化学組成と結晶構造について|セラミックスの基礎知識 2

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2024.09.17

基礎知識

化学組成と結晶構造について|セラミックスの基礎知識 2

セラミックスの基礎知識

著者:東海大学 工学部 材料科学科 教授 松下 純一

前回は、セラミックの語源や、セラミック材料の性質などを紹介しました。今回は、広義のセラミックスとして扱うことができる無機非金属固体材料の化学組成と、結晶構造について解説します。

 

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1. セラミックスの化学組成

無機非金属固体材料は、広義のセラミックス(セラミック材料)として扱うことができます。では、無機非金属固体材料とは何でしょうか?固体材料を化学成分で大別すると、有機材料(Organic Material)と無機材料(Inorganic Material)に分けられます。有機とは、生活機能(生命の営みが可能)という意味を含む「機」を有し、無機は「機」を持たないという意味です。このうち、無機材料は、金属材料とセラミック材料(セラミックス)に分けられます。このセラミック材料が、無機非金属固体材料です(図1)。

固体材料の化学組織
図1:固体材料の化学組織

次に、素材の観点で固体材料を大別すると、単体材料、化合物材料、混合物材料、複合材料などに分けられます(図2)。

固体材料の素材別の分類
図2:固体材料の素材別の分類

 

セラミックスの代表的な単体材料には、炭素、ホウ素、ケイ素などの工業材料があります。これらの単体材料は、単一の非金属原子で化学結合している単一分子の材料です。炭素C 原子のみが共有結合しているダイヤモンドや、ケイ素Si 原子のみがダイヤモンド構造を有するケイ素(工業的呼称はシリコン)などは有用な無機材料です(βスズ構造へ相転移したケイ素は、金属材料として扱われます)。

なお、ダイヤモンドやシリコンは、人為的に高温で焼き固めた無機固体材料(狭義のセラミック材料)ではありません。ただし、金属材料ではないため、本稿では広義のセラミック材料として扱います。

酸素や炭素などが、ある1 種類以上の金属元素、あるいは非金属元素(酸素や炭素などよりも低い電気陰性度)と化学結合した化学組成である化合物材料(セラミック化合物)には、二酸化ケイ素や、炭化ケイ素などがあります。これらは有用な工業材料であり、さまざまな分野で利用されています。単体材料や化合物材料については、次回以降に詳しく解説します。

2. 結晶と非晶質

全ての固体材料は、構成粒子(原子配列(Atomic Arrangement))に秩序性があり、一定の3 次元的な周期構造を有する状態の結晶(Crystal)と、一定の3 次元的な周期構造を持たない状態の非晶質(Amorphous)に区分できます。非晶質は、アモルファス、あるいは無定形とも呼ばれます。

非晶質で、ガラス転移点(Glass Transition Point)を有するものは、ガラス(Glass)と呼ばれます。なお、有機材料である高分子が有するガラス転移点は、二次転移点とも呼ばれます。このガラス状態の典型的な例が無機ガラスです。ガラス状態の「ガラス」という言葉は、無機ガラスに由来しています。

図3 に示すガラス玉(トンボ玉)は、ケイ酸塩ガラスの一種である、ソーダ石灰ガラスという軟質ガラスでできています。ソーダ石灰ガラスの主成分は二酸化ケイ素SiO2、炭酸ナトリウムNa2CO3、炭酸カルシウムCaCO3 です。

ガラス玉
図3:ガラス玉(著者自作)

なお、古代に初めて作られた人工ガラスの主成分は、二酸化ケイ素SiO2 と炭酸カリウムK2CO3 です。ケイ石、あるいはケイ砂と、植物などの燃えかすである灰(炭酸カリウムK2CO3 を多含する)の化学反応により作られたと考えられます。正倉院の宝物として、大量のガラス製の玉が現存しています。

天然に産出するガラスの代表例として、火山岩の一種である黒曜石(Obsidian)を挙げることができます。黒曜石は、先史時代から世界各地で、矢尻などに利用されてきました。もちろん、現在でも産出され、北海道紋別郡遠軽町(旧白滝村(遠軽村))などの周辺地域で産出する黒曜石は、十勝石とも呼ばれています。特に、十勝石の中でも鉄系成分を含み、部分的に赤色を呈するものは、紅十勝と呼ばれます。図4 に、一級河川の十勝川流域で採取された黒曜石を示します。なお、液体金属を急冷して作られるアモルファス金属を、まれに金属ガラスと呼ぶこともあります。

北海道十勝川流域で採取された黒曜石
図4:北海道十勝川流域で採取された黒曜石(十勝石)の破断面

非晶質に対義する語は結晶であり、結晶質(Crystalline)でも、非結晶でもありません。例えば、同じケイ素原子Si と酸素原子O の化学結合で構成される組成式SiO2 の水晶(Quartz)は結晶であり、組成式が同じSiO2 の石英ガラス(Quartz Glass、Silica Glass)は非晶質です。言い換えれば、二酸化ケイ素SiO2(Silicon Dioxide)のみを化学成分とする結晶は水晶であり、非晶質は石英ガラスです。

天然に産出されるケイ酸鉱物の主成分である石英は、通常、透明でガラス(非晶質)のようです。しかし、これは二酸化ケイ素の結晶です。二酸化ケイ素、あるいは二酸化ケイ素が化学成分の物質をシリカ(Silica)と呼ぶこともあります。乾燥剤に用いられるシリカゲルSiO2・nH2O の名称も、これに由来します。

図5 に、ブラジルで産出した石英原石とケイ砂(珪砂)を示します。この原石を精製して、工業的に石英ガラスを製造することができます。

ブラジル産石英の原石
図5:ブラジル産石英の原石

なお、水晶は、外来語のクリスタルと呼ばれることがあります。しかし、このクリスタルという表現は、結晶を意味するCrystal ではないことに注意してください。

3. 単結晶と多結晶

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全10回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 セラミックスとは
  • 第2回 化学組成と結晶構造について
  • 第3回 単体セラミックスと化合物セラミックス
  • 第4回 オールドセラミックスとニューセラミックス
  • 第5回 酸化物セラミックス
  • 第6回 非酸化物セラミックス
  • 第7回 セラミックスの作り方(焼結体)
  • 第8回 セラミックスの作り方(単結晶など)
  • 第9回 セラミックスの物理的特性評価(機械的特性~密度、強度、硬度~)
  • 第10回 セラミックスの物理的特性評価と化学的特性評価

 

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