ヒューリスティックのわな(前編)|行動経済学の基礎知識2

行動経済学の基礎知識

著者:関西学院大学 経営戦略研究科 教授 池田 新介

前回は、認知処理システムについて紹介しました。私たちは判断を行うとき、全ての材料を細かく検討するのではなく、おおよその目算で済ませます。熟慮システム(システム2)を立ち上げて考えるのではなく、直感システム(システム1)によって大体の判断を下します。ハーバート・アレクサンダー・サイモン(第1回参照)は、こうした直感による大ざっぱな判断を、ヒューリスティックと名付けました。ヒューリスティックによる判断は、システム2による合理的な判断からは外れたものになります。そうであっても、平均すればゼロになるようなランダムなものであれば問題ありません。しかし、多くの場合、それはシステマティックなエラー、つまりバイアスを伴うため、私たちの意思決定や行動を狂わせます。今回と次回は、3つのタイプのヒューリスティックを取り上げます。

第2回「ヒューリスティックのわな(前編)」を解説していきます。

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1. 「それらしさ」に引きずられる-代表性のヒューリスティック

行動経済学では、物事の「それらしさ」のことを、代表らしさ、または代表性といいます。そして、それらしさによって物事の起こりやすさや確率を見積もることを、代表性のヒューリスティックといいます。要するに、ステレオタイプによる判断です。

私たちが最も陥りやすい判断ミスは、物事のそれらしさに引っ張られ、その起こりやすさや確率を判断してしまうことです。

例えば、ある人物の性格について、規則にうるさく神経質なところがあると説明されてから、その人の職業を想像する場合を考えてみましょう。多くの人は、その人が販売店員であるよりも、会計士である確率を高く見積もります。規則にうるさく神経質という性質が、販売店員よりも会計士の方に、それらしいと考えるからです(図1)。

職業によるそれらしさ(イメージ)
図1:職業によるそれらしさ(イメージ)

感覚的なそれらしさが、客観的な確率をうまく反映していれば問題ありません。しかし、代表性のヒューリスティックには、それらしい事象の確率を感覚的に過大に見積もり、それらしくない事象を過小に判断するバイアス(偏り)が伴います。

上の例でいえば、規則にうるさく神経質という属性が、販売店員よりも会計士に似つかわしいために、会計士である確率の方が高いと判断してしまいました。しかし、販売店員の人口の方がはるかに多い事実を踏まえると、その確率判断は正しいとはいえません。会計士らしさに引っ張られて、会計士である確率を過大に、販売店員である確率を過小に見積もっているということです。

2. 代表性のヒューリスティックから起きる判断ミスの事例

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全10回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 速い思考と遅い思考
  • 第2回 ヒューリスティックのわな(前編)
  • 第3回 ヒューリスティックのわな(後編)
  • 第4回 自滅選択のメカニズム
  • 第5回 自滅を避けるには?
  • 第6回 リスク下で起こしがちな行動(前編)
  • 第7回 リスク下で起こしがちな行動(後編)
  • 第8回 人はモノで動くか?
  • 第9回 行動を良い方向にナッジする(前編)
  • 第10回 行動を良い方向にナッジする(後編)

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