負帰還増幅回路|アナログ電子回路の基礎知識3

アナログ電子回路の基礎知識
著者:山梨大学 大学院 総合研究部 工学域 電気電子情報工学系 教授 佐藤 隆英

前回は、演算増幅器を用いることで、必要な電圧増幅率の増幅回路が簡単に設計できることを紹介しました。これは、演算増幅器を使った増幅回路が、負帰還増幅回路を構成することから得られる特徴です。負帰還は、増幅回路だけでなくアナログ電子回路のさまざまな場面で用いられる基本的な技術です。今回は、負帰還を増幅回路に活用した負帰還増幅回路が持つ優れた特徴を解説します。

第3回「負帰還増幅回路」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 負帰還増幅回路の基本構成

負帰還増幅回路は、増幅回路Aと帰還回路βからなり、出力電圧の一部を、帰還回路を介して増幅回路の入力に戻す構成です。図1に、負帰還増幅回路の基本構成をブロック図で示します。増幅回路の入力にある加算器は、入力信号から帰還信号を引く減算器として動作します。増幅回路と帰還回路の電圧増幅率がAとβのときの負帰還増幅回路の電圧増幅率G(=v out /v in )を求めてみましょう。

負帰還増幅回路の基本構成
図1:負帰還増幅回路の基本構成

増幅回路の入力信号をv i とすると、v out

v out =Av i …式1

です。一方、v i は入力信号と帰還信号βv out の差であるため

v i =v in -βv out …式2

となります。式 1、2 からv i を消去し整理すると、電圧増幅率G(=v out /v in )が

と得られます。Aβは、増幅回路と帰還回路からなるループを一周した際の電圧増幅率に相当し、開ループ利得と呼ばれます。増幅回路の電圧増幅率が十分に大きいとき、開ループ利得は1より十分に大きくなるため、Gは

と近似できます。つまり、式 4 は、負帰還増幅回路の電圧増幅率 Gはβのみで定まることを示しています。増幅回路は半導体素子で実現されるため、電圧増幅率 A は製造時のバラツキや温度変化などで大きく変動するものの、負帰還増幅回路を構成することで、Aが変動した場合にも電圧増幅率Gは変動せず、一定値とすることができます。一方、βは 1以下でよいため、帰還回路は抵抗などの受動素子で実現できます。負帰還増幅回路は、図1の増幅回路を-A倍の反転増幅回路とし、加算器の減算を加算としても実現できます。このときの電圧増幅率Gは

となります。この構成の負帰還増幅回路は、反転増幅回路となる場合を除いて、図1の負帰還増幅回路と同じ特性があります。

・非反転増幅回路との比較
前回紹介した非反転増幅回路を図 2 に示します。非反転増幅回路は入力信号と出力信号の位相が同じになる増幅回路で、演算増幅器を用いた回路の中で最も基本的な回路であることを説明しました。図1の加算器を用いた負帰還増幅回路と、図 2 の演算増幅器を用いた非反転増幅回路を比較してみましょう。

非反転増幅回路
図2:非反転増幅回路

この非反転増幅回路では、出力電圧を抵抗R 1 とR 2 で分圧し、反転入力端子に戻しています。このことから、抵抗R 1 とR 2 が帰還回路を構成していることが分かります。帰還回路の電圧増幅率(1以下であるため減衰率です)はR 1 /R 1 +R 2 となります。図1では、入力信号と帰還信号の差の信号を増幅回路でA倍に増幅している一方、非反転増幅回路では演算増幅回路が差動増幅回路であるため、v in とv の差を増幅しています。

よって、演算増幅器が加算器(減算器)と増幅回路の役割を果たしていることが分かります。演算増幅器の電圧増幅率は、通常100dB以上の大きな値であるため、演算増幅器の電圧増幅率に帰還回路の電圧増幅率をかけた開ループ利得は、1より十分に大きくなります。そのため、反転増幅回路の電圧増幅率は、式4で求めたように帰還回路の電圧増幅率の逆数のR 1 +R 2 /R 1 となります。演算増幅器を用いることで、負帰還増幅回路が簡単に実現でき、その電圧増幅率は帰還回路を構成する抵抗の値のみで定まります。

2. 負帰還増幅回路の特徴

負帰還増幅回路の電圧増幅率Gは、帰還回路の電圧増幅率βの逆数となり、増幅回路の電圧増幅率Aの変動の影響を受けにくい特徴があることを紹介しました。これに加えて、負帰還増幅回路には

・増幅回路で生ずるひずみを低減できる
・周波数特性が改善できる
・入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを改善できる

という特徴があります。ここでは、ひずみの低減効果と周波数特性の改善について説明します。まず、負帰還増幅回路のひずみ低減効果を考えます。図3は、増幅回路がひずみv d を生ずるときの負帰還増幅回路のブロック図です。

負帰還増幅回路のひずみ低減効果
図3:負帰還増幅回路のひずみ低減効果

増幅回路は非線形な半導体素子で実現されるため、振幅の増加とともにひずみを生じます。増幅回路では出力端子の電圧振幅が最も大きくなるため、増幅回路の出力電圧にはひずみの成分が含まれています。図3では、増幅回路が生ずるひずみ電圧v d を、増幅回路の出力部で加算しています。増幅回路がひずみを生ずる場合の出力電圧は

v out =Av i +v d …式5

となります。式2と式5より、反転増幅回路の出力電圧は

となります。ここで第1項が信号を意味し、第2項がひずみ成分を意味しています。負帰還増幅回路を構成することにより、増幅回路の出力端子で生ずるひずみは1/1+Aβ倍に低減されることが分かります。負帰還増幅回路を構成せずG=A/1+Aβとなる増幅回路を用いた場合の出力電圧は

となるため、増幅回路で発生したひずみがそのまま出力されます。負帰還増幅回路を構成することで、同じ電圧増幅率でひずみの小さい出力電圧を得ることができます。負帰還増幅回路は、ひずみだけではなく雑音も低減することができます。ただし、負帰還増幅回路が低減できるのは、出力端子で加わるひずみのみです。入力端子で加わるひずみや雑音は入力信号と区別することができないため、負帰還増幅回路の電圧増幅率であるG倍で出力されます。負帰還増幅回路は、あらゆるひずみを低減できるわけではない点に注意してください。

次に、負帰還増幅回路の周波数特性を考えましょう。前回、演算増幅器を用いた増幅回路の、遮断周波数の計算方法を説明しました。演算増幅器を用いた増幅回路の遮断周波数は、演算増幅器のGB積を反転増幅回路の電圧増幅率で割ることで得られます。例えば負帰還増幅回路で用いる増幅回路の周波数特性が

で表されるとします。この電圧増幅率の大きさは

となり、グラフに表すと図 4 の青線(演算増幅器)になります。

負帰還増幅回路の周波数特性
図4:負帰還増幅回路の周波数特性(A 0 =10 5 、f c =10、β=0.01)

この青線と、式6の対応から、電圧増幅率を式6の形式に表すとき、分子のA 0 は直流における電圧増幅率を意味しており、分母の虚部の分母f c が遮断周波数になることが分かります。この増幅回路を用いて負帰還増幅回路を構成したときの周波数特性は、式3のAに式6を代入することにより得られ

となります。式7の大きさは、図4の赤線(負帰還増幅回路)になります。この赤線より、負帰還増幅回路の遮断周波数は(1+A 0 β)f c となることが分かります。用いた増幅回路の遮断周波数がfcなのにも関わらず、負帰還増幅回路を構成することで遮断周波数は(1+A 0 β)倍に拡大されています。式7は式6と同じ形に整理されていることから、式7の分母の虚部の分母からも負帰還増幅回路の遮断周波数が(1+A 0 β)f c となることが分かります。

一方、負帰還増幅回路の直流の電圧増幅率はA 0 /1+A 0 βとなります。負帰還増幅回路は、直流の電圧増幅率を増幅回路の電圧増幅率の1/1+A 0 βに抑えることで、遮断周波数を用いた増幅回路の遮断周波数の(1+A 0 β)倍まで拡大することができます。

このため、負帰還増幅回路の直流の電圧増幅率と遮断周波数の積は、用いた増幅回路の電圧増幅率と遮断周波数の積(GB積)と常に等しくなります。もちろん、負帰還増幅回路を構成しても、用いた演算増幅器のGB積を超える周波数までは遮断周波数を拡大することはできません。

3. 負帰還増幅回路の実際

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 アナログ電子回路とは
  • 第2回 演算増幅器
  • 第3回 負帰還増幅回路
  • 第4回 発振回路
  • 第5回 トランジスタ
  • 第6回 トランジスタを用いた増幅回路

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