前回は、宇宙物理学の特徴と、通常の物理学との違いを紹介しました。今回は、恒星を取り上げます。宇宙物理学の基本は星(恒星)です。宇宙を観測する伝統的な手段は、電磁波の中でも肉眼で見ることができる可視光の観測です。電磁波より波長が短く生命に有害な紫外線は、大気で吸収され地表には届きません。基本的に、私たちが天体望遠鏡で観測できるのは、恒星が放出している電磁波です。恒星を理解するには、さまざまな物理学を駆使する必要があり、恒星の理解は宇宙物理学の基礎となります。
第2回「恒星」を解説していきます。
第2回もくじ
1. 恒星のエネルギー源
なぜ恒星は自ら光を発し輝いているのかという問題は、昔から議論されてきました。最も代表的な恒星は太陽です。太陽は過去何十億年もの間、大量の熱を放出しています。どのくらいのエネルギーを出しているのかは、簡単な考察から分かります(図1)。地球は太陽から約1億5千万km離れていて、地球軌道で1m 2 当たり1.37kWの熱を受けています。この単位面積当たり、単位時間の太陽エネルギー量を、太陽定数といいます。
太陽の出しているエネルギーは、太陽定数によって求められます。太陽を中心とする半径1億5千万kmの球を想定し、その表面積に太陽定数をかければ、太陽のエネルギー発生率(光度)を算出できます。計算すると、3.86×10 26 W(J/sec)となります。
1kgの石油を燃やすと、約38MJ(3.8×10 8 J)のエネルギーが出てきます。太陽の質量は約2×10 30 kgなので、それが全部石油だったとしても約7,000年で燃え尽きてしまうでしょう。そもそも、石油が燃えるには酸素が必要です。しかし、周知のとおり宇宙空間に酸素はありません。
酸素がなくても利用できるエネルギーとして、重力エネルギーを考えてみましょう。無限遠から太陽の半径まで物質を落下させたとき、重力エネルギーは運動エネルギーに変わり、それが熱に転化するとします。このエネルギーは、Gを重力定数、Mを太陽質量、Rを太陽半径として、GM 2 /(2R)と見積もることができます。具体的な数値を入れると、2×10 41 Jとなり、約1,600万年間、太陽を輝かせることができます。しかし、これでも全く足りません。
最終的に、太陽のエネルギー問題が水素の核融合反応として解決されたのは、20世紀に入って量子力学が確立し、原子核の理解が進んだ1930年代以降のことでした。恒星の中での水素の核融合には、ppチェイン(陽子-陽子連鎖反応)とCNOサイクルの2通りあります。本稿では、その詳細には触れず、核融合反応によってどのくらいのエネルギーが解放されるかを見てみましょう。
核融合反応によって解放されるエネルギーを知るには、4個の陽子を足した質量と1個のヘリウム原子核の質量を比べます(図2)。原子核の質量を測るに当たり、炭素原子核を12とする単位を用いると、陽子の質量は1.0080、ヘリウム原子核の質量は4.0026です。従って、4個の陽子は核融合反応によって、4×1.0080-4.0026=0.0294だけ質量が減ったことになります。これは、陽子1kgがヘリウム原子核に変わると、約0.0294/4kgの質量が失われることを意味します。
上の式からエネルギーを計算すると、陽子1kgは核融合によって、6.6×10 14 Jのエネルギーが放出されることになります。太陽の光度は3.86×10 26 J/secです。すなわち、太陽では1秒間に400万トンの水素が消えてヘリウムに変わっていることになります。
太陽の年齢は約47億年です。誕生から現在まで、現在の光度で輝いていたとすれば、放出されたエネルギーの総量は5.7×10 43 Jという膨大な量になります(実際には、誕生直後の太陽の光度は現在の約70%とされる)。しかし、このエネルギーを作り出すためには、現在の太陽の質量のたった4%の水素がヘリウムに変わるだけでよいということになります。
2. 太陽内部の核融合の確認とニュートリノ振動
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 宇宙物理学とは
- 第2回 恒星
- 第3回 星の進化
- 第4回 ブラックホール
- 第5回 銀河の距離測定の歴史
- 第6回 銀河の構造
- 第7回 宇宙論とは
- 第8回 ビッグバン理論の証明