
木材は私たちの暮らしの中で、住宅や家具、日用品、楽器、玩具などさまざまな用途に使われる、とても身近な素材です。日本の森林には、個性豊かなたくさんの樹種が生育しています。この連載では、樹木を素材として捉え、木材の特徴や材料特性、加工方法や使い方、流通事情などを見ていきます。連載第1 回となる今回は、木材の種類や用途、さらに日本国内の需給動向について解説します。
第1回「木材の種類と用途」を解説していきます。
第1回もくじ
1. 木材の種類~針葉樹と広葉樹~
樹木には針葉樹と広葉樹があり、それぞれにさまざまな樹種があります。表1 は、日本に生育する代表的な針葉樹と広葉樹をまとめたものです。

地球上で最初に姿を現した樹木はソテツ、イチョウ、マツ、スギなどの針葉樹(裸子植物)で、約3 億年も前のことだといわれています。広葉樹(被子植物)が生まれたのは、それから1 億5,000 ~ 2 億年ほど後と推測され、針葉樹が進化したものと考えられています。細胞組織の特徴としては、針葉樹は仮道管と呼ばれる組織が木部の多くを占め、これが水を運ぶ役割と木の自立を支える役割を兼ねています。一方、広葉樹では道管が水を運び、木繊維が木を支えるというように、組織の分業体制が確立されています。
見た目の違いとしては、針葉樹の葉はとがった針のような形をしているのに対し、広葉樹の葉は平たくて幅が広いものが主流です。樹形も、針葉樹は幹が通直であまり枝分かれせず、直線的に上に伸びるのに対し、広葉樹は幹の比較的低いところから枝を広げた、横広形のものが多いという特徴があります(図1)。ただし、街路樹などでよく見かけるイチョウは、広葉樹のような葉をしていますが、針葉樹に分類されます。

材質については、英語で針葉樹をSoftwood、広葉樹をHardwood と呼ぶように、針葉樹は柔らかく、広葉樹は堅い傾向があります。しかし、これにも例外があり、針葉樹でもマツ類は比較的堅い材質ですし、世界で最も軽く柔らかい木として知られ、浮きなどにも使用されるバルサ(南米原産)は、広葉樹です。
2. 木材の用途と使い方
木材は、私たちの暮らしのさまざまな場面で使われています。住宅の構造材や内装材、テーブルや椅子などの家具、箸やお椀などの日用品、金づちやスコップの柄などの道具類、バイオリンやピアノなどの楽器、野球のバットやビリヤードのキューといったスポーツ用具や遊具、積み木などの玩具など、数え上げれば切りがありません(図2)。さらに書物や包装に使われる紙も、木材の用途の一つです。

土木や物流分野でも、木材は多用されています。土木分野では、地盤を安定させるために地面に打ち込む杭(図3)や、土留め用の板(矢板)が代表格です。物流分野では、資材や機器を載せて運ぶ際に使われるパレット、荷物を包む紙製の梱包材や各種の木箱類、輸送時に物品の下に敷く角材(ダンネージ)、電線やワイヤを巻き付けて運ぶドラムなど、さまざまな用途で木材が使われています。

木材は、使用目的に合う特性を備えた樹種や材料が選ばれます。例えば建築材料の場合、構造材には、通直で真っすぐに加工しやすい針葉樹が使われるケースが多く、床材には堅くて傷が付きづらい広葉樹がよく使われます。土木や物流分野では、建築物や家具のような寸法精度は求められないので、多少曲がっていたり、丸太の丸みが残っている材料も使われます。実際に使う際には、ログハウスの部材や杭のように、丸太に近い形で使う場合もありますが、多くは製材品や合板、集成材などに加工された上で使われます。加工木材の特徴については、本連載で今後、詳しく取り上げていきます。
3. 木材の需給推移
国内の木材需給の状況と、これまでの推移を確認しましょう(図4)。

・現在の木材需給
木材全体の年間需要量は、2010 年からは緩やかな景気回復に伴い上昇基調となり、2016 年には7,800 万m3 台まで回復しています。部門別の需要(図5)では、主に紙の原料となるパルプ・チップ用材が3,162万m3(40.5%)で最大です。以下、製材用材が2,615 万m3(33.5%)、合板用材が1,025 万m3(13.1%)、燃料材が581 万m3(7.4%)、その他用材が3,925 万m3(5.0%)と続いています。

供給部門別では国産材が2,714 万m3、外材が5,094 万m3 で、木材自給率は34.8% です。自給率は、2002 年には過去最低の18.8% にまで落ち込みましたが、国内の森林資源が成熟して供給力が増していることや、外材産地国が丸太輸出を制限していることなどから、2005 年頃から回復傾向となり、2011 年から6 年連続で上昇しています。
2016 年の国産材の樹種別生産量(製材、合板、チップ用の工場入荷量。燃料材、しいたけ原木、輸出は除く)は、スギが1,185 万m3 で最大、以下、ヒノキが246万m3、カラマツが231万m3、広葉樹が219万m3、エゾマツ・トドマツが101 万m3、アカマツ・クロマツが68 万m3、その他が15万m3 となっています。
・過去の木材需給
1970 年代の高度経済成長期以降の木材需給動向をたどってみましょう。全体の需要量は、高度経済成長期と1980 年代後半のバブル期から1990 年代末までは、1 億m3 を上回る高水準で推移しますが、その後は景気低迷で減少傾向となり、リーマン・ショック翌年の2009 年には、6,400 万m3 台にまで落ち込みました。現在は、前述したように7,000万m3 台後半で推移しています。
供給面では、1970 年代には経済成長で急増する需要に国内供給が追い付かず、外材輸入が本格化しました。その後、1985 年のプラザ合意を契機とした円高で輸入コストが低下、外材のシェアはさらに拡大。自給率は20% 前後と低迷しました。2005 年ごろからは国産材のシェアが回復傾向となって、現在に至ります。
外材の動向を産地別に見ていきましょう。1970 ~ 1980 年代は、東南アジアや北米、当時のソ連が主要供給地でした。しかし1990 年代には環境問題への関心の高まりを受け、東南アジア産の丸太輸入が激減。その一方で、ヨーロッパ産の製材品や集成材の輸入が増加し、日本国内の市場を席巻するようになり、その状況は現在も続いています。大きな流れとしては、かつては丸太輸入が主流でしたが、各産地が国内工業化を進めたことなどから、現在は製材品や集成材、合板などの製品輸入が主流となっています。
いかがでしたか? 今回は、木材の種類や材質、国内の木材需給動向をまとめました。次回は、木材の加工特性と環境適合性について解説します。お楽しみに!
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 木材の種類と用途
- 第2回 木材の特徴
- 第3回 木材の強度・耐熱性・耐久性
- 第4回 製材の方法と規格
- 第5回 木材の乾燥
- 第6回 木質建材の種類と特徴
- 第7回 木材の弱点を補う処理方法
- 第8回 木材の流通と環境問題