機体軽量化のための技術革新|カーボンニュートラルの基礎知識4

カーボンニュートラルの基礎知識
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、航空機の燃費改善に向けた技術開発の流れを説明しました。実質的なカーボンニュートラルを目指すには、そうした技術改善を極限まで進める必要があります。将来の航空機は、現在、私たちが目にするものとは全く異なるものに進化する可能性もあります。今回は、主にアメリカNASAの研究から未来の航空機を構想し、BWB(Blended Wing Body)とTBW(Truss-Braced Wing)の2つのコンセプトについて紹介します。

第4回「機体軽量化のための技術革新」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 未来の飛行機はエイのような機体になる

まず、燃費削減を目指した未来の航空機としての一つ目のコンセプト、BWB(Blended Wing Body:翼胴融合)を紹介します。BWBは簡単にいえば、エイのような形態の航空機です。航空機は初期の段階から、エンジンや乗員乗客、荷物を搭載する胴体と、揚力を発生する主翼は、異なった役割を担う構造体として設計されてきました。一方、BWBは胴体と主翼が一体化した設計になっています。

翼と胴体を一体化した設計として、前回、ユンカース教授が特許を取得した全翼機を紹介しました。実際に製造され、飛行した全翼機もあります。ノースロップYB-35は、最初の本格的な全翼機です(図1)。

全翼機YB-35
図1:全翼機YB-35(引用:ウィキペディア、ノースロップYB-35)

第2次世界大戦において、アメリカ陸軍航空隊は、大西洋を往復できる爆撃機として航続距離の長い大型爆撃機を計画しており、全翼機に注目しました。ノースロップ社の創業者であるジャック・ノースロップは、全翼機の開発を1930年代から手掛けており、それを大型爆撃機として実現させるチャンスでした。

全翼機は尾翼がないため飛行安定性に欠け、エンジンのトラブルもあり、開発は困難を極めたものの、1946年に初飛行に成功しました。YB-35は、その後ジェットエンジンへ載せ替えたYB-49へと変化しました。

しかし、大陸間弾道ミサイルの開発により大型爆撃機への要求も明確ではなくなり、全翼爆撃機の構想は開発途中でなくなってしまいました。

全翼爆撃機が正式採用に至ったのは、1989年に同じノースロップ社(正式にはノースロップ・グラマン社)によるB-2爆撃機でした(図2)。

1989年初飛行以来現在も採用
図2:全翼機B-2、1989年初飛行以来現在も採用(引用:ウィキペディア、ノースロップB-2)

B-2に全翼形態が採用されたのは、航続距離が長いことに加え、ステルス性(レーダーなどのセンサ類から探知されにくくする軍事技術)に優れるという理由でした。レーダーに映りにくくするために、翼と胴体の結合部にある角を有しないことが有利と判断されたことによります。開発の途中で開発費が高騰したため、132機が製造される計画は21機に削減されました。その後、1997年に正式に採用され、現在も使用されています。

NASAは、未来の航空機としても、エイのようなBWB機を提案しています(図3)。形はB-2のような全翼機に似ています。ただし、旅客機や輸送機を前提とするため、客席や荷物の収納スペースを確保した設計を研究しています。

マクドナルド・ダグラス
図3:マクドナルド・ダグラス(ボーイングに合併)で1990年代に検討されたBWB(引用:NASA AERONAUTICSBOOK SERIES、BeyondTube and Wing、P.47)

NASAのBWB機は、1990年代に当時のマクダネル・ダグラス社において、将来の大型旅客機として始まった研究に端を発しています。マクダネル・ダグラス社は、800人乗りの大型旅客機の設計プロジェクトをNASAから受託し、研究を開始し、その後ボーイング社に併合された後も続けました。

このプロジェクトを率いたリーベックは2004年に発表した論文で、「BWBは従来の胴体と翼が分離した設計と比較して、離陸重量を15%削減し、燃料消費を27%削減するなど、著しい性能向上を達成した」と述べています。空力的に優れているのみならず、翼と胴体が一体となった形態では軽量化も可能となり、燃費を大幅に改善できます。こうした軽量化と燃費の向上は大きなメリットでした。一方、特異な形態をした機体が安定した飛行は可能なのかという懸念もありました。

1990年代にスタンフォード大学により、BWBラジコン機の飛行試験の研究が行われました。この実績が影響し、NASAとボーイング社はBWBの無人航空機X-48を製作し、2007年にX-48Bの飛行試験に成功、2010年にはX-48Cの飛行試験にも成功しました。X-48Bの翼幅は6.4mで実機の8.5%とされ、小型のジェットエンジンを翼面上に3基搭載していました。X-48Cでは、垂直尾翼の位置が変更になり、エンジンは2基となりました(図4)。コンピューターによる飛行制御も導入され、BWBは安全な飛行が可能であることが実証されました。

NASAで飛行試験に使われた無人航空機
図4:NASAで飛行試験に使われた無人航空機(引用:ボーイングX-48)

BWBは、飛行特性以外にも課題が指摘されています。構造設計上の課題は、最も重要と考えられます。成層圏の飛行の場合、機内の与圧が必要になります(第3回、図5)。胴体が円筒であれば、与圧をかけた場合、構造的なストレスを円筒の胴体が均等に受け持つことが可能です。しかし、BWB内部の薄く広がる客席収納部をどのような与圧構造にするかは、明確な指針が得られていません。また、緊急時に乗客を機外へ迅速に脱出させることができるかどうかも課題です。航空法では、90秒以内に乗客を脱出させることが求められています。さらに、客席に窓がなく、翼端に近い場合は、機体が傾くと大きな上下動が生じるため、乗客から苦情が出るのではないかといった懸念もあります。

NASAは2009年から2015年まで、環境対応型航空機の研究プログラムを実施しました。二酸化炭素や窒素酸化物などのエンジン排出を削減し、騒音を低下させるといった環境に配慮した、将来に向けた航空機の研究です。その中でボーイング社は、20年後を想定したBWB機を提案し、NASAの要求する目標を達成することを目指しました(図5)。その目標は、1998年就航の機体に関して、燃料消費を50%、有害排出物を75%削減、空港騒音の影響範囲を83%縮小させるというものでした。

NASAの環境対応型航空機研究プログラムで提案されたボーイング のBWB機
図5:NASAの環境対応型航空機研究プログラムで提案されたボーイング のBWB機(引用:NASA AERONAUTICSBOOK SERIES、BeyondTube and Wing 、P.188)

ボーイングが提案したBWB機の機体サイズは、翼幅45m、全長25m、全高6.4mで、エンジンにはPW1,000Gs(プラット&ホイットニーのギヤード・ターボファン)を2基、胴体上に配置します。構造は炭素繊維複合材料が多用され、NASAとボーイングが研究中の新しい構造様式(PRSEUS)が採用されます。PRSEUSは、引き抜き棒を芯材に持つストリンガーと、縫い込み接合を可能とする炭素繊維複合材料の特徴を生かした次世代の構造様式です。

ジェット騒音は、エンジンを胴体上部に配置することで地上騒音への影響が低減されます。騒音面では、低騒音化された脚設計などが組み込まれました。空力面では、乱流摩擦抵抗を低減するリブレット(表面突起)や、層流境界層制御が想定されています。2025年には、新たな航空交通管理システムNextGen の恩恵を受けることができるとしている点も、燃料消費改善に貢献します。ボーイングは、そのメリットは最適飛行経路の選択や、着陸時の効率的な降下方式(Continuous Descend Landing)により14%の改善が見込まれるとしています。

2. 未来の飛行機は支柱付きの細長い翼を持つ

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 国際航空のCO2削減計画
  • 第2回 飛行機の燃費はどのように決まるか?
  • 第3回 燃費向上のための技術革新
  • 第4回 機体軽量化のための技術革新
  • 第5回 サステナブルな航空燃料SAF
  • 第6回 技術を補う経済的スキーム、カーボンクレジット

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