
前回は、負帰還増幅回路について解説しました。ひずみの低減など、さまざまな利点のある負帰還増幅回路は、発振が生じないように設計する必要があります。今回は、まず増幅回路において問題となる発振の要因と、その状態について説明します。続いて、発振を活用する回路である発振回路の解析と設計方法について解説し、最後に、身の回りの機器で実際に用いられている発振回路についてもご紹介します。
第4回「発振回路」を解説していきます。
1. 発振とは
発振とは、周期性をもつ信号を持続的に発生させることをいいます。まず、発振が起きるメカニズムについて説明します。図1に、前回解説した負帰還増幅回路を示します。

負帰還増幅回路は、出力電圧を入力側に帰還して入力信号との差v i を増幅します。負帰還増幅回路で用いられる増幅回路Aは高速に動作します。しかし、入力電圧が加わってから出力電圧を出力するまでには一定の時間が必要です。負帰還増幅回路では、帰還回路βは増幅回路より高速に動作することが多いため、ここでは増幅回路の遅れ時間だけを考えます。いま、増幅回路の遅れ時間がt 0 (s)であり、帰還信号は入力信号に対してt 0 (s)だけ遅れているとします。この負帰還増幅回路に、周期2t 0 (s)(周波数f=1/2t 0 (Hz))の正弦波電圧
が入力されるときの帰還信号v fb は、
となります。つまり、帰還信号は入力信号を反転した波形になります。ただし、帰還信号の振幅は入力信号の振幅の|Aβ|倍になります。増幅回路Aの入力信号v i はv i =v in -v fb であっても、v fb は-|Aβ|V 0 V in であるため、
つまり、v i は入力信号と帰還信号の和になります。帰還増幅回路の開ループ利得|Aβ|が1倍以上であるとき、増幅回路の入力信号v i は帰還路を一巡するたびに増幅されるため、いったん回路に加わった入力信号は減衰することなく、出力され続けることになります。この状態を発振と呼びます。
増幅回路は、ひとたび発振状態となると入力電圧が0になっても出力電圧が出続けるため、入力電圧に比例した出力電圧は得られなくなります。そのため、発振は避けなければなりません。皆さんは、カラオケなどでマイクを使っているとき、スピーカから甲高い大きな音が出る状態(ハウリング)を経験したことがあるかもしれません。ハウリングは、図2のように、スピーカから出た特定の周波数の信号がマイクに拾われることで出力され続ける発振状態です。

入力信号の周期は、周波数の増加に応じて短くなるため、どんなに高速に動作する増幅回路を用いても、帰還信号は特定の周波数の入力電圧に対して半周期だけ遅れます。負帰還増幅回路で増幅する入力信号が、低周波数の信号のみである場合も、外部から加わる雑音にはさまざまな周波数成分が含まれるため、負帰還増幅回路の設計には発振を避ける配慮が必要です。ハウリングも、信号である音声とは異なる周波数で発振する場合が多いことを思い出してください。負帰還増幅回路を、発振させずに正しく動作させるには、増幅回路の遅れ時間の倍の周期の入力信号(正帰還となる周波数の信号)に対して、負帰還増幅回路の開ループ利得|Aβ|を1倍以下とすればよいのです。このとき帰還信号は帰還路を一巡するたびに減衰するため、回路の出力電圧はやがて一定値に収束します。通常、増幅回路の電圧増幅率Aは周波数依存性があり、入力信号の周波数の増加に対して減少します。そのため、この条件は比較的容易に満たせます。ただし、安定性を確保するためには、高周波数において増幅回路の電圧増幅率を下げることになります。このため、負帰還増幅回路は、高い周波数の信号の増幅にはあまり向きません。
2. 発振回路と発振条件
ここでは、発振回路と発振条件について紹介します。
・発振回路
発振回路とは、回路が発振する際に特定の周波数の信号を持続的に発生させる現象を利用した回路です。発振回路は、増幅回路にとっては望ましくない発振現象を積極的に用いています。以下に、発振回路のブロック図を示します。

発振回路は、負帰還増幅回路の構成によく似ているもののいくつか異なる点があります。まず、発振回路は正帰還回路です。発振回路では入力側の引き算は行わず、帰還信号をそのまま増幅回路に加えます。次に、発振回路には入力が存在しません。
図3で、入力信号のように記載している部分(点線で記載)は、発振のきっかけを与える入力です。この入力は、発振を開始する際のみに必要で、回路がいったん発振状態になれば不要になります。実際の回路では、電源を投入する際に発生する雑音などがこの役割を果たすため、入力部分は必要ありません。設計者の意図する周波数の信号を発振回路に出力させるため、通常は設計の容易な帰還回路で信号の位相遅れを設計し、増幅回路の位相遅れは無視できる周波数で用います。
・発振条件
発振条件とは、発振回路が発振する条件をいいます。発信条件には、周波数条件と電力条件があります。図3の発振条件を考えましょう。増幅回路の位相遅れはなく、帰還回路でのみ位相遅れが生ずるとします。発振回路に雑音などの電圧変動v
in
が加わるとき、v
in
はAβ倍されて入力端子に戻ります。このとき、帰還信号のv
in
に対する位相差は∠Aβとなります。帰還増幅回路では、帰還信号の位相が入力信号に対して反転している周波数(引き算の結果、正帰還となる周波数)で発振したことを考えると、発振回路では、帰還信号の位相が入力信号と等しくなる周波数で発振することが分かります。これは、発振回路では入力側で引き算を行わないためです。この条件を、発振条件の周波数条件と呼びます。周波数条件は、発振回路の発振周波数の条件です。周波数条件により得られた発振周波数において、開ループ利得Aβが1以上ある場合に回路は発振します。この条件を、発振条件の電力条件と呼びます。電力条件は、発振回路の発振が持続するための条件です。
図3の入力電圧v in と出力電圧v out の関係は
となります。ここでAβ=1のとき、電圧増幅率が無限大となります。
電圧増幅率が無限大のとき、v in が0であっても有限のv out が得られます。これが、数式で表した発振状態です。周波数条件は、複素数であるAβが実数となる(このとき帰還信号が入力と同相になります)周波数を求めることであるため
Im(Aβ)=0
となります。
発振周波数において虚部は0となるので、電力条件は
Aβ=Re(Aβ)=1
となります。開ループ利得が1のとき、微小な入力電圧v in は、微小なまま出力され続けることになります。ただし、発振の開始時は雑音などの微小な入力電圧v in を増幅する必要があるため
Re(Aβ)>1
でなければなりません。一方で、開ループ利得を1以上とすると出力振幅は増加し続けるため、やがて出力振幅はひずみます。そこで、正弦波発振回路では、振幅の増加に伴い開ループ利得が減少するように設計されます。そのため電力条件は一般的には
とされます。
ここで、発振回路の例として、図4のウィーンブリッジ発振回路の設計をしてみましょう。ウィーンブリッジは、4つの抵抗器と2つのコンデンサから構成されています。

まず、点線で囲まれた部分はA=(R a +R b )/R a 倍の非反転増幅回路です(第2回を参照)。その他の部分が帰還回路となり
となります。これより、この回路の開ループ利得は
です。周波数条件ωR 1 C 2 -1/ωR 2 C 1 =0よりこの回路の発振周波数は
となります。例えば
R
1
=R
2
=1kΩのとき、発振周波数を1kHzとするためには、C
1
= C
2
= 0.159μFとすればよいことが分かります。一方、電力条件より発振を持続させるためには、増幅回路の電圧増幅率は
でなければなりません。R 1 =R 2 =1kΩ、かつC 1 = C 2 = 0.159μFのとき、増幅回路の電圧増幅率は3倍以上であれば良いことが分かります。
3. 発振回路の実際
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 アナログ電子回路とは
- 第2回 演算増幅器
- 第3回 負帰還増幅回路
- 第4回 発振回路
- 第5回 トランジスタ
- 第6回 トランジスタを用いた増幅回路