単体セラミックスと化合物セラミックス|セラミックスの基礎知識 3
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2024.09.17
基礎知識
単体セラミックスと化合物セラミックス|セラミックスの基礎知識 3
前回は、広義のセラミックスとして取り扱うことができる無機非金属固体材料の化学組成と、結晶構造を紹介しました。今回は、合成ダイヤモンドと人造黒鉛を例に、単体セラミックスを取り上げます。また、2 種類以上の元素が化学結合してできる化合物セラミックスについても解説します。
1. 単体セラミックス
単一の元素の原子で構成された物質を、単体(Simple Substance)といいます。単体には、同じ元素から成る単体でありながら、異なる結晶構造(原子の配列が違う)を持ち、異なる性質を持つ物質があります。例えば、ダイヤモンドと黒鉛は、ともに原子番号6 の元素、炭素原子C(Carbon)だけで構成される単体の材料です(図1)。ダイヤモンド(Diamond)の鉱物名は金剛石、黒鉛(Graphite)の鉱物名は石墨(せきぼく)です。黒鉛は外来語のまま、グラファイトと呼ばれることもあります。両物質とも、ホウ素やケイ素と同様に、非金属元素である炭素原子のみで構成された単体の無機材料です。そのため、本稿では、広義のセラミックスとして取り扱います。

ダイヤモンドと黒鉛のように、同一の単一成分(組成式C)でありながら、結晶構造が違い、異なった性質を示す単体のことを同素体(Allotrope)と呼びます。本稿では、ダイヤモンドや黒鉛など、炭素材料を例に、単体セラミックスについて解説します。なお、ホウ素やケイ素などの化合物については、次回以降、酸化物セラミックス、および非酸化物セラミックスを取り上げる際に、詳しく解説します。
無機材料の分野では、炭素材料というよりも、外来語のカーボン材料という方が一般的ではないでしょうか。同様に、ケイ素材料という呼称は、有機化学や有機材料の分野では一般的であるものの、無機材料の分野ではシリコン材料と呼ぶのが一般的です。ただし、元素名を正確に和名で取り扱う場合、公式な周期表上の元素記号C、およびSi の呼称は、それぞれ炭素、ケイ素です。
冒頭に元素と記したのは、元素には、同位体(Isotope)の原子を有する場合があるためです。例えば、炭素元素には、質量数12 の炭素原子(12C)以外に、質量数13 の炭素原子(13C)や、質量数14 の炭素原子(14C)などが存在します。炭素14 は、存在比率と半減期の算出から、動植物の年代を推測することができます(放射性炭素年代測定)。
2. ダイヤモンドと黒鉛
人工的に製造されるダイヤモンドと黒鉛は、工業材料として幅広い分野に利用されています。天然のダイヤモンドは、キンバリー岩(キンバーライト)などの母岩中から産出し、特に無色透明、あるいは有色透明で、大きな単結晶は、希少性の高い宝飾品(宝石)です。図2 に、ロシアで産出されたダイヤモンド原石(母岩中)を示します。この原石を高精度に研削研磨加工することにより、宝飾品としてのダイヤモンドになります。

ダイヤモンドは、図1(a) に示すとおり、炭素原子が3 次元的に共有結合したダイヤモンド構造を有し、地球上で、最も硬く、かつ最高の熱伝導性を有します(常圧室温下)。ダイヤモンドは、現在、高温高圧法などにより、商用ベース(採算ベース)で人工的に多量に製造されています。これを、合成ダイヤモンド(Synthetic Diamond)といいます。
天然、および合成のダイヤモンドは、含有する窒素の不純物量などにより、4 種類のタイプ(Ia、Ib、IIa、IIb)に分類されます。ダイヤモンドは、黒鉛とはほぼ正反対の性質を有し、無色透明(有色透明や不透明なものもあります)、高融点(3,600℃)、高沸点(4,800℃)であり、低電気伝導性(10-15S/m)、高電気抵抗(1013Ωcm)の性質を持つ絶縁体です。また、物質の中で最大級の屈折率を有します。
工業的には高硬度な特徴を生かし、工具、砥粒(とりゅう、Abrasive Grain)、および砥石(といし、Grinding Wheel)などに幅広く利用され ています。身近な例としては、切削工具(バイト、チップ)、ボーリング(掘 削)用切岩器のビット、切断・研削・研磨加工用のホイール(ブレード)・ドレッサーなどがあります。地球上には、ダイヤモンド以上に硬い工業材料がないため、当然のことでしょう(現在研究されている、六方晶窒化炭素(β-C3N4)などの非工業材料を除きます)。最近では、ダイヤモンドの優れた絶縁性や、熱伝導性といった性質を利用し、半導体材料(半導体基板)などに応用する試みもあります。
出発原料から製造プロセスまで、高度に制御して人工的に得られる高 機能なダイヤモンドを、ニューダイヤモンドと呼びます。ダイヤモンドに次ぐ高硬度な性質を有する立方晶(Cubic)の窒化ホウ素c-BNをニューダイヤモンドとして取り扱うこともあります。この立方晶BN の略称であるc-BN を、cBN、あるいは工業的呼称でCBN と称する場合もあります。なお、アメリカ化学会(American Chemical Society)などが発刊している学術論文誌上では、一般的にc-BN が用いられています。しかし、日本工業規格(JIS)のファインセラミックス関連用語中では、 cBN が用いられます(JIS R 1600 : 2011、ファインセラミックス関連用語)。このファインセラミックスに関する日本工業規格については、次回、詳しく解説します。
一方、黒鉛は、図1(b) に示すように、炭素が共有結合した六角網目(六角環)が連なる2 次元層(平面)が平行に積み重なって、その各平面間が、 非常に弱い化学結合を有する結晶構造を有します。この非常に弱い化学結合は、主としてファンデルワールス力です(ファンデルワールス結合ではありません)。
黒鉛は、天然に産出する黒鉛(石墨)と区別するため、人工的に製造 される黒鉛を人造黒鉛(Synthetic Graphite)と呼びます。黒鉛は黒色を呈し、バルク(Bulk)は不透明体です。また、高融点(3,367℃、沸 点は持たず昇華)、高電気伝導性(103 ~ 105Sm)、低電気抵抗(10-1 ~ 10-3Ωcm)の性質を示します(常圧室温下)。また、高熱伝導性 (98 ~ 129W/mK)、低密度(2.26g/cm3)、低硬度(モース硬度1 ~ 2) などの性質を有します。
黒鉛は、工業的には、固体潤滑剤(Solid Lubricant)・摺動部材(Slide Material)、電極(Electrode)、耐火物(Refractory)・耐火材料(Refractory Material)、原子炉部材(Nuclear Reactor Material)などとして幅広く用いられています。図3に、難焼結性のセラミック原料を用いて、緻密質焼結体を得るときなどに用いられるホットプレス用のグラファイト治具(Jig)を示します。ホットプレスについては、次回以降のセラミッ クス(焼結体)の製造方法の中で概説します。さらに最近では、リチウム2 次電池(Lithium Secondary Battery)の電極材料などとしても注目 を集めています。

目に見える身近な黒鉛の例として、鉛筆の芯を挙げることができます。鉛筆の芯は、黒鉛と粘土を所定の割合で混合した後、約1,000℃で焼成して得られたものです。近年では、黒鉛の層間へリチウムをドープ(インターカレート、Intercalate)した黒鉛層間化合物(GraphiteIntercalation Compound)、LiC6 も合成されました。これは、リチウム電池の新しい高性能負極材などに展開されています。
黒鉛化とは、無定形炭素を非酸化雰囲気下で、2,600 ~ 3,000℃の高温で結晶化させ、黒鉛にする処理のことです。人工的には、メタンやエタンなどの炭素化合物を熱分解(PyrolysisThermal Decomposition)して合成する熱分解炭素(Pyrolytic Carbon)、および熱分解黒鉛(Pyrolytic Graphite)などがあります。
なお、黒鉛と同様に、ホウ素Bと窒素N が1 モルずつ化学量論で化合してできる窒化ホウ素(Boron Nitride、正確には六方晶(Hexagonal)のBN(h-BN))も、グラファイト構造を持つ化合物セラミックスです。窒化ホウ素(h-BN)は、黒鉛とは異なり導電性はありません。ただし、耐熱性、潤滑性(へき開性)などの性質が類似しているため、ホワイトカーボンと呼ばれることがあります。
炭素の単体としては、木炭(Charcoal)、煤(すす、Soot)やカーボンブラック(Carbon Black)などの無定形炭素(Amorphous Carbon、アモルファスカーボン)があります。工業材料としてのカーボンブラックは、天然 ガス、石炭、および石油などを不完全燃焼、あるいは熱分解(Thermal Decomposition)させることで、人工的に多量製造されています。なお、これらの無定形炭素は、紀元前から黒色の色素(顔料)として、洞窟絵画や壁画用などに用いられてきました。現在では、タイヤのゴムなどの耐熱・増強用、印刷や複写用のインキ、着色・顔料・色材用、導電性付与剤用、さらには炭化物セラミックス(非酸化物セラミックス)などの合成用出発原料などとして広く利用されています。
カーボンブラックなどの無定形炭素は、非晶質です。ただし、グラファイト構造に似ているため、炭素の同素体には含めないのが一般的です。従来、炭素の同素体は、ダイヤモンドと黒鉛の2 種のみと考えられてきました。しかし近年では、炭素原子が1 次元の鎖のような構造をもち、導電性を有する炭素物質(線状ポリマー)であるカルビン(Carbyne)や、1985年に発見された球殻状の炭素分子であるフラーレン(Fullerene)も、炭素の同素体として加えています。カルビンやフラーレン、さらにはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相蒸着)法などの気相合成などによって得られるダイヤモンド・ライク・カーボン(通称DLC)や、炭素複合材料などを、ニューセラミックスと同様に、ニューカーボンと呼ぶ場合があります。この他、黒鉛中の炭素原子の1 層のみの2 次元物質グラフェン(Graphene)や、カーボンナノチューブ(CarbonNanotube)などの新発見された物質を、先端の工業材料へ応用する研究が、世界中で進められています。
3. 化合物セラミックス
全10回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 セラミックスとは
- 第2回 化学組成と結晶構造について
- 第3回 単体セラミックスと化合物セラミックス
- 第4回 オールドセラミックスとニューセラミックス
- 第5回 酸化物セラミックス
- 第6回 非酸化物セラミックス
- 第7回 セラミックスの作り方(焼結体)
- 第8回 セラミックスの作り方(単結晶など)
- 第9回 セラミックスの物理的特性評価(機械的特性~密度、強度、硬度~)
- 第10回 セラミックスの物理的特性評価と化学的特性評価