大気環境問題の歴史と法律|大気汚染対策の基礎知識1

大気汚染対策の基礎知識
著者:原技術士事務所 兼 化学工学会SCE・Net 原 晋一

大気汚染と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 黒い煙を出すプラントの煙突、4 大公害病の四日市ぜんそく、最近の話題ではPM2.5などでしょう。また、Tech Note の読者の中には、大気関係公害防止管理者の資格を持ち、大気汚染対策の業務に従事する技術者もいることでしょう。

この基礎知識では、5 回にわたり、大気環境問題の歴史や技術的な対策について解説します。1回目は、大気環境問題の歴史と法令などを解説します。

第1回「大気環境問題の歴史と法律」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 大気環境問題の歴史

現在、大気環境の問題は、温暖化と認識されています。しかし昔は、人間の健康被害にまで影響が及んでいました。大気環境問題の全体像を捉えるために、まずその歴史を振り返ります。

大気環境問題の歴史

大気環境問題の歴史
表1:大気環境問題の歴史(公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016全編共通、大気編、産業環境管理協会、2016年 から一部修正)

第二次世界大戦以前
日本において、大気汚染が社会的問題としてクローズアップされたのは、明治後半から大正(1890 ~ 1925 年ごろ)にかけてです。金属産業などから、硫黄酸化物を含むガスが排出され、煙害が発生しました。当時の大気汚染対策は、今とは違い、問題が表面化してから、対策が講じられていました。具体的には、問題を発生させた事業者が、技術開発を行い、被害の補償をしました。

最も有名なのは、愛媛県別子銅山の煙害問題です。精錬能力を上げるために、別子山中から新居浜の沿岸部に移設された精錬所において、明治20 年半ば(1890 年ごろ)に亜硫酸ガスによる農作物の被害をめぐり、近隣農民との紛争が起きました。この時、精錬所の無人島移転や、賠償金の支払い、産銅量を制限する協定が結ばれました。また、昭和2 年(1927 年)にドイツから技術導入を行い、独自の開発も加えて、煙害対策の実用装置を完成させました。これにより、実害を伴う煙害は見られなくなりました。(参照:住友金属鉱山ウェブサイト、環境再生保全機構ウェブサイト)また、茨城県日立鉱山でも煙害問題が発生し、企業は地元の人々へ補償を行うとともに、亜硫酸ガスを大気へ拡散させるため、156mの大煙突を325mの山の上に建てました。(参照:環境再生保全機構ウェブサイト)これらの事例は、企業が苦心し、自らの意志で大気環境問題に向き合ったことを示しています。

第二次世界大戦以降
第二次世界大戦以降(1945 年以降)は、戦後復興と高度経済成長により、大気汚染の問題が深刻化しました。国会や政府、地方自治体が協力して法律を制定し、それに企業が対応することで、硫黄酸化物等固定排出源を中心とした大気汚染問題が次第に収まっていきました。ただ、光化学オキシダントや、微小粒子状物質(PM2.5) 等移動発生源や、国を越えた問題と考えられる大気環境の問題は予断を許せない状況です。その状況を図1、図2、図3に示します。

硫黄酸化物の年度平均値の推移
図1:硫黄酸化物の年度平均値の推移(環境庁環境統計集よりグラフ作成)
光化学オキシダント注意報発令延日数の推移
図2:光化学オキシダント注意報発令延日数の推移(環境庁環境統計集よりグラフ作成)
微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準達成率
図3:微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準達成率(環境庁環境統計集よりグラフ作成)

2. 大気環境にまつわる法令

法規則における環境基準、排出基準
環境管理部門を除いた技術部門では、「排出基準」「構造・使用・管理基準」「作業基準」や「抑制基準」などを遵守しなければなりません。これらは、実施法である大気汚染防止法で規定されています。法体系としては、環境基本法で「人の健康を保護し、生活環境を保全する上で、維持されることが望ましい基準」として「環境基準」が設定されています。そして、「環境基準」を実現するための基準が「排出基準」などです。このような法体系のポイントを、物質ごとにまとめたものが図4 になります。

大気環境の環境基準や排出基準などの法規則体系
図4:大気環境の環境基準や排出基準などの法規則体系
二酸化硫黄SO2、硫黄酸化物SOx、一酸化炭素CO、浮遊粒子状物質SPM、NO2二酸化窒素、微小粒子状物質PM2.5、窒素酸化物NOx、揮発性有機化合物VOC

大気関係公害防止管理者の職務
大気関係公害防止管理者は、ばい煙発生施設などの運転や保全などの実務者で、公害防止に関する国家資格を必要とします。その業務は「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」において取り決められています。公害防止統括者の指揮統括の下で、燃料や原材料の硫黄分の検査、ばい煙発生施設の点検などの、公害防止に関する技術的業務を行います。具体的には次の業務です。

大気関係公害防止管理者の業務
表2:大気関係公害防止管理者の業務

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3. 大気汚染物質とその影響

大気環境問題の原因物質は、主に5 種類あります。具体的には、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質(SPM)、微小粒子状物質(PM2.5)、ダイオキシン類です。それぞれの人や環境に与える影響を説明します。

硫黄酸化物(SOx)
硫黄酸化物は、代表的な大気汚染物質です。主体は、二酸化硫黄SO2( 亜硫酸ガス)と三酸化硫黄SO3(無水硫酸)です。人間が二酸化硫黄SO2 を吸入すると、体内の水分と反応し硫酸となり、呼吸器疾患の原因になります。三酸化硫黄SO3 は、硫酸ミストとも呼ばれ、有害な微小粒子状物質や酸性雨の主要な成分です。人の健康、農作物や森林などに大きな影響を与えます。

窒素酸化物(NOx)
窒素酸化物には一酸化窒素NO と二酸化窒素NO2 があり、人体には、二酸化窒素NO2 の方が悪影響を及ぼします。それは二酸化窒素NO2が人体の細胞膜を酸化させ、傷つけやすいからです。二酸化硫黄SO2に比べて、水に緩やかに溶けるため、気管支の末端から肺胞にかけて細胞膜を傷つけ、肺炎を起こしやすくなります。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016全編共通、大気編)

大気中の燃焼過程で、窒素が酸化し一酸化窒素NO が生成します。二酸化窒素NO2 は、大気中の酸素により、一酸化窒素NO がさらに酸化され生成します。燃焼時に生成され、燃料に窒素を含む場合は、さらに多く生成されます。

また、二酸化窒素NO2 は、不飽和の炭化水素など一緒に太陽光に当たると、光化学反応を起こし、オゾンO3 やペルオキシアシルナイトレート(Peroxyacyl Nitrates、PAN)などの酸化力の強い物質、光化学オキシダントを生成します。

浮遊粒子状物質(SPM)
粒子径が10μm 以下の粒子は、大気中でも浮遊することから、浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter、SPM) と呼ばれています。浮遊粒子状物質(SPM) は、人体の気道や肺胞に沈着することで、呼吸器系に健康影響を及ぼします。

微小粒子状物質(PM2.5)
大気中の粒子状物質(Particulate Matter、PM)の粒子分布は、2.0μmと0.1μm 以下のところで、出現頻度の少なくなる3連の山形を示します。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016 全編共通、大気編)疫学データが多く存在する2.5μm 以下の微小粒子を、微小粒子状物質(PM2.5)と称し、浮遊粒子状物(SPM)と区別しています。

微小粒子状物質(PM2.5)には、硫酸塩や硝酸塩などが多く含まれています。これらは、自動車排気ガスなどに含まれる元素状炭素や金属化合物と、燃焼により発生したSO2 やNO2 が結合し、大気中で光化学反応を起こして生成されます。

PM2.5 と心血管系への影響・死亡率との因果関係が、米国の調査で確認されています。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016 全編共通、大気編)最近は中国からのPM2.5の飛来も観測されており、対策を講じるためには、国際的アプローチが重要といえます。

ダイオキシン類
ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(DL-PCB)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCB)の総称です。これらの物質の共通構造は、塩素で置換された2つのベンゼン環です。

ダイオキシン類の毒性は極めて強く、人体への影響は発がん性、生殖毒性、催奇形性、免疫毒性など多岐にわたります。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016 全編共通、大気編)ダイオキシン類は、塩素を含むプラスチックスの不完全燃焼で発生するケースが多く見られます。

今回は、大気環境問題の歴史、法令、大気汚染物質とその影響を解説しました。次回は、環境汚染対策のための技術について、詳しく見ていきます。お楽しみに!

全5回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 大気環境問題の歴史と法律
  • 第2回 環境汚染対策のための技術
  • 第3回 SOx・NOx・VOCの特徴や対応法
  • 第4回 SPM・PM2.5・石綿の特徴や対応法
  • 第5回 地球気候変動への対応

第2回~第5回の続きはこちらより資料をご覧ください!

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