コンクリート構造物は本来、永久構造物であり、長寿命が期待されます。それは、古代ローマ時代に多くのコンクリート構造物が築かれ、現存していることからも立証されています。そう考えると、近年のコンクリート構造物は、早期に劣化しています。最終回の今回は、長寿命なコンクリート構造物の実例と、劣化の抑制技術、長寿命化するための技術を紹介します。
第9回「コンクリートの長寿命化」を解説していきます。
1. 長寿命なコンクリート構造物
コンクリート構造物の歴史は古く、古代ローマ時代の帝政初期(紀元前27 年~西暦193 年)にさかのぼります。多くの構造物が構築され、維持管理費用が賄えなくなり、ローマ帝国が滅びたとする説もあります。コンクリート構造物は長寿命であるものの、その維持管理を怠ってはなりません。
数百年の歴史を刻んでいる木造構造物は、たくさん現存しています。居住用の木造建築は、住心地が悪くなると建て替えられます。一方で、歴史的な構造物はそのままの姿で保存されているので、私たちは目にすることができます。コンクリート構造物も同様で、設備の老朽化や住み心地の悪化から建て替えられます。ただし、適切な維持管理を行えば寿命を延ばすことができます。図1は、住民が退去し、維持管理をしなくなって廃墟と化した軍艦島(長崎県)の住居です。
一方、維持管理をしていなくても100 年の歴史を刻んでいる構造物もあります。図2 の小樽港北防波堤は北海道で1908 年に完工、図3 の本庄水源地は広島県呉市で1924 年に完工しました。ともに劣化の原因となりやすい鉄筋の入らないコンクリート構造物です。鉄筋コンクリート構造物では、図4 の琵琶湖疎水(水路)に架けられたメラン式アーチ型の日本最初の鉄筋コンクリート橋があります。この橋は、健全とはいえない状況で残されています。
近代セメントを使用したコンクリート構造物の寿命は、数百年程度です。古代コンクリートは永久構造物として期待できます。近代の鉄筋に頼る構造とそれを劣化させる環境が、コンクリート構造物の寿命を短くしています。今後は、劣化のメカニズムを理解して克服し、長寿命化の実績を重ねる必要があります。
2. コンクリート構造物の劣化抑制技術
第8 回で紹介したように、コンクリート構造物の劣化を早めるのは、内部の鋼材の腐食とコンクリート自体の老朽化です。コンクリート構造物の長寿命化には、コンクリート自体を劣化しにくい組織とすること、鋼材自体を腐食しにくい素材にすること、鉄筋を保護するコンクリートの性能を確保することが必要です。そして、維持管理を適切に行えば、コンクリート構造物の長寿命化は可能となります。
コンクリート自体の長寿命化には、劣化因子の浸入を抑制する技術が必要です。例えば、ASR(Alkali Silica Reaction:アルカリシリカ反応)に対しては、反応性の骨材を使わないに越したことはありません。しかし、反応性骨材を用いたとしても、水の供給を断つことで吸水膨張を抑制でき、コンクリート構造物への影響を小さくできます。凍害に対しては、コンクリート中に微細な気泡を連行することで凍結膨張圧を低減できます。コンクリート内部への水の浸入を抑制すれば、水の凍結膨張圧は生じないため、凍害を受ける可能性は極めて小さくなります。水の浸入を防ぐことが、コンクリート構造物の長寿命化に影響します。
鋼材の腐食を防ぐには、エポキシ樹脂塗装鉄筋、ステンレス製鉄筋の使用などが考えられます。しかし、数百年の寿命を保証するには十分な実績がありません。さびない補強材としては、合成繊維などを素材にした短繊維や長繊維もあります。ただし、これらの実績も歴史が浅いため保証されてはいません。補強材が構造物の安全性に影響を与えないようにするには、コンクリート自体の化学的安定、鋼材自体の耐久性、鋼材の腐食を遅らせる物質透過性の低減との連携が必要です。
塩害の抑制対策は、飛来塩分や凍結防止剤がコンクリート表面からの浸入を抑制することです。しかし、コンクリートを緻密化するだけでは、劣化因子の浸入を抑えることは困難です。図5 は、塩化物イオンの浸入速度を示すフィックの法則(Fick’s laws of diffusion:物質の拡散に関する基本法則)に従った推定結果です。
コンクリート構造物表面の塩化物イオン量が13kg/m3の環境で、材齢とともに内部の塩化物イオン量が増加する状況を表しています。かぶり厚さが50mm だと、コンクリート中の鉄筋は塩化物イオンによって、10~ 20 年ほどで腐食を開始する塩化物イオン量に達します。コンクリートの長寿命を考えると比較的早い時期であることが分かります。コンクリート表面に被膜を形成する対策が効果的です。近年注目されている塩害対策用塗膜材には、亜硝酸リチウムイオン系のものがあります。腐食している鉄筋周辺の不動態皮膜を修復する補修材料として着目され、劣化が始まった構造物の延命化技術として期待されています。図6 に示すように、腐食している鉄筋周辺の不動態被膜は、亜硝酸イオン(NO 2 – )が供給されると再生します。
また、亜硝酸リチウム系塗膜材は図7 に示すように、亜硝酸イオンによる鉄筋の修復効果のほか、リチウムイオンによるASR の吸水膨張を抑制する効果もあります。コンクリート構造物が劣化する原因に対して、適切な対策を取れば、鉄筋コンクリート構造物を長期間使用することが可能となります。
3. コンクリート構造物の長寿命化技術
全9回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 コンクリートの長所と短所
- 第2回 コンクリートの配合設計
- 第3回 コンクリートの製造技術
- 第4回 コンクリートの打設
- 第5回 コンクリートの養生
- 第6回 コンクリートの仕上げ
- 第7回 コンクリートのひび割れ
- 第8回 コンクリート構造物の劣化
- 第9回 コンクリートの長寿命化