コンクリート構造物の劣化は、さまざまな原因で進みます。コンクリート表面からの浸食や、内部組織のぜい弱化、さらには、コンクリートの弱点を補うために使用した鋼材の腐食などの原因があります。構造物が置かれる環境により、劣化因子が複雑に作用し、年数を経て劣化していきます。もちろん、丁寧に施工されたコンクリート構造物が、長い年月にわたって存在している場合も少なくありません。今回は、コンクリート構造物が劣化する現象について解説します。
第8回「コンクリート構造物の劣化」を解説していきます。
1. コンクリート構造物の劣化メカニズム
コンクリート構造物は、さまざまな原因で劣化していきます。劣化は原因別に、塩害、凍害、中性化に伴う鋼材の腐食、アルカリシリカ反応、化学的腐食、疲労などに分類されます。劣化のメカニズムはそれぞれ異なります。
塩害
塩害は、鉄筋の腐食膨張によりコンクリートにひび割れが生じ、構造安全性が損なわれる現象です。海岸から飛来した塩分がコンクリート内部に浸透し、鉄筋を腐食させます。寒冷地の山間部において、道路に凍結防止剤を散布する場合も塩害の影響を受けます。鋼材の腐食を守るための不動態被膜は、塩化物イオンが一定の濃度に達した段階で破壊されます。不動態被膜で覆われている部位との間で腐食電池を形成することにより、激しく鋼材腐食が進みます。図1 にコンクリート中の鉄筋腐食進行の概念を示します。
中性化
中性化による鋼材腐食は、高アルカリ性であるコンクリートが、中性化することにより生じます。中性化は、硬化したセメント中の水酸化カルシウムへ、空気中の二酸化炭素が浸入し、炭酸カルシウムに変化する現象です。つまり、高アルカリである水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変質することで、pH は中性化し、鉄筋を腐食環境にします。中性化の概念を図2 に示します。
中性化速度は、アルカリから中性に向かう速さを示す指標です。コンクリートの緻密さが影響し、水セメント比やセメントの種類により、速さが異なります。例えば、水セメント比が大きいと中性化が早く進み、水セメント比が小さくなるにつれて中性化しにくくなります。そして、普通ポルトランドセメントを使用したコンクリートでは、水セメント比が40%以下になると、中性化は生じません。混合材の置換率にもよりますが、高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントは、普通ポルトランドセメントに対し、2 ~ 3 倍の速度で中性化する場合もあります。
凍害
凍害は、コンクリート内部に含まれる水の凍結と融解の繰り返しにより起こる劣化現象です。コンクリート中の水の凍結膨張圧により、コンクリートの内部には圧力が生じます。氷が溶けて水に戻る段階では組織が緩みます。この現象の繰り返しにより、コンクリートの組織はぜい弱になります。水は氷になるときに9% 体積が膨張し、氷が溶けると体積が減少します。コンクリート組織の凍結融解は、厳寒地では毎日繰り返されます。このときの凍結圧を緩和するのは、内部に連行したエントレインドエアと称される微細な気泡の量です。適切な空気量が存在すれば、凍害に抵抗できます。また、凍結圧を強めるのは内部の水であるため、乾燥条件下では劣化はあまり進みません。
ASR
ASR(Alkali Sillica Reaction:アルカリシリカ反応)による劣化は、セメント中のアルカリと、骨材中のある種のシリカが反応し、吸水膨張によりコンクリートがひび割れを生じて、性能が低下する現象です。ASR による劣化の概念を図3 に示します。吸水膨張した骨材は、コンクリートに比較的大きな幅のひび割れを生じさせます。そして、骨材自体は強度を失い、コンクリート組織はぜい弱化します。
化学的腐食
化学的腐食は、下水処理施設などから生じる硫酸塩や、めっき工場などで使用される強酸、温泉地などの酸性水などにより、コンクリート表面が徐々にぜい弱化する現象です。もともと高アルカリのセメントコンクリートは酸に弱いため、酸に触れる場合は耐酸性の材料で被覆するなどの対策が必要です。
疲労
疲労劣化とは、道路床版などで、破壊強度より小さな外力であっても、繰り返し作用することで、床版が徐々にひび割れ、ついには欠落する現象です。
2. コンクリートをぜい弱化させる環境条件
コンクリート自体がぜい弱化する劣化現象は、凍害、アルカリシリカ反応、化学的腐食、そして疲労劣化です。図4、図5 に凍害による劣化事例を、図6 にアルカリシリカ反応による劣化事例を示します。
寒冷地では、コンクリート表面の小さなひび割れの発生や、表面が徐々に剥がれるスケーリングと呼ばれる現象が起こる場合があります。これらの現象は、凍害による劣化とみられます。凍害は、コンクリート中の水が凍り発生する現象なので、寒冷地が凍害環境といえます。ただし、中国地方や四国の山間部、九州でも凍害は生じます。もちろん、凍結が生じない沖縄では生じません。また、コンクリート中の水が凍ることによる劣化なので、水分が存在しないと凍害は生じません。擁壁(斜面の崩壊を防ぐための構造物)などでは、背面からの水の供給が凍害を助長します。また、雪解け水などが、コンクリート表面から内部に浸透しやすい環境では、凍害の発生が予想されます。
コンクリート構造物の表面に、網目状のひび割れが生じることがあります。これは、ASRによる劣化とみられます。アルカリシリカ反応性骨材は、日本全国各地に存在するので、ASR はどのような地域でも発生する可能性があります。ASR の対策が基準化されたのち、「JIS A 5308 レディーミクストコンクリート」に規定された生コン工場では、有害な骨材の場合は対策を示し、有害でない場合はそれを明記しています。なお、基準化される前に建設されたコンクリート構造物は、ASR が吸水による膨張でひび割れを助長することを考えると、水分の供給がない環境を作ることが対策となります。
化学的腐食の生じる環境は、下水施設、温泉地、酸を扱う工場などです。この劣化は表面から侵食するため、コンクリート表面に、劣化因子が触れない環境を作ることが必要です。耐酸性コンクリートの使用も対策の一つです。耐酸性の塗膜材で表面を保護すると、より効果的です。
疲労は、繰り返し荷重の作用で生じます。道路床版における疲労は、重量車両の交通量が多いと生じるため、車両の制限に関する法令(道路法や道路運送車両法)で規制されています。しかし、繰り返すと次第にひび割れが増え、最後にはコンクリートの欠落に発展する場合もあります。繰り返し荷重が作用した場合に、内部の水が被害を増幅するため、道路床版上部から、水の浸透がないよう、雨水などを確実に排水する対策が必要です。
3. 内部の鋼材を腐食させる環境条件
全9回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 コンクリートの長所と短所
- 第2回 コンクリートの配合設計
- 第3回 コンクリートの製造技術
- 第4回 コンクリートの打設
- 第5回 コンクリートの養生
- 第6回 コンクリートの仕上げ
- 第7回 コンクリートのひび割れ
- 第8回 コンクリート構造物の劣化
- 第9回 コンクリートの長寿命化