オールドセラミックスとニューセラミックス|セラミックスの基礎知識 4

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2024.09.17

基礎知識

オールドセラミックスとニューセラミックス|セラミックスの基礎知識 4

セラミックスの基礎知識

著者:東海大学 工学部 材料科学科 教授 松下 純一

前回は、単体セラミックスと化合物セラミックスを紹介しました。今回は、オールドセラミックス、ニューセラミックスを取り上げます。オールドセラミックスは、天然原料を、ほぼそのままの状態で用いて人為的に作られるセラミックスです。ニューセラミックスは、天然原料に含まれる特定成分を高純度化し、精度よく配合した人工原料を用いて、高度に制御された製造プロセスを経て作られるセラミックスです。このほか、ファイ ンセラミックスと窯業(ようぎょう)という言葉についても解説します。

 

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1. オールドセラミックスとニューセラミックス

本連載では、人為的に作り出された無機固体材料を、広義のセラミックス(セラミック材料)として扱っています。その無機固体材料を作るために、天然に産出する粘土や鉱石などをほぼそのままの状態で用い、高度に制御された製造プロセスを経ずに作られるセラミックスを、オールドセラミックス(Old Ceramics)と呼びます。まれに、伝統的セラミックス(Traditional Ceramics)、古典的セラミックス(Classic Ceramics)と呼ぶこともあります。オールドセラミックスの製造過程では、高純度化や、所定の粒度分布を有する微粒子(粒径)制御など、高度な技術的処理はほとんど行われません。

オールドセラミックスに対して、ニューセラミックス(New Ceramics)という呼称もあります。ニューセラミックスには、天然原料に含まれる特定成分を高純度化した、人工の単体原料や合成原料が用いられます。これらの原料を、所定の割合に精度よく配合した混合物や化合物など、高性能な人工原料を用い、高度に制御された製造プロセスを経て作られます。

ただし、任意のセラミックスを、オールドセラミックス、あるいはニューセラミックスと明確に区別することはできません。例えば、かつて生産されたセラミックスを評価したとき、現在の技術に比べれば、それは当然、初歩的な技術によって作られたオールドセラミックスといえるでしょう。しかし、当時の技術レベルとしては、最先端の技術によって作られたセラミックスと思われるものもあります。

主原料に、粘土、ケイ石、長石(ちょうせき、Feldspar)、方解石(ほうかいせき、Calcite)、石灰石(せっかいせき、Limestone)などの天然材料を用いて作られた土器や陶器、瓦(かわら、Roof Tiles)や煉瓦(れんが、Brick)などはオールドセラミックスに分類されるでしょう。

図1 に、オールドセラミックスの一例として、産業革命の時代に作られた、イギリスのロイヤル・ウースター社製の磁器3 点セット(トリオ)を示します。18 世紀後半に、イギリス国内で市販されていたボーンチャイナ製のトリオは、持ち手(Handle)の有無と形状が異なる2 種類のカップ、そしてコーヒーソーサーの3 点セットが主流だったようです。

オールドセラミッ クスの一例、イギリス のロイヤル・ウースタ ー社製トリオ(18世紀 後半製のボーンチャイ ナ)
図1:オールドセラミッ クスの一例、イギリス のロイヤル・ウースタ ー社製トリオ(18世紀 後半製のボーンチャイ ナ)

ソーサーの使用方法は、18 世紀後半の当時では、カップの受け皿としてよりも、熱湯冷ましが主だったようです。なお、ボーンチャイナ(Bone china)の呼称は、ケイ酸アルミニウムが主成分であるカオリンの代替材料として、リン酸カルシウムが主成分の骨(ボーン)を含有した骨灰の磁器(Porcelain、俗称でchina)に由来します。骨灰の読み方は、セラミックスの分野では、一般的に「こっかい」で、石灰(せっかい)と同様です。灰(かい)の語源は、カルシウム(Ca)の意味で、動植物などの燃焼後の残滓(灰、Ash)の意での読み方は「こつばい」です。当時は、牛骨灰が用いられていました。牛骨灰は、他の骨灰に比べて鉄成分が少なく、焼成後の磁器表面に黒色班が発生する確率が低いためです。現在、市販されているボーンチャイナと明記された製品類は、人工の工業原料を用いて製造されています。

図2 に、ニューセラミックスの一例として、市販のセラミックナイフ、セラミックハサミを示します。

ニューセラミック スの一例、セラミック ナイフ、セラミックハ サミ
図2:ニューセラミックスの一例、セラミックナイフ、セラミックハサミ

これらセラミックス製品の材質は、二酸化ジルコニウムZrO2(特に工業分野ではジルコニアと呼称)です。また、次回以降に概説する部分安定化(例えば、酸化イットリウムY2O3 を3mol% 添加)したジルコニア製の人工骨や、最適な焼結助剤である酸化アルミニウムAl2O3 やY2O3などを添加した窒化ケイ素Si3N4 製のベアリング、および半導体基板製造のための単結晶育成用(CZ 法による単結晶引き上げ用)の石英ガラスSiO2 製容器である坩堝(るつぼ、Crucible)などは、ニューセラミックスといえるでしょう。

一方で、化学実験で広く用いられている耐熱性ガラスビーカーや、試験管、あるいは住宅に広く用いられている屋根瓦、外壁タイルなどは、古くて新しいセラミックスといえます。これらは、通常、オールドセラミックス、ニューセラミックスのどちらかに分類することはできません。なぜなら、今から約1,000 年前にハンドメイドされたガラス製品と、現在、工業的に大量に作られているガラス製品では、品質も特性も同一ではないからです。ただし、製品群を、あくまでも、オールドかニューに二分する必要があるとすると、磁器、耐火物、ガラス、およびセメントなどは、ニューセラミックスに近いオールドセラミックスに分類できるのではないでしょうか。

 

2. ファインセラミックス

オールドセラミックスは、得られる製品の品質や特性について、ばらつきが大きい傾向があります。一方、ニューセラミックスは、高温構造材料、発熱・電極材料、電子材料、磁性材料、原子炉材料、および航空宇宙材料などにおいて、安全に利用されています。まさに、高性能で高品質な工業材料と呼べるでしょう。

ただし、セラミックスの製造に関して、特に、高温で焼き固めて作られるセラミックス(焼結体)は、使用する原料(出発原料)中の微量な不純物の種類や量、あるいは多少の粒径の形状や、サイズの違い、焼き固める際の微妙な温度、圧力、雰囲気などの条件の違いなどにより、品質や特性が大幅に異なる場合があります。

例えば、代表的な鉄系材料であるS45C(炭素を0.45(0.42 ~ 0.48)質量% 含んだ鋼)の炭素鋼鋼材といえば、世界中のどこで作られた市販品でも、ほぼ同一の特性を示します。しかし、セラミック材料、特に焼結体は、原料(粒子)固有の融点以下(原料が融点を有していない場合もあり)の高温で作られます。その化学組成(化学成分)の粒度分布や不純物成分量がほぼ同じであれば、標準的な特性はおよそ同じになるものの、全く同一のものを各人(各社)が得ることは、極めて困難です。逆説的にいえば、だからこそ、作り手にとっては、面白い、ユニークな商品展開の可能性を秘めています。

図3 に、射出成形法によって作られたセラミック部品(緻密質高強度焼結体)の、量産前提の試作品例を示します。ニューセラミックスという表現に類似して、ニューセラミックス以上の優れた機能や特性を有するセラミックスの意味合いを持つファインセラミックス(Fine Ceramics)という言葉も、広く使用されています。これらのセラミック部品は、ファインセラミックスに分類できると考えられます。

ファインセラミックスの一例、射出成形法によって作られたセラミック部品
図3:ファインセラミックスの一例、射出成形法によって作られたセラミック部品(試作品)

日本工業規格(JIS)には、オールドセラミックス、ニューセラミックスの記載はなく、ファインセラミックスの記載だけがあります。JIS R 1600冒頭の、「ファインセラミックスおよび関連する、ガラス、炭素などの材料に適用される主な用語および定義について規定」(JIR R 1600、2011(旧1998 年規定の改訂版))によれば、ファインセラミックスは、「化学組成、結晶構造、微構造組織・粒界、形状、製造工程を精密に制御して製造され、新しい機能または特性を持つ、主として非金属の無機物質」と定義されています(JIS R 1600、a)一般、1)共通番号1101)。

このファインセラミックスという呼称は、京セラ株式会社(旧京都セラミック株式会社)の創業者である稲盛和夫(元社団法人日本セラミックス協会(現公益社団法人日本セラミックス協会)会長)が提唱し、日本で使われ始めた和製英語のようです。また、近年、日本国内での準拠が進んでいる、国際標準化機構(ISO:International Organization forStandardization)の規格でも、Fine ceramics という呼称が使われています(ISO 20507:2014)。今日、ファインセラミックスという呼称は、世界中で広く使用されているキーワードで、日本のセラミックス分野の研究・開発、並びに工業化・製品化などの水準の高さを示す好例と考えられます。

なお、ファインセラミックスに似た言葉に、JIS におけるファインセラミックスの対応英語(参考)として、ハイパフォーマンスセラミックス(High Performance Ceramics)や、アドバンスドセラミックス(Advanced Ceramics)などがあります。

ファインセラミックスは用途によって、機能性セラミックスと構造用セラミックス(エンジニアリングセラミックス)に大別できます。機能性セラミックスは、電子セラミックス(エレクトロニクスセラミックス)、光用(光学用) セラミックス(オプトセラミックス)、および生体用セラミックス(バイオセラミックス)などに分けられます。一方、構造用セラミックスは、高温構造用セラミックス、機械構造用セラミックス、および建築・土木構造用セラミックスなどに分けられます。

3. 窯業

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全10回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 セラミックスとは
  • 第2回 化学組成と結晶構造について
  • 第3回 単体セラミックスと化合物セラミックス
  • 第4回 オールドセラミックスとニューセラミックス
  • 第5回 酸化物セラミックス
  • 第6回 非酸化物セラミックス
  • 第7回 セラミックスの作り方(焼結体)
  • 第8回 セラミックスの作り方(単結晶など)
  • 第9回 セラミックスの物理的特性評価(機械的特性~密度、強度、硬度~)
  • 第10回 セラミックスの物理的特性評価と化学的特性評価

 

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