前回は、航空機の複雑化するシステムの安全維持に対する取り組みを紹介しました。今回は最終回です。これまで、航空機の安全対策について、機械としての成熟度、人の判断や行動の課題、環境の影響、複雑化するシステム、および組織管理の視点から説明しました。しかし、これらの対策が進んだ現代においても、航空機の事故はゼロではありません。さらなる安全性を目指して、どのような取り組みが必要なのでしょうか? 今回は、国際的な安全制度のルール作りを解説します。
第6回「最新鋭機の連続墜落事故から何を学ぶのか 」を解説していきます。
1. ボーイング最新鋭機の連続墜落事故
ボーイング社の最新鋭機 737MAX が、半年の間に 2 回の墜落事故を起こしたことは記憶に新しいと思います。1 回目は、就航後 17 か月の 2018 年 10 月 29 日、インドネシアのジャワ海でライオン・エア610 便が離陸後約 10 分で墜落し、乗客乗員 189 名全員が死亡しました(ライオン・エア 610 便墜落事故)。2 回目は、その 4 か月半後の 2019 年 3 月 10 日です。エチオピアのアディスアベバ、ボレ国際空港より離陸したエチオピア航空 302 便が離陸後約 6 分で墜落し、乗客乗員 157 名全員が死亡しました(エチオピア航空 302 便墜落事故)。
2 度の墜落事故により、各国から 737MAX の運航停止命令が続きました。製造国であるアメリカは、2019 年 3月13日に運航停止を決定し、3 月 14 日には 300 機を超える同型機が全世界で運航停止となりました。全世界で運航停止に至ったのは、2013 年、バッテリトラブルによるボーイング 787 以来です。ただし、787 は就航直後でした。
それに比較し、就航中の 737MAX が 300 機以上運航停止になったことは、航空業界に大きな衝撃を与えました。なお、日本では、ANA が 737MAX を導入する予定でした。しかし、引き渡しには至っていませんでした。
2. 737MAXはどんな機体
ボーイング 737 はボーイング社で最も製造機数が多く、1967 年の初飛行以来、シリーズ全体で 1 万機以上が製造されました(図 1)。民間旅客機史上のベストセラー機といえます。では、ボーイング737 の最新鋭機だった 737MAX とは、どのような機体なのでしょうか?
ボーイング社のライバルであるエアバス社は、737 の対抗機としてA320 を開発し、1987 年に初飛行を成功させました。開発が 20 年も新しい A320 は、スティックによる操縦方式を採用するなど意欲的な機体が特徴でした。筆者は、737 と A320 の訓練用フライトシミュレーターを乗り比べた経験があります。737 のコックピットは武骨なジープ、A320 は最新スポーツカーと、両者の印象はかなり異なっていたことを覚えています。
737 と A320 は、世界中のエアラインに対して激しい受注競争が行われました。その中で、エアバス社は 2000 年代半ばに、燃費性能を向 上させるた め に、バイパス比 の 大きな 新 型ジェットエンジンLEAP-1A、または PW1100G-JM への載せ替えを検討しました。2014年 9 月 に は、A320neo(new engine option)として 初 飛 行 さ せ、2016 年 1月に就航が開始されました。バイパス比を高めるとは、ジェットエンジン前面のファンを大型化することで燃費のみならず騒音低減を実現する、ジェットエンジンメーカーが競って採用する技術です。
こうしたエアバス社の動向に、ボーイング社は対抗措置として、燃費向 上 の た め に 新 エンジン の 採 用 を 検 討しました。結 果 的 に は、A320neo よりもバイパス比の低い LEAP-1B が採用になりました。
737 が A320 と同じエンジンを採用できないのは、737 の主翼と地面とのクリアランスが A320 よりも短いためです。両機は共に、主翼にエンジンをつり下げる様式です。エンジンと地面とのクリアランスは、地上の落下物の吸い込み、および離着陸時に機体が傾いた場合のエンジンと地面の接触などにより規定されています。そのため、737 は、1997 年より製造が開始された 737-300 から始まる第 2 世代機においてバイパス比の大きなエンジンを採用する際に、エンジンナセルの下部を平たんにしたおむすび型エンジンナセルを採用しました(図 2)。
737MAX の開発に当たり、エンジンナセルの工夫だけでは、もはやバイパス比の増加には対処できなくなりました。バイパス比とは、ターボファンエンジンにおける、バイパス流と燃焼室に流れる空気の比をいい、この数値が高いほど、ターボファンとしての特徴が顕著になります。ボーイング社は、脚を延長するとともに、エンジンナセルを主翼の前方に移動させ、地上高を確保する方針を採用しました。
このエンジン位置の変更により、機首を上げると、さらに機首上げの挙動を示すことが指摘されました。極端な機首上げは失速を招くので、避けなければなりません。そこで、機体に対する気流の角度(迎角)を検出する迎角センサを搭載し、大きな機首上げを検知した際に、水平安定板(水平尾翼)を機首下げ方向に自動で操作する MCAS(操縦 性 向 上 シス テム:Maneuvering Characteristics AugmentationSystem)を導入することになりました(図 3)。こうして 737MAX は、2016 年 1 月に初飛行しました。初号機の納入は、A320neo より 1年 4 か月遅れの 2017 年 5 月でした。
3. 737MAX事故はなぜ起きたー機体の安全認証との関係
4. 新たな安全認証制度への模索
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 安全を保障する構造設計の考え方
- 第2回 自動操縦の落とし穴~ランプ切れで墜落した最新鋭機~
- 第3回 自然の驚異から安全を確保する考え方
- 第4回 細部に潜むのは神か悪魔か
- 第5回 信じるのは人かコンピュータか
- 第6回 最新鋭機の連続墜落事故から何を学ぶのか