前回は、カーボンナノチューブの分析と評価を紹介しました。教科書には、カーボンナノチューブの美しい構造と素晴らしい物性が示されています。しかし、実際の試料には、さまざまな問題があります。カーボンナノチューブの応用を目指す場合、どうすればこれらの問題を克服することができるのでしょうか。今回は、カーボンナノチューブの応用上の問題や課題について解説します。カーボンナノチューブの精製法、分散手法、および金属・半導体分離法を理解しましょう。
第5回「カーボンナノチューブの応用上の問題・課題」を解説していきます。
1. カーボンナノチューブの精製
購入したカーボンナノチューブ試料を分析し、不純物の量や試料の質を確認すると、次に行うのは精製処理です。精製処理には、酸処理、空気中での高温処理や過酸化水素水での処理、真空下での高温アニーリング処理があります。
・酸処理
多量に含まれている金属触媒を除去する方法として、多くの読者は、酸処理を思い付くでしょう。実際に、酸処理で触媒量を減らすことは可能です。しかし、熱重量分析(TG)で確認すると、多くの場合、数%の金属触媒が残ってしまいます。これは、既に述べてきたように、金属触媒がカーボンでコートされたような状態になっていると、酸処理がよく効かなくなるためです。
・高温処理、過酸化水素水処理
空気中での短時間高温処理や、過酸化水素水を使用した処理は、コートされたカーボンを取り除くのに効果的です。この処理を行ってから酸処理することにより、触媒金属を溶解除去することができます。カーボンの酸化処理により、金属触媒と並んでよく含まれる不純物であるアモルファスカーボンも除去できることがあります。
このように、カーボンを酸化処理して精製する手法は多くの場合効果的です。しかし、この酸化処理により単層カーボンナノチューブ(SWCNT)自体も酸化し、劣化させてしまうことがあるので、十分に注意して行う必要があります。六角網面が発達したSWCNTは、アモルファスカーボンなどに比べて耐酸化性が高いため、うまく実験条件を制御すれば、SWCNTを劣化させずに不純物のみを除去することが可能です。一方、低品質のSWCNTでは、精製をしているつもりでチューブを傷ませることがあるため、この場合も注意が必要です。
・高温アニーリング処理
酸処理や過酸化水素水処理などを行っても完全に金属触媒を除去できない場合、真空下での高温アニーリング処理が有効です。高温アニーリング処理は、1,300℃に近い高温で高真空にすることで、触媒金属の除去を行います。試料から除去された触媒金属は、反応管の低温部に蒸着されます。これは酸洗いで簡単に除去できます。また、このアニーリング処理は、精製過程で除去できなかった官能基の除去や、欠陥の修復などの目的でも行われます。ただしこの場合も、SWCNTの結晶性をよく見極めながら温度や真空度の制御を行わないと、試料を傷ませてしまうことがあります。また、うまく品質を向上できた場合でも、副作用として、チューブ端がフラーレンのハーフキャップで閉じられることがあります(図1)。キャップの有無は、窒素ガスの吸着実験などで確認することが可能です。
2. カーボンナノチューブを分散する
基板の上にナノチューブを薄く塗膜したり、ナノチューブをフィラーや導電材としてポリマーなどに混合したりする場合には、ナノチューブの分散液が必要になります。ところが、第3回で説明したように、ナノチューブは凝集体を作りやすいため、分散液の調整は容易ではありません。タンパク質を切断できる強力な超音波ホモジナイザーを用いて、SWCNTを溶液中に短時間分散させることはできます。ただし、放置しておくと、すぐに凝集して沈殿してしまいます。定常的な分散液を作るには、界面活性剤の助けが必要になります。界面活性剤としては、コール酸ナトリウムやドデシル硫酸ナトリウムなどがよく利用されます(図2)。
ナノチューブの分散液を得るもう一つの方法として、親水化処理があります。これは、ナノチューブ表面に親水性の官能基を導入するもので、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)においてよく行われます。
3. カーボンナノチューブの金属・半導体分離
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 カーボンナノチューブの構造と特徴
- 第2回 カーボンナノチューブの電子状態を決めるカイラリティ
- 第3回 カーボンナノチューブの理想と現実
- 第4回 カーボンナノチューブをどう分析するか
- 第5回 カーボンナノチューブの応用上の問題・課題
- 第6回 カーボンナノチューブの内包という機能