります。多くの企業では、過去の腐食事例データベースが構築されています。社内のデータベースで不十分な場合は、市販のデータベースを利用することもできます。
5:再現試験による確認および対策の検証
必要に応じて、再現試験を行います。原因を明確にするとともに、対策の効果を検証します。
2. 腐食解析の事例
材料の損傷事例の多くは腐食起因です。損傷事例の約3/4が腐食起因であるという資料もあります(参考:化学工学会SCE・Net装置材料研究会、プラント材料損傷事例集、2017年)。特に、ステンレス鋼の腐食事例が多く報告されています。耐食性に優れるステンレス鋼は、腐食しやすい環境で使用されやすいためです。ステンレス鋼の応力腐食割れ事例を2件紹介します。
・ドライヤのステンレス(SUS316L)製加熱管の応力腐食割れ
ドライヤの加熱管内部には90℃の温水が流れていて、加熱管外部を流れる合成樹脂製品の水分を20%から1~2%にまで乾燥させます。
図1は、ドライヤのステンレス(SUS316L)製加熱管に発生した応力腐食割れです。
この腐食割れ事例を、詳しく見てみましょう。腐食割れは、加熱管を約2カ月使用した時点で発生しました。割れの形態は、分枝状の貫粒割れです。残留応力の測定結果では、円周方向に約20kg/mm²、軸方向に約10kg/mm²の引張応力値が計測されました。加熱管には、異物付着を防止するために表面研磨が施されています。再現試験では、この表面研磨による残留応力の発生が確認できました。対策として、表面研磨法の改善、熱処理による残留応力除去が考えられます。
・ステンレス(SUS304)製貯槽の外面応力腐食割れ
図2は、ステンレス(SUS304)製の乳製品貯槽に生じた外面応力腐食割れです。貯槽の保温カバーを外し点検したところ、溶接部近くで、外面から割れが発生していることが分かりました。また、保温材下部に約20リットルの水がたまっていて、その水を分析した結果、約500ppmの塩化物イオンCl – が検出されました。
この貯槽は、1日1回15分間、高温蒸気で殺菌していました。その際、洗浄水が保温カバー上部の欠陥部から、保温材側に入り込んでいたのです。カバーは密閉構造なので、保温材側の下部に水がたまり、塩化物イオンと溶接残留応力により、割れが発生していました。対策として、原因となった保温材側に水がたまらないよう、下部に水抜き孔を開けるなどが考えられます。
3. 損傷事例のデータベース
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 腐食とは?
- 第2回 アルミニウム、ステンレス鋼、銅の腐食
- 第3回 環境の腐食性と耐食材料
- 第4回 鉄鋼材料の防食
- 第5回 防食設計とは?防食管理とは?
- 第6回 腐食の解析と腐食事例のデータベース