前回は、接着の原理・特徴と、高信頼性・高品質接着を説明しました。今回は、表面改質による接着の最適化と内部応力について解説します。
第2回「接着の最適化とは?内部応力とは?」を解説していきます。
1. 分子間力による接着の過程と最適化
異なる材料を無溶剤型接着剤で接着する場合、分子間力による接着(第1回参照)が主に使われます。分子間力による接着の過程は 6 ステップに分けられます。
1:接着剤を塗布する
2:接着剤と被着材料表面の分子間距離を近づける
3:分子同士が引き合い、接着剤のぬれ広がりと結合力が発生する
4:接着剤が固化する
5:内部応力が発生する
6:接着機能の維持と劣化(環境・応力劣化)が発生する
強い接着を実現する重要なポイントは、接着剤と被着材料の距離を近づけることと、被着材料の表面張力を高めることです。それぞれの詳細を説明します。
・接着剤と被着材料の分子間の距離を近づける
接着剤と被着材表面の分子の極性が高くても、分子同士の距離が近づかなければ引き合う力は発生しません。強い分子間力を得るためには3 ~ 5Å 以下の距離まで近づけることが必要です。
一般の接着剤は粘度が高く、塗布しただけでは被着材料表面の細かい凹凸の内部まで流入しません。被着材料と接着剤が近距離で接触している面積は非常に小さく、強い接着ができません。接着剤をよくなじませるためには、力をかけて塗布する、接着剤や被着材料を温めて接着剤の粘度を低下させる、接着剤を溶剤で希釈してプライマー(最初に塗る塗料)として塗布し、凹凸を浅くするなどの方法があります。
・強い極性を得るために、被着材料の表面張力を高める
被着材料表面の極性を高めるには、被着材料の表面張力を大きくする必要があります(第 1 回参照)。高信頼性・高品質接着の基本条件は、表面張力 36 ~ 38mN/m 以上です。工業製品に使用されているほとんどの部品では、表面張力は 36 ~ 38mN/m もないため、表面張力を高める処理が必要です。被着材料の表面張力を高めるには、表面の清浄化、表面改質、表面処理による化成被膜の形成などを行います。このうち、表面の清浄化は接着の基本です。しかし、元々表面張力が低い材料の場合、表面清浄化だけで表面張力を高くできません。表面改質、表面処理が必要不可欠です。
2. 表面改質とは
表面改質とは、被着材料表面に分子間力の強い吸着層を形成させる、一連の処理のことです。分子間力の中で最も強い結合は、水素結合です。接着剤の水酸基(OH)と水(H-O-H)や酸素(O)、窒素(N)、カルボキシル基(COOH)などとの間で形成されます。被着材料表面に、これらの強い吸着層を形成させることで、強く接着できます。波長の短い紫外線を表面に照射する方法、プラズマを照射する方法、火炎であぶる方法などがあり、いずれも大気中で行えます。
図1 に、短波長紫外線照射によるプラスチックの表面改質メカニズムを示します。大気中プラズマ照射や火炎処理でも原理は同じです。紫外線のエネルギーと紫外線によって発生したオゾンにより、表面の有機汚染物は二酸化炭素と水に分解されて除去されます(図1 のa)。次に、露出したプラスチック表面の結合が切断され、活性な状態になります(図1 のb)。活性になった表面は空気中の水や酸素などと簡単に結合します(図1 のc)。この面に接着剤を塗布すると、接着剤との間で強い水素結合を起こします(図1のd)。金属・ガラス・セラミックスなどでも、この方法は有効です。
図2 に、短波長紫外線照射時間と表面張力、接着強度、破壊状態の変化の関係を示します。被着材料としてPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂同士、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂同士を用い、接着剤として室温硬化型エポキシ系接着剤を用いています。照射30 秒ほどで良好な接着に必要な37mN/m の表面張力が得られ、照射時間とともに表面張力と接着強度が増加します。ただし、照射時間が9 分を超えたあたりから、表面層が紫外線で劣化するため接着強度は低下します。表面改質は、やり過ぎてはいけません。
図3 は、紫外線照射の有無による凝集破壊率の変化を示したものです。被着材料としてステンレス鋼板同士を、接着剤として2 液型アクリル系接着剤(SGA)を用いています。紫外線照射がない場合、主な破壊は界面破壊であり、紫外線照射によって高い凝集破壊率に推移していることが分かります。
表面改質の注意点として、処理後の時間経過で効果が下がります。金属では1 日以内、プラスチックでは3 日間以内には接着するようにしましょう。
3. 接着剤に起こる2 つの内部応力
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 接着の原理とは?高信頼性・高品質接着とは?
- 第2回 接着の最適化とは?内部応力とは?
- 第3回 構造用接着剤の種類と選び方
- 第4回 エンジニアリング接着剤とは?
- 第5回 接着剤の選び方
- 第6回 接着における強度の考え方
- 第7回 接着部品の構造設計
- 第8回 接着施工のポイント