前回は、触媒の働きと、触媒の性能を決める 3 要素を紹介しました。今回は、身近に存在し、私たちの日々の生活を支える触媒を取り上げます。
第2回「身近なところにある触媒」を解説していきます。
第2回もくじ
1. 自動車触媒
前回、光化学スモッグを軽減する自動車触媒を紹介しました。自動車に関連した触媒には多くの種類があります。自動車の燃料であるガソリンや軽油の生産にも、触媒が用いられます。地中から取り出した原油を蒸留する際、炭素鎖の長い炭化水素を含む重油は、クラッキング触媒で炭素鎖の短いガソリンや軽油へ分解されます。このとき、酸触媒や、貴金属を用いた水素化分解触媒が用いられます。また、化石燃料である石油に含まれる硫黄成分は、MoCoS や MoNiS などの水素化脱硫触媒で除去します。ハイオクガソリンを作るには、枝分かれの多い炭化水素に変換する必要があります。その場合、改質触媒が使われ、ここでも酸触媒が活躍しています。
今日、石油資源の枯渇や地球規模の環境破壊を防ぐため、石油から水素燃料へと、エネルギー移行が起こりつつあります。水素燃料を直接電気にして、そこから動力を取り出す燃料電池車にも、白金 Pt などの燃料電池触媒が使われています。
自動車に搭載されている触媒は、NO x を分解する貴金属です。貴金属は高価なので、使用量を減らすことと、寿命を延ばすことが重要な課題です。前者は、グラム当たりの活性を上げることで達成されます。この場合、表面積を増やすため、貴金属のナノ粒子を用います。寿命は、貴金属のナノ粒子状態をいかに維持できるかに関係します。ここで活躍する自動車触媒は、3 元触媒と呼ばれます。3 元触媒は、排気ガス中に含まれる有害物質の NO x や一酸化炭素 CO を、燃料や酸素を用いて、二酸化炭素 CO 2 、水 H 2 O、N 2 に分解します。
このとき、燃料と空気の比率(空燃比)を 1:14.6 にすると、最も効率よく 3 つの汚染物質を除去できるとされています。常にこの条件になるように、コンピュータで供給を制御する方法もあります。また、燃料:空気比はより小さくし、燃費の良い希薄燃焼条件(リーンバーン条件)下で働く触媒が作られています。これを実現するには、貴金属だけでは足りず、貴金属を高分散させる、担体と呼ばれる物質を積極的に利用することが必要です。
担体の多くは、酸化物です。熱に強く、値段もそれほど高くありません。粉末にすると高表面積になるため、貴金属のナノ粒子は離れ離れになり、ナノ粒子は安定して存在できます。自動車用担体には、Al 2 O 3 などが使われていました。
1990 年頃から、さらに機能を持つ触媒担体が作られました。酸素や燃料が多い条件では、運転モードによって排気ガスの組成が変化します。この触媒担体は、酸素を貯蔵、または放出することで、貴金属ナノ粒子が最も効率よく働けるようにします。その 1 つに、担体の Al 2 O 3 に、CeO 2 -ZrO 2 を混ぜたものがあります。CeO 2 -ZrO 2 は、気相中の酸素濃度により、酸素を吸収、または放出する性質があるため、これを利用すると、酸素濃度を最適化して運転できます。
また、酸化物触媒と貴金属の反応を利用し、金属微粒子を再生することで、寿命を延ばす触媒も開発されています。それが、複合ペロブスカイト酸化物触媒 LaC 7 Fe 0.38 Pd 0.05 O 3 です。還元条件でパラジウム Pd が還元され、Pd が格子から放出されて、Pd ナノ粒子になります。そのままにしておくと、Pd ナノ粒子は大きくなります。しかし、運転環境が酸化条件になると、大きくなった Pd 粒子がペロブスカイト酸化物に取り込まれ、原子状(Pd 2+ ) になります。還元雰囲気になると、Pd ナノ粒子が再生します。これを繰り返すことで寿命が延びます。触媒は、まるで生物のように変化して最適条件で働きます(図 1)。
このように、主役の貴金属だけでなく、脇役の担体が強力にサポートすることで、触媒は高い機能を発揮することができます。
2. プラスチック合成触媒
私たちの身の回りには、多くの合成プラスチックがあります。その代表例が、ポリエチレンです。ポリエチレンは 1930 年代に開発され、1960年代から爆発的に利用されるようになりました。その原料は、石油から作られるエチレンです。
当初、合成プラスチックの合成には、酸素ラジカルが使われ、100 気圧以上の高圧がかけられていました。その後、CrO x 触媒(フィリップス触媒)が開発されました。これにより、100 気圧以下の中圧でエチレンを重合し、高密度ポリエチレンが得られるようになりました。
現在、最もよく使われているのはチーグラー・ナッタ触媒です。これは、TiCl 4 -Al(C 2 H 5 ) 3 を主成分として、MgCl 2 に担持した触媒です。10 気圧以下という低圧で、高密度ポリエチレンを合成できます。さらに、分子量分布や立体構造を精密制御できるジルコノセン Cp 2 ZrCl 2 (Cp はシクロペンタジエニル)触媒が開発されています。これは、開発者の名にちなんでカミンスキー触媒とも呼ばれ、助触媒として(Al(CH 3 )O) x (MAO)が用いられています。こうした重合触媒に関しての機構は、金属を含む環状中間体(メタロサイクリック)を経由すると考えられています(図 2)。
チーグラー・ナッタ触媒は、エチレンに限らず、プロピレンやアセチレンの重合触媒になります。日本の化学者である白川英樹博士は、通常より触媒濃度の大きいチーグラー・ナッタ触媒を用いて、アセチレンを急速に重合し、溶媒と気相の間に膜状のポリアセチレンを合成できることを見いだしました。さらに、ポリアセチレンにヨウ素をドープし、電気を流す高分子ポリマーを作りました。これにより、2000 年にノーベル化学賞を受賞しています。
3. 小さくても元気なプロトン酸触媒
4. 酵素
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 触媒とは?
- 第2回 身近なところにある触媒
- 第3回 金属錯体触媒
- 第4回 不均一触媒
- 第5回 不均一触媒の反応例
- 第6回 キャラクタリゼーションの基礎
- 第7回 X線を用いたキャラクタリゼーション法
- 第8回 未来の触媒
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