
前回は、最もやっかいな工程内不良の一つ、BGA 不ぬれについて解説しました。最終回の今回は、鉛フリーはんだ付けの不具合事例と今後の課題を、説明します。
第5回「鉛フリーはんだ付けの不具合事例」を解説していきます。
1. 鉛フリーはんだ付けの不具合と事例
従来のスズSn- 鉛Pb はんだで起こる不具合は、時間の経過によるクラックや断線の事故でした。鉛フリーはんだでは、製造工程の初期的不具合をいかに無くすかが、大きな課題です。初期的不具合とは、検査や工程管理などで市場への流出や、発生を防止するべき不具合のことです。具体的には、ブリッジやはんだボール、ピンポール、ブローホールなどがあります。初期的不具合の原因は、スズSn- 鉛Pb はんだと比較して温度が高く、広がりが悪いことです。図1 に、はんだ付け製品の一般的な不具合をバスタブ曲線(故障率曲線)で示します。

鉛フリーはんだ化で不具合を無くす上で、重要なことは何でしょうか。5Sを実践することです。一般的に5S は整理、整頓、清潔、清掃、しつけとされています。そのうち、整理、整頓、清潔、清掃は、自分の意思で行います。しつけは、自らの意思はありません。そのため、「しつけ」を自らの意思で行う「姿勢」に代えて考えることをおすすめします。鉛フリーはんだ付けにおいて、5S は特に推進してほしい取り組みです。なぜなら、鉛フリー化にともない、はんだの広がりが悪くなり、部品、基板の汚れではんだ付け不良を起こすからです。さらに、表面実装では高密度化になり、小さなホコリやゴミが、はんだ付け不良の原因となります。これらを防止するためにも、5S を理解し実践してください。
初期的不具合の例
鉛フリーはんだの特徴は、スズSn- 鉛Pb はんだに比べ、溶ける温度が高い点です。コテの温度を30 ~ 40℃高めに設定し、作業をする必要があります。そのため、鉛フリーはんだでは、さまざまな不具合が発生します。図2 は、図1 の初期的不具合で発生するブリッジ、はんだボール、ピンホール、ブローホール、トンネルです。
ブリッジ:発生原因は、はんだ量が多い、位置ずれが起こる、作業方法が正確でない、コテ先温度が低い、または高い、部品からのガスの影響などがあります。
はんだボール:発生原因は、はんだ中の水分の影響やコテの引き方、ラウンドの設計によるはんだ量の影響、部品や基板の水分含有などがあります。
ピンホール、ブローホール、トンネル:発生原因は、はんだ付け時の温度不足、部品・基板の酸化などの汚染およびガスの発生があります。

次に図3 を使って、不具合の具体的な原因を見ていきます。鉛入りはんだ付けがうまくいった場合は、はんだの表面には光沢があり、富士山のごとくフィレットが形成されています。鉛フリーはんだ付けは、表面の光沢がありません。よって、鉛フリーはんだの目視検査は、リード部分で判定します(リード部品の場合)。

1.はんだの表面が陥没する不具合例です。原因としては、リードに対しての熱不足です。
2.はんだ量が少ない不具合例です。原因としては、加熱不足、リードの汚染および作業者の未熟などです。
3.リード線の不具合で、うまくはんだ付けができなった例です。写真は、リード線をはんだ付けしたものです。右の写真は、断面図です。リード線ははんだに覆われているだけでぬれていません。原因は、リード線の汚染、リード線への加熱不足および作業方法です。
4、5.表面実装での不具合例です。共通の原因は、部品のはんだ付け面の酸化、汚染です。鉛フリー化にともない、リードと電極には従来の鉛を使用できず、スズSn めっきに変更したため、表面酸化によるぬれ不足が大きな問題になっています。
6.鉛フリー化になって多く発生するBGAの不具合です。原因は、パッケージの反り変形です。はんだのフラックスが活性不足を起こし、融合しません。まれに、ボールの酸化が原因の不ぬれもあります。この場合は、不ぬれ箇所がランダムに発生します。
7.表面実装で起きる不具合のマンハッタン現象(チップ立ちが多く発生している状態)です。原因は、左図ははんだ量の違い、右図はランドの大きさの違いです。熱の伝達が早い方に部品が引っ張られ、発生します。解決方法は、はんだ付けを同じ時間になるように溶融することです。
図4 に、クラック、はんだくず・異物、はんだ付け忘れ、ランド剥離、ツノ・ツララの例を示します。

クラック:発生の原因は、はんだが固まる前に動かすためです。はんだは固まった後、5kgf/mm2 の強度があります。しかし、溶融しているときの強度は0 kgf/mm2 です。解決策としては、はんだ付け後は固まるまで動かさない、はんだ付けの時は正しい冶工具を使用することです。
はんだくず・異物:作業者、作業管理、5S の徹底以外に解決策はありません。
はんだ付け忘れ:はんだ付けすべき箇所にはんだ付けされていない不具合です。実際に多く出る問題です。この問題には、作業者の管理に教育が必要です。
ランド剥離:原因は、はんだ付け時の加熱し過ぎです。鉛フリーはんだでは、2回以上手直しすると大きな問題が2 つ起こります。1 つ目はこのランド剥離、2 つ目はランドの銅食われです。
ツノ・ツララ:原因は、はんだ付け時の過度の加熱です。鉛フリーはんだは広がりが悪いため、熱を加えすぎてしまいます。はんだ付け性の良いはんだの選択が必要です。
バスタブ曲線の摩擦劣化不具合例
図5 は、バスタブ曲線内の磨耗劣化部分で起こる不具合例です。代表的な不具合は、腐食、マイグレーション、クラックです。

腐食:原因は、はんだ付け時に使用するフラックスです。はんだ付け性を良くするために、フラックス中にハロゲン化合物を多く入れると、はんだ付け後にイオン残さとして残りのイオンが水分を吸湿して塩化物、臭化物などになり腐食します。製品出荷後、時間の経過とともに不具合が発生するので、市場不良となり、会社は大変な損失を出すことになります。このような腐食を起こさないためには、良いはんだの選択が必要です。
マイグレーション:配線や電極として使用した金属が、絶縁物の上や界面を移動する現象です。腐食と同じように、はんだ付け後のフラックス残さにイオン物質が多く残ると、吸湿や温度変化によって発生します。
これにより絶縁劣化やショートを引き起こします。解決策は、はんだを選ぶ際に十分に試験を行うことです。
クラック:磨耗劣化によるクラックは図5 のようなかたちが多く見られます。(1)は、はんだ付けされたリード部品をモールド材で固めたため、熱影響でリードのはんだ付け部に応力が集中して割れが発生したものです。(2)は、はんだ量が少ないために起きた割れです。(3)は、設計上の問題です。はんだ量は問題なく、割れの界面のはんだはぬれています。基板の部材が大きいために割れました。対策としてはチップサイズを小さくするなど、設計を見直すことです。
2. 鉛フリーはんだ付けの今後の技術開発課題と展望
全5回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 鉛入りと鉛フリーの違い
- 第2回 はんだ表面で発生する問題とメカニズム
- 第3回 銅食われとコテ先食われ
- 第4回 BGA不ぬれ
- 第5回 鉛フリーはんだ付けの不具合事例