前回は、3D プリンタを使って立体造形物を作るための基本的な作業の流れを解説しました。今回は、3D プリンタで扱える材料について説明します。一般的になじみのある材料は、樹脂(プラスチック)です。しかし、プラスチックといっても、実はさまざまな種類があります。さらに、産業用の 3D プリンタであれば、チタンやアルミといった金属による造形も可能です。少々変わり種のものとしては、セメントを材料にしたものもあり、筆者も開発に関わったことがあります。3D プリンタで建物を作った事例を、ニュースなどで見かけた人もいるでしょう。今回は、これらの材料の持つ特性や、使用される用途などを紹介していきます。
第3回「3Dプリンターで扱うことのできる材料」を解説していきます。
1. 3D プリンタの方式と、対応するさまざまな材料
私たちの身の回りを見てみると、造形物には実にさまざまな材料が用いられています。プラスチックでできたものや金属でできたもの、なおかつプラスチックにも金属にもそれぞれ多種多様な種類があります。ところが、3D プリンタブームが起きた 6、7 年ほど前には、今ほど材料の種類がありませんでした。そのため、趣味であれば造形さえ可能なら材料にこだわらなくともよかったものの、製造業の道具として使用するには力不足でした。一般的な製品で用いられる樹脂(エンジニアリング樹脂ともいいます)には、ABS やポリカーボネート、ポリプロピレン、ナイロンなどをはじめとして数多くの種類があります。
製品を設計する人は、用途や目的、条件などに応じて使用する材料を選択します。そのため、たとえ製品開発中の試作品であっても、本物の材料が使えなければ困ることになります。幸いなことに、3D プリンタの世界では、比較的安価な FDM 方式であっても、あるいは数 10 万円クラスの光造形方式であっても、この数年で使用できる材料の種類が増えてきました。では、実際にどのような材料が使えるのか、それらについて説明します。
大きく分類すると FDM(FFF)方式の 3D プリンタで使用する材料と、光造形方式の 3D プリンタで使用する材料の 2 つに分けられます。
FDM(FFF)方式の 3D プリンタとは、熱溶解積層法ともいい、高温で溶かした樹脂を、造形プレートの上に下から積み上げて造形する方式です。光造形方式は、硬化する液体状の樹脂の表面に、紫外線や類似の光源などを照射し、一層ずつ硬化させて造形する方式です(第 1 回)。
・FDM(FFF)方式の 3D プリンタで対応する材料
FDM 方式のプリンタで提供される材料の形態は、ほぼ例外なく、スプールに巻かれたワイヤ状で提供されます(図 1)。太さは概(おおむ)ね1.75mm 前後で、多くの場合、プリンタメーカーが提供する純正材料でなくても使用することが可能です。もっとも、あまりに安価な素材では、品質に問題があってノズル詰まりの原因にもなるので注意が必要です。ハイエンド機などで、カートリッジの中にワイヤが収められている場合は、材料の消費量などが常時トラッキングされているため、材料の残量情報を確認することができます。
図1:ワイヤ状で提供されるFDM方式用の造形材料
FDM 方式の 3D プリンタの材料として、PLA(ポリ乳酸、polylacticacid)BS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)の 2 種類が、3D プリンタ誕生の当初から用いられてきた 2 大材料であるといっても過言ではないでしょう。特に、10 万円を下回る低価格帯の 3D プリンタの場合には、PLA のみという場合も少なくありません。
PLA:
PLA は、植物由来の生分解性プラスチックとして知られています。この材料の特徴としては、比較的融点が低く、約 180℃から 230℃程度の低温で出力することが可能であり、また反りにくいということがあります。従って、閉じたチャンバ(3D プリンタ庫内)や造形用のプラットフォーム(基盤)を温める機能がない安価なプリンタでも、比較的安定した造形が可能です。ただし、融点が低いことで夏場の自動車の中程度の温度でも歪(ゆが)んでしまうことや、硬いため造形後の後加工が難しい、あるいは柔軟性がないため曲がりにくく割れやすいといったデメリットもあります。
ABS:
ABS は、PLA と異なり強度や耐久性において実績のある材料であり、私たちの身の回りの製品でも多用されています。そのため、より実用的な部品などの出力には ABS を使用することが好まれています。ただし、ABS は 3D プリンタの材料としては、扱いにくいところもあります。まず、出力の温度が PLA よりも高く、一般的にノズルの温度は 230℃から260℃程度となります。さらに、PLA と比較して収縮率が大きいこともトラブルにつながりやすい要因です。
ABS に対応した 3D プリンタのプラットフォームはヒーテッドベッドであることが多く、部分ごとに冷える温度が異なるため、造形物がある程度の大きさになると大きな反りが発生します。完全に囲まれたチャンバを備え、さらにチャンバ内が十分に熱されていないと、プラットフォームから剥がれて大きなゆがみが発生し、造形に失敗することも珍しくありません。その代わり、きちんと造形ができればその後の加工が楽なので、趣味、仕事を問わず実用的な製品に向いているといえます。
その他の材料:
デスクトップ型の FDM 方式 3D プリンタでも上記以外のプラスチック、例えば PET、ナイロン、PC/ABS、HIP といった、産業分野でもよく使用されるエンジニアリング樹脂の使用が可能になってきています。また、FDM 方式 3D プリンタは硬いものの出力が一般的である一方、エラストマーと呼ばれるゴムのように軟らかい材料についても出力が可能なものがあります。
それ以外にも、材料となるフィラメント(連続したワイヤ状の長い繊維)にさまざまな材料が混入されたものも用意されています。ただし、樹脂ごとに造形の温度や挙動の違いなどがあるため注意が必要です。
FDM 方式の 3D プリンタでは、材料はスプールに巻かれたワイヤの状態で提供され、後述する光造形方式の 3D プリンタよりも扱いが簡単です。とはいえ、大なり小なり材料には吸湿性があります。このため、本格的な製造で用いられる射出成型のように細心の注意を払うほどではないものの、保存時の湿度が高くならないように気を付けることが必要です。
・光造形方式の 3D プリンタで対応する材料
材料が固体として提供される FDM 方式の 3D プリンタと異なり、光造形方式の材料は液体の状態で提供されます(図 2)。また、扱い自体に安全上の注意点がない FDM のスプールと違って、光造形方式の材料の場合、材料の種類によっては注意が必要になります。例えば、直接皮膚に触れると手が荒れるなどのダメージを受ける材料もあるため、ゴム手袋などが必要となる場合があります。
材料の保管にも注意が必要です。光造形方式 3D プリンタの材料には紫外線や可視光で硬化する性質を持つものもあります。通常、材料は光を通さない容器で保存されるものの、FDM 方式の材料よりもより環境に敏感であるため、保管時の取り扱いには注意しましょう。光造形方式で利用される材料を、標準的な樹脂、透明な樹脂、エンジニアリング樹脂ライクの樹脂、用途に応じた樹脂に分類して説明します。
標準的な樹脂:
光造形方式の 3D プリンタで、特に標準的な樹脂を使用する場合には、アクリルなどをベースにして、多彩な材料物性を作り出していることが多いです。このため、光造形方式では〇〇ライクと表現される材料が多いのも特徴です。ライクは英語の like で、つまり〇〇のような樹脂ということになり、実際には違っていても、その材料の特性は〇〇に近いものである、ということになります。つまり、樹脂の調合次第で、目的の特性を持ったカスタム樹脂を作り出して、それを使うことが可能ということです。
いずれにしても、スタンダードな樹脂は、初めて扱う場合でも、またどのメーカーのものでも比較的滑らかな仕上がりになることが多く、メーカーによっては樹脂に顔料を混ぜて着色された状態で造形することも可能です。ただし、多くの標準的な樹脂はアクリルベースであるため、柔軟性に欠けており、曲げようとすると折れてしまったり、砕けてしまったりする脆(もろ)さがあります。スマホケースのように、曲げてスマホをはめ込むといった用途にはあまり向いていません。
透明な樹脂:
光造形方式では、透明な樹脂が用意されている場合があります。FDM方式でも、比較的透明度のある材料を用いることが可能であるものの、細い繊維を積み上げる造形方式のため、実際に透明なものを造形するには無理があるといえます。しかし、光造形方式の場合には、表面を丁寧に磨いたりコーティングしたりすることで、かなり透明度の高い造形が可能です。機械的な材料の特性は、標準的な樹脂に準じます。
エンジニアリング樹脂ライクの樹脂:
エンジニアリング樹脂とは、工業用の過酷な条件下でも使用できるよう、高耐熱性や機械的強度を向上させた樹脂をいいます。全ての光造形方式のプリンタで用意されているわけではないものの、試作などでより本物の機械的特性を備えた樹脂を使いたいという要望に応えた樹脂もあります。典型的なものとしては、ABS ライク、PP(ポリプロピレン)ライクなどです。また、ゴムライク樹脂などを用いれば、非常に柔軟性を持った造形物を作ることもできます。ゴムライクを得意にしている光造形機では、ゴムショア値の高い比較的硬めのものから、ゴムショア値が非常に低いとても軟らかいものまで造形することができます。
用途に応じた樹脂:
最近では、成形の金型として適用できる樹脂金型が登場してきています。そうした目的では、非常な高温に耐える樹脂が必要になります。そのための高耐熱樹脂、あるいはロストワックスなどに使用するキャスタブル樹脂などが用意されていることも、光造形方式のプリンタの材料の大きな特徴といえるでしょう。
なお、光硬化性樹脂を使用する 3D プリンタには、インクジェット方式のものもあります。基本的には産業用の高価なものが多く、材料の特徴としては光造形方式に準じます。
2. 産業用として普及してきた材料
樹脂は、従来から製造業の中で、特にハイエンド機種で本格的に用いられてきました。一方、金属部品については、3D プリンタの材料としては樹脂と比較して普及が遅れていました。しかし、現在では航空機産業を中心に普及してきています。
・焼結方式の 3D プリンタ(SLS/DMLS)で対応する材料
材料を焼結させる焼結方式は、主に、産業用として普及してきました。基本的には、材料の粉末に高エネルギーのレーザを照射し、焼結させることで造形を進めます。一般的に、SLS(Selective Laser Sintering:レーザ焼結法)と呼ばれる方式では、樹脂の粉末が用いられます。SLS 方式でよく用いられる材料は、ナイロンと TPU で、DMLS 方式で用いられる材料は、金属系の材料です。
ナイロン:
ナイロンは、SLS で用いられる、最もポピュラーな材料です。ナイロンは、曲げにも強く柔軟性のある樹脂で、一般的な用途にもよく使われる材料です。出力サービスなどでもよく使用されています。
TPU:
TPU は、最近よく見かける材料です。馴染(なじ)みのない言葉ながら、最近ではスマホケースなどにも多く使用されているので、そういえばと思い出す人もいるでしょう。TPU は熱可塑性ポリウレタン(Thermoplastic Polyurethane)のことで、弾力性と柔軟性を兼ね備えた材料です。こうした材料も、最近では 3D プリンタで扱えるようになってきました。
各種金属:
金属の造形に特化した DMLS(Direct Metal Laser Sintering:直接金属レーザ焼結法)は、粉末焼結方式の 1 つです(図 3)。この方式では、一般的に使用される主要な合金類のほとんどを扱うことが可能です。主な材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、コバルト、インコネル、マルエージング鋼などがあります。FDM や光造形方式と違い、個人でこれらの造形をすることは、機械の価格や大きさ、あるいは造形に必要なノウハウからいって、あまり現実的とはいえません。しかし、出力サービスを活用することで、一般の方でもこれらの材料にアクセスすることができます。
3. 材料の特徴をよく理解して出力しよう
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 3Dプリンタとは
- 第2回 3Dプリンタ活用の基礎
- 第3回 3Dプリンターで扱うことのできる材料
- 第4回 3Dデータとは
- 第5回 造形の際の注意点について
- 第6回 3Dプリンタで出力した造形物の仕上げについて