前回は、X 線によるキャラクタリゼーションを紹介しました。今回は最終回です。未来の触媒について解説します。理想の触媒とは、ほしいものをほしいだけ一瞬にして作れる、選択性 100% の触媒です。そうした触媒を、完全触媒と呼ぶことにします。従来の触媒では、活性化エネルギーが高く、起こりにくかった反応でも、完全触媒では、選択的かつ効率的に活性化することができます。例えば、メタンを酸素と反応させ、100%メタノールに変換を目指した触媒開発が進められています。メタンは、天然ガスやシェールガスの主成分なので、燃料としてだけではなく、プラスチックの原料にも利用できます。今回はさらに、無尽蔵な太陽光で水を分解する触媒、廃棄するしかない廃材から有用物質を作るバイオ触媒、そして時計仕掛けで動く触媒機材を紹介します。
第8回「未来の触媒」を解説していきます。
第8回もくじ
1. 光触媒―太陽光の利用
20 世紀の産業は、石油などの化石燃料をエネルギー資源として利用することで成長を遂げました。その物質変換にも、触媒が使われています。しかし、化石燃料が枯渇することは明らかであり、この 21 世紀は、いわゆる再生可能エネルギーあるいは太陽光へ、エネルギーシフトする必要があります。その可能性の一つに、植物が行っている光合成を人工的に起こす、光触媒があります。光のエネルギーを利用して、水を水素と酸素に変えることができる触媒です。
光触媒の端緒を見つけたのは、日本の化学者である本多健一氏と藤嶋昭氏です。その原理は、図 1 に示すように、半導体である光触媒に光を当てることで、電子と正孔が分離して、表面に運ばれることにあります。正孔は水から電子を奪い、電子は水素イオンに電子を与えます。光さえあれば、反応が進むため、理想的な触媒ということができます。さらに、燃料となる水素も発生することから、エネルギー源を生み出すこともできます。
得られた水素や酸素を利用し、さまざまな反応を引き起こすことができます。水素と酸素を直接電気に変えて車を動かしたり、家庭の電力として利用することも可能です。太陽のエネルギーは、ほぼ無尽蔵で膨大です。太陽エネルギーを用いて、効率よく利用できるエネルギーに変換し、物質に蓄えることで、必要な物質を必要なだけ得られることが、近い将来できるようになると思われます。これは、21 世紀に実現すべき持続可能社会の解決策の一つです。
2. バイオマス触媒
もう一つ、将来に向けて重要な触媒に、バイオマス触媒があります。植物は光合成により炭水化物を作り出します。炭水化物は、私たちの食料になり、また、木材の組織(セルロース)になります。セルロースは食料にはならないため、最終的には廃材として燃やすしかありません。しかし、触媒を利用することで、セルロースをメタノールやグリセリン、フランなどに変換でき、有用な化成品へと転換できるようになりました。こうした触媒が、バイオマス触媒です。ごみとなる廃材から有用物質を再生する夢の触媒です。
3. 触媒機械
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 触媒とは?
- 第2回 身近なところにある触媒
- 第3回 金属錯体触媒
- 第4回 不均一触媒
- 第5回 不均一触媒の反応例
- 第6回 キャラクタリゼーションの基礎
- 第7回 X線を用いたキャラクタリゼーション法
- 第8回 未来の触媒