前回は、ゲノムとは何かを解説しました。今回は、セントラルドグマにおける情報の流れの中間に存在するRNAについて説明します。
第3回「RNAの全て」を解説していきます。
第3回もくじ
1. ジャンクではなかったジャンクDNA
DNAは情報を記録するという明確な機能を持ち、タンパク質は、実際に人体組織の生成を担う機能を持ちます。その両者の間にある中間体がRNAです(第2回参照)。いったい、なぜRNAの存在が必要なのでしょうか? DNAが、直接タンパク質に変換されればよいのではないのでしょうか? この疑問に答えたのが、バイオインフォマティクスでした。
前回説明したように、21世紀初期、ヒトゲノムの塩基配列がほぼ全て解読され、続いてその機能の研究が始まりました。実は、そこで解説したセントラルドグマには、実は大きな落とし穴がありました。ヒトゲノムを構成するDNAのうち、タンパク質に変換されるのはわずか数%に過ぎず、残りの大部分の機能は不明でした。当時、この部分はジャンクDNAと呼ばれていました。ここでのジャンクとは、廃品、がらくた、不用品を意味し、何の役にも立たないものの総称とされています。
ところが、実際に解析してみると、その印象は一変しました。ゲノムが解読されたことで、細胞中のRNAが、ゲノムのどの部分から読み出されたものかを調べることができるようになったのです。要するに、DNAの機能推定と同様に、細胞中のRNAの配列を解読してから、長大なDNA(30億塩基)のどこの箇所からRNAが読み出されたかを推定できるようになったということです。この解析は、まさにバイオインフォマティクスのタスク、そのものです。
その結果、驚いたことに、タンパク質に変換されない部分も、大部分はDNAからRNAに変換されていることが判明しました。変換されている以上、RNAは何らかの機能を果たしているはずです。当然、それが何であるかに注目が集まりました。
2. マイクロRNA
残念ながら、RNAの全てをここで説明することは不可能です。興味ある方は、拙著「生命はデジタルでできている」の第2章 RNAのすべて(トランスクリプトーム)を参照してください。そこで、非コードRNAのうち、比較的研究が進んでいるマイクロRNAについて解説します。
マイクロRNA(miRNA)とは、タンパク質に変換されないRNA、いわゆる、非コードRNAです。マイクロRNAは、自身と同じ配列をもつ遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)に結合し、そのmRNAを分解したりタンパク質への翻訳を阻害したりすることでその遺伝子の発現を抑制します(図1)。
マイクロRNA自身はわずか22塩基しかなく、仮にタンパク質に変換されても、短すぎて機能を持つことはできません。しかし、22塩基のうち、端末の8塩基の部分を使って、相補的な配列を持つRNAに結合します。例えば塩基はA(アデニン)とT(チミン)、そしてG(グアニン)とC(シトシン)が結合しやすいという性質を持つのに対し、RNAの場合、TはU(ウラシル)に置換されているため、AとUが結合します。
この分析において、またバイオインフォマティクスが活躍しました。どのマイクロRNAが、タンパクに変換されるRNAを標的とするかを、配列の相補性を用いて推定したのです。この研究は、マイクロRNAの機能(どのRNAを標的とするのか)の推定を、実験をせずに行ったという意味で、まさに計算機で生物学を行うバイオインフォマティクスの典型的な成功例となりました。
3. mRNAワクチンとは
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 バイオインフォマティクスとは
- 第2回 ゲノム
- 第3回 RNAの全て
- 第4回 タンパク質の全て
- 第5回 メタボロームの全て
- 第6回 マルチオミックス