前回は、カーボンナノチューブの応用上の問題や課題について解説しました。この連載の第1回で、ナノカーボンの種類を紹介しました。ナノカーボンの一つであるC₆₀は、1998年にカーボンナノチューブと融合し、ナノチューブの中空部分にC₆₀が内包された試料が合成されました。この内包試料はC₆₀という豆が、ナノチューブのさやに収まっているように見えるので、ピーポッド(さやえんどう)と呼ばれます。連載最終回となる今回は、この内包を利用したナノチューブの応用について紹介します。
第6回「カーボンナノチューブの内包という機能」を解説していきます。
1. カーボンナノチューブの特異性を示す内包という機能
C₆₀を内包したSWCNTは、1988年、TEM(Transmission ElectronMicroscope:透過電子顕微鏡)写真(まるでカエルの卵の写真のように見える)によって初めて報告されました。この出来事は、多くの研究者を魅了し、その後、触発された研究者たちによってさまざまな分子内包の試みが行われ、次々に新しい内包試料が報告されることとなりました(図1)。
C₆₀を内包したSWCNTは、ピーポッドと呼ばれます。ただし、さまざまな分子が内包されるようになると、単にピーポッドではなく、何を内包したかを明示するため、「C₆₀ピーポッド」のように表すようになりました。また、「C₆₀@SWCNT」のように、@の前に内包分子を書くこともあります。
図2左に、C₆₀ピーポッドの合成方法を示します。C₆₀分子とSWCNT試料をガラス管に真空封入した後、これを加熱処理するとC₆₀ピーポッドが得られます。C₆₀分子は、真空中で加熱すると分子構造を保ったまま昇華します。昇華したC₆₀分子が冷却されるとき、毛管凝縮の原理でSWCNTのチューブ内に析出します。
図2右のSWCNT内の表面ポテンシャル(空気との境界面にできる電位差)に示すように、SWCNTのチューブ中心には、内表面からの表面ポテンシャルが全方向から積分されるので、チューブ内部に強い分子吸着力が生じます。これにより、C₆₀分子がチューブ内に引き寄せられるように内包されていきます。C₆₀@SWCNT内のC₆₀分子間の距離は、バルク結晶のときよりも数%小さくなっていることが確認されています。この状況は、あたかも内包C₆₀に外部から圧力がかかって押し込まれたように捉えることができます。そのため、SWCNT内は疑高圧力場であると表現されることもあります。
2. ヨウ素分子を取り込むSWCNT
C₆₀分子を昇華してSWCNT内部に析出するように、合成された内包SWCNTの多くは昇華性の分子を利用しています。ヨウ素分子は、昇華法だけではなく、全く異なるやり方での内包も可能です。ヨウ素デンプン反応に利用されるヨウ素液は、ヨウ化カリウム溶液にヨウ素分子I₂を溶かしたものです。ヨウ素分子は水に直接は溶けにくいものの、ヨウ化物イオンIが存在していると、三ヨウ化物イオンI₃-を作ってよく溶けるようになります。
このヨウ素液にSWCNTを入れると、溶液の色の変化が確認できます(図3)。これは、SWCNTが三ヨウ化物イオンI₃-からヨウ素分子I₂を引き剥がしてチューブ内に取り込み、茶色(I₃-)から透明(I-)になったためです。
3. 内包機能を利用した二次電池
4. ヨウ素内包SWCNTから合成する太陽光CO₂還元触媒
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 カーボンナノチューブの構造と特徴
- 第2回 カーボンナノチューブの電子状態を決めるカイラリティ
- 第3回 カーボンナノチューブの理想と現実
- 第4回 カーボンナノチューブをどう分析するか
- 第5回 カーボンナノチューブの応用上の問題・課題
- 第6回 カーボンナノチューブの内包という機能