前回は、カーボンナノチューブの構造と特徴を紹介しました。今回は、カーボンナノチューブの種類を取り上げます。カーボンナノチューブには、実に多くの種類があり、金属性と半導体性に大別することができます。この違いは何によって決まるのでしょうか。
第2回「カーボンナノチューブの電子状態を決めるカイラリティ」を解説していきます。
1. カーボンナノチューブの電子構造
フラーレンC60、ナノチューブ、グラフェンは、いずれもsp2炭素で構成されており、構造にも類似性があります(詳しくは第1回参照)。しかし、これらの電子構造は、3者で大きく異なります。図1に、C60、グラフェン、カーボンナノチューブの電子構造を示します。
・フラーレンC60
C60は、炭素原子60個から構成されています。そのため、1つの分子を構成する電子数は360個と数えることができます。こうした分子については、分子軌道を量子科学計算などで求め、エネルギーの低い軌道から電子を配置していくと、基底状態の電子構造を得ることができます。図1左に示したのはその一部です。矢印で示したアップスピンとダウンスピンの2つの電子が、1つの軌道をちょうど埋め終わるところを示しています。
また、電子を埋め終わる最後の軌道、すなわちエネルギーが最も高い占有軌道(HOMO)がエネルギー的に5重に縮退していることが分かります。一方、その次に電子が入る軌道、すなわち基底状態では、空の軌道の中で最もエネルギーが低い軌道(LUMO)は3重に縮退しています。C60は、HOMO、LUMOの位置がエネルギーゼロの真空準位よりもかなり低い位置にあることが知られています。
・グラフェン
グラフェンは2次元結晶と呼ばれることもあり、分子とは異なり、電子数を規定することはできません。従って、C60のように分子軌道を1つずつ描くことはできません。図1中央に示したグラフェンの電子構造は、電子状態密度の模式図です。斜線の部分は、電子が占有したバンドの中でエネルギーが最も高い価電子帯、白地の部分は伝導帯を示しています。一般的な半導体の場合、価電子帯と伝導帯の間にはエネルギーの開きがあり、このエネルギー差をバンドギャップと呼びます。グラフェンは、このギャップがないゼロギャップ半導体であり、このことが特異な物理・化学特性に関連します。
・カーボンナノチューブ
図1右の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の電子構造も、グラフェンと同様に電子状態密度の模式図で示しています。黒色で示した価電子帯と白色の伝導帯の間には明瞭なギャップがあり、SWCNTは半導体性のナノチューブであることが分かります。ただし、既に述べたように、ナノチューブには半導体性だけでなく金属性のものもあります。金属性の場合、状態密度は小さいものの、図のギャップの部分にも状態(電子が収まる状態を指し、分子の分子軌道に相当する)が存在し、上下が連続したバンド(エネルギー帯)となるので注意が必要です。
SWCNTの電子状態密度は、図1右に示すように独特な形状をしています。このバンド内で横方向に線上に伸びた部分は、状態密度が発散的に増大するファンホーブ特異点と呼ばれるものです。この特異点の位置や、価電子帯と伝導帯の特異点間のギャップは、これから述べるSWCNTの種類によって大きく変化し、光学特性などの物性に大きく影響します。
2. カーボンナノチューブの構造
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを巻き上げた筒状の構造をしています。さらに、1つの筒から成るSWCNTと、複数の筒で構成される多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の種類があります(図2)。
図2のMWCNTの図には、直径が異なるチューブが多数存在します。2つのSWCNTは、一見同じに見えるかもしれません。しかし、よく見ると、炭素の六員環(ろくいんかん)の並び方が異なっています。チューブの端の部分の構造が特徴的で、一つは肘掛け椅子(アームチェア)のように平らなくぼみが見られ、もう一つは山折り谷折りが続くジグザグ型になっています。
この2つは、非常に特徴的なチューブエッジ構造です。このどちらでもないものを、カイラル型と呼びます。また、これらの構造の違いを、カイラル指数(n,m)で区別します。カイラル指数については、次章で詳しく説明します。
3. カイラリティが構造・物性を決める
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 カーボンナノチューブの構造と特徴
- 第2回 カーボンナノチューブの電子状態を決めるカイラリティ
- 第3回 カーボンナノチューブの理想と現実
- 第4回 カーボンナノチューブをどう分析するか
- 第5回 カーボンナノチューブの応用上の問題・課題
- 第6回 カーボンナノチューブの内包という機能