自動操縦の落とし穴~ランプ切れで墜落した最新鋭機~|航空機の安全対策の基礎知識2

航空機の安全対策の基礎知識
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、コメットの空中分解事故を契機に、構造設計の方法が確立されていく過程と、セーフライフ、フェールセーフ、ダメージトレランスという構造設計の考え方を紹介しました。今回は、高度な自動操縦を備えた旅客機が、1つのランプ切れで墜落したという謎めいた事故を取り上げます。

第2回「自動操縦の落とし穴~ランプ切れで墜落した最新鋭機~」を解説していきます。

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1. 航空機分野における自動操縦

昨今、自動車の自動運転が急速に進んでいます。これに対し、航空機分野における自動操縦化は、アメリカの動力飛行機の発明家であるライト兄弟の時代から取り組まれていました。1903年に人類初の動力飛行に成功したライト兄弟は、航空機の操縦には高度な技が要求されるため、その普及には自動操縦の開発が必須であると考えました(図1)。実際、ライト兄弟は、おもりを付けた振り子の傾きから機体の左右の傾きを検出して、自動的に機体を水平に保つ自動操縦機構(オートパイロット)を発明し、1913年に公開飛行に成功しています。

世界初の動力航空機、ライトフライヤー号の初飛行、1903年
図1:世界初の動力航空機、ライトフライヤー号の初飛行、1903年

もっとも、ライト兄弟のオートパイロットは、定常飛行以外では、機体の運動により慣性力が加わるという不具合がありました。翌年の1914年には、スペリーにより、ジャイロセンサを利用したオートパイロットが開発されました。このジャイロセンサは、高速回転するコマが一定の姿勢を保つことで機体の姿勢を検知するものです。この開発が人々の関心を集め、結果としてライト兄弟の方式は実用には至りませんでした。

センサだけではなく、駆動系や電動系の周辺技術が整った本格的な自動操縦装置の登場は、第2次世界大戦後まで待たねばなりませんでした。最初の実用例は、前回紹介したように、ジェット機への適用でした。空気が薄い成層圏を飛行するジェット機は、機体の姿勢のずれを尾翼が作る空気力だけで補正するのでは不十分なので、巨大な尾翼を備えるか、あるいは常にパイロットの操縦が必要とされました。自動操縦装置が導入されたことで、こうした課題は解決されました。エンジンの操縦を自動化するオートスロットルも実用化されました。現在の旅客機では、パイロットはほとんどの操縦をオートパイロットやオートスロットルに任せることも可能です。

2. 自動操縦を過信した最新鋭機の墜落

ロッキードL-1011トライスターは、アメリカのロッキード社(現在はロッキード・マーチン社)が開発・製造したジェット旅客機です。日本にも導入されたものの、当時の田中角栄首相への賄賂がロッキード事件として大きく取り上げられたこともあり、日本では良い印象を持たれなかったようです。

ロッキードL-1011トライスターは、ロッキード社が社運を賭けて開発し、1970年に初飛行させた最新鋭機です。ロッキード社は、そもそも、軍用機に秀でたメーカーでした。また、第2次世界大戦後は、優美な4発プロペラ旅客機、コンステレーションでも成功していました。ただしジェット旅客機の開発には後れを取り、1960年代に入ると、民間機部門は、ボーイング社やダグラス社に対して苦戦を強いられました。これを打開するために開発されたのが、トライスターです。

旅客輸送の増加に応えるために、客席の通路を2つ持つ、いわゆるワイドボディー機への要求が高まり、ロッキード社はイギリスのロールス・ロイス社のジェットエンジンを搭載したトライスターを開発しました。ボーイング社が開発する747ほど大型ではないので、4基のエンジンは不要だったものの、2基のエンジンでは性能が不足したため、3基搭載することになりました。3基目のエンジンは、胴体後部に搭載する意欲的な設計でした。

ロッキード社は、劣勢を覆すため、軍用機で実績のある最新鋭の自動操縦機構も採用しました。ロールス・ロイスのエンジンも、炭素繊維複合材(CFRP)製のファンブレードを新規に採用した最新鋭のジェットエンジンでした。ところが、CFRPファンブレードは不具合により、途中からチタン材に設計変更となり、トライスターの運用開始は1972年4月まで遅れることになりました。

トライスターが運用開始された同年の12月29日、イースタン航空401便トライスターが、夜のマイアミ空港への着陸に失敗し、乗員乗客176名中103名が死亡するという事故に見舞われました(図2)。

ロッキーロードトライスター
図2:ロッキーロードトライスター(引用:Wikipedia、イースタン航空401便墜落事故)

マイアミ空港に着陸態勢に入った同機は、前輪脚の降下を示す緑色のランプがコックピットで点灯せず、パイロットは状況を確認するため、着陸をあきらめ、高度を再び上昇させました。自動操縦をセットし空港の周回路に機体を導きました。しかし、このあと、なぜか高度が下がり続け、夜の沼地に吸い込まれるように墜落しました(図3)。

墜落したトライスター機の飛行経路
図3:墜落したトライスター機の飛行経路(引用:NTSB事故調査報告書)

3. 原因はランプ切れ

4. 自動操縦の落とし穴とコックピットリソース マネジメント(CRM)の重要性

5. 自動車の自動運転機能はどうか

続きは資料をダウンロードしてご覧ください!

全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 安全を保障する構造設計の考え方
  • 第2回 自動操縦の落とし穴~ランプ切れで墜落した最新鋭機~
  • 第3回 自然の驚異から安全を確保する考え方
  • 第4回 細部に潜むのは神か悪魔か
  • 第5回 信じるのは人かコンピュータか
  • 第6回 最新鋭機の連続墜落事故から何を学ぶのか

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