前回は、湿害の診断方法の具体例を紹介しました。今回は、最終回です。湿害対策の具体例を取り上げます。
第5回「湿害の現象」を解説していきます。
第5回もくじ
1. 湿害発生の原因
日本建築学会環境基準(AIJE SH0003-2021、以下「環境基準」と呼びます)の「湿害の連鎖関係」を参照しながら、湿害と湿害発生原因の究明方法を考えてみましょう。図1に示すように、湿害が発見されるまでには、それ自体が湿害に相当し、湿害の原因となる複数個の現象が生じている場合があります。
現象Dの対策を考える場合、その根本原因を見つけ出さなければなりません。まず、現象Dの直近の原因と考えられる現象Cの発生を抑制する必要があります。また、現象Cの発生要因として、現象A、または現象Bが考えられるならば、この場合、どちらが原因であるかを判断する必要があります。さらに、現象A、現象Bには、それぞれの発生要因があります。
湿害の要因となる現象の名称、影響を受ける性能、原因に関する用語は、湿害対策に携わる人(湿害対策を希望する人、対策を実施する人、湿害予防設計をする人)の間で共通認識が必要です。環境基準で整理された各用語を用いることで、認識の共有が可能となります。
2. 湿害の原因究明の手順例
被害状況、すなわち湿害の現象が確認できると、被害が発生した過程を推測する必要があります。図2に、環境基準に補遺(ほい)で紹介されている原因究明の手順を、連鎖の逆引きの形で示します。被害が生じた現象の発生シナリオは、実線矢印で示しています。これを逆引きした破線矢印を追うと、原因を絞り込む方法を決定できます。
環境基準の湿害事例集には、湿害に至るまでのシナリオが多数掲載されています。このシナリオ通りに逆引き可能な湿害であれば、比較的容易に原因究明が可能になります。
例えば、室内のカビと、内装材の汚れ発生の原因が、濡(ぬ)れという現象であるというシナリオを描きます。濡れの原因としては、結露、雨漏り・浸水が候補として挙げられます。濡れの根本原因を絞り込むには、温度や湿度の計測、散水実験などが必要です。また、現象を詳細に追うためには、計算が必要となる場合もあります。
このように、根本原因の絞り込みができれば、原因を取り除くことで対策を講じることができます。雨漏り・浸水が原因と判明すれば対策は容易です。水の浸入口を閉じたり、浸入経路中に排水経路を確保するといった対策が考えられます。原因が結露の場合、湿害発生箇所の材料が露点温度以下にならぬよう、断熱補強が最重要です。十分な断熱補強をした上で、湿害発生箇所における材料が接する空間の除湿ができれば、なお効果が上がります。
3. 断熱のヒント
全5回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 結露の分類
- 第2回 結露発生の仕組み(メカニズム)
- 第3回 結露が引き起こす現象
- 第4回 結露で影響を受ける性能
- 第5回 湿害の現象