前回は、航空機の燃費改善に向けたNASAの新しい機体設計を紹介しました。現在の旅客機と大きく異なる設計が実用化されるには、かなり時間がかかりそうです。そこで、より短期的にCO2削減が可能な技術として、バイオ燃料などの次世代ジェット燃料が期待されています。今回は、SAFと呼ばれる次世代ジェット燃料の技術を紹介します。
第5回「サステナブルな航空燃料SAF」を解説していきます。
第5回もくじ
1. 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー 2」が現実となるか
1989年に公開されたハリウッド映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」では、30年後の未来である2015年に、ごみを燃料として空中を飛行する空飛ぶ自動車デロリアンが登場しました。昨今、植物由来のごみからジェット燃料を生成する技術が、航空のCO2を削減するとして、実際に期待されています。バック・トゥ・ザ・フューチャーが現実となろうとしているのです。
植物由来の原材料からジェット燃料を生成することで、なぜ航空機から排出されるCO2が削減されるのでしょうか? 植物から生成されたジェット燃料も、ジェットエンジンで燃焼後にCO2を排出しています。これは、石油から精製されたケロシンを主とするジェット燃料と同じです。ただし、大気中のCO2を吸収し、光合成により生育した植物を燃料とすることで、トータルとして見るとCO2の削減につながります。植物由来のジェット燃料は、この点が評価されています。
石油は、太古の植物や藻が堆積して作られたと考えられています。つまり、石油を燃焼させることで、太古の大気中のCO2が、現在の大気中に放出されているといえます。しかし、植物から生成したジェット燃料の場合、これを燃焼させても、生成などに放出されたCO2を除けば、CO2が光合成による吸収と燃焼による排出で循環するだけなので、トータルとしてCO2は増加しないといえます(図1)。
しかし、植物とはいえ、トウモロコシなどは食物として利用されるので、大量に食物性植物を燃料にすることは食料危機をもたらしかねません。そのため、食用にはならない植物や、藻類、廃材などからジェット燃料を生成する技術が脚光を浴びています。航空の世界では、これをSAF(Sustainable Aviation Fuels:持続可能航空燃料)と呼びます。
2. 第2次世界大戦前のドイツで開発されたSAFの生成技術FT合成法
SAFの生成技術は、何種類か存在します。その一つであるFT合成法は、第2次世界大戦中のドイツで確立されました。1920年代、ドイツのカイザー・ウィルヘルム研究所において、フランツ・フィッシャーとハンス・トロプシュによって開発された技術で、2人の名を取って、フィッシャー・トロプシュ法(FT法)と呼ばれます。
FT合成法は、石油の輸入が困難になった場合に備えて、豊富に採掘可能な石炭から液体燃料を得るための技術です。150 ~ 300°Cの温度下で金属触媒を使用し、一酸化炭素と水素から液体炭化水素を製造します。第2次世界大戦下のドイツや日本で、実際に石油の代替燃料製造法として利用されました。
第2次世界大戦後、多数のドイツ人研究者や技術者がアメリカに移管され(ペーパークリップ作戦)、FT合成法は、アメリカの合成液体燃料計画に利用されました。アメリカでは、FT合成により、石炭とオイルシェール(高粘度の重質油を含む砂、ないし砂質岩)から合成液体燃料を製造する技術は、1972年のオイルショックによる石油価格高騰の際、注目を集めました。ただし、1980年代以降は、石油との競合が激しくなり、合成液体燃料計画は廃止されました。
第2次世界大戦後、FT合成による合成液体燃料が産業化されたのは、アパルトヘイト政策による世界的な孤立により、石油の輸入が困難となった南アフリカ共和国でした。同国のサソール社は、石炭と天然ガスからFT合成による合成液体燃料製造の技術開発を進め、現在では、合成液体燃料以外の単価の高い化学製品を製造しています。
南アフリカ以外でFT合成の産業化が進んでいるのは、天然ガスの豊富なカタールや、マレーシアなど一部の国に限られていました。しかし、近年では、カーボンニュートラルを実現するために、石炭や天然ガスではなく、植物由来のバイオマスを原料としたFT合成法が注目されています(図2)。
3. 持続可能な航空燃料SAF
4. FT合成以外にも製造される航空燃料SAF
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 国際航空のCO2削減計画
- 第2回 飛行機の燃費はどのように決まるか?
- 第3回 燃費向上のための技術革新
- 第4回 機体軽量化のための技術革新
- 第5回 サステナブルな航空燃料SAF
- 第6回 技術を補う経済的スキーム、カーボンクレジット