交通実態調査|交通計画の基礎知識1
お役立ち記事
交通実態調査|交通計画の基礎知識1
交通計画を立案するには、まず、交通実態を知る必要があります。国土交通省や都道府県は、どこで、どのくらい、どのような問題が発生しているかを定量的に把握するために、全国で交通実態調査を実施しています。交通は流動です。では、何の流動なのでしょうか? 本連載では6回にわたり、交通計画の基礎知識を解説します。第1回は、交通流動の代表的な捉え方として、人の動き、自動車の動き、物の動きに着目した実態調査を紹介します。
第1回「交通実態調査」を解説していきます。
1. 人の動きの調査~パーソントリップ調査~
パーソントリップ調査は、交通流動を人の動きとして捉える調査で、都市圏パーソントリップ調査と、全国都市交通特性調査に分類されます(表1)。
・都市圏パーソントリップ調査
都市圏パーソントリップ調査(Person Trip Survey、以下PT調査)は、1967年(昭和42年)に広島都市圏で実施されて以来、全国各地の都市圏で実施されています(図1)
国土交通省や都道府県は、中心都市への通勤・通学圏域により設定した都市圏において、人の動き(パーソントリップ)を調査します。調査の目的は、交通実態の把握、将来交通需要の予測、および総合的な都市交通計画の策定です。調査年は都市圏により異なるものの、おおむね10年ごとに実施されています。
調査内容は都市圏の計画課題により全国同一ではなく、基本的な調査内容には、個人属性、世帯属性、人の動きがあります。そのうち、人の動きは、個人の交通行動の出発地・到着地(起点Origin、終点DestinationからODとも呼ばれます)、移動目的、交通手段など、詳細な交通データを調査します。
PT調査は、特定の交通手段だけはなく、全ての交通手段による移動を把握できるため、交通手段の利用特性を分析できます。都市圏PT調査は、東京都市圏、京阪神都市圏、中京都市圏の三大都市圏、県庁所在地程度の規模の地方都市圏で実施されています。
・全国都市交通特性調査
全国都市交通特性調査は、都市規模などの都市特性と交通特性との関係を把握するために、国土交通省が実施しています。都市圏PT調査は、一定以上の人口規模の都市圏を対象としており、調査年も都市圏により異なるのに対し、全国都市交通特性調査は、全国の都市を都市規模別に分類し、同一年の都市交通特性を把握するために行います。計画の具体的な立案には、都市圏PT調査のデータを用います。調査項目は、基本的に都市圏PT調査と同じで、平日と休日の動きを調査します。
いずれの調査も、調査対象地域から一部の世帯を抽出して実施します。調査票は、個人・世帯情報を記入する世帯票、1日の動きを記入する個人票(平日、休日)から成ります。図2に、東京都市圏パーソントリップ調査の調査票(個人票)を示します。
以前は、調査員が世帯を訪問し、記入を依頼、後日回収する方式で実施されてきました。最近は、個人情報保護や新型コロナウイルス感染防止の観点から、Web調査が主流となっています。
2. 自動車の動きの調査~道路交通センサス~
PT調査が人の動きを把握するのに対し、道路交通センサスは、自動車の動きを調査します。調査の結果は、道路ネットワーク計画や道路改良、交通事故の対策などに役立てられています。道路交通センサスは、起終点調査(OD調査)と一般交通量調査に分けられます(表2)。
・起終点調査
道路交通センサス(起終点調査)は、世帯・自動車属性、自動車の動きを調査します。そのうち、自動車の動きは、出発地・到着地、移動目的、移動距離などを調査します。1958年(昭和33年)に東京など一部の地域で実施され、1971年(昭和46年)から全国的に実施されるようになりました。調査間隔はおおむね5年で、全国の自動車所有者に対し、抽出調査で実施されます。全国の自動車の所有者の2~3%の人が調査対象です。
・一般交通量調査
道路交通センサス(一般交通量調査)は、都道府県道以上の全道路、政令指定市の市道の一部を対象に、現地調査、断面交通量調査(道路を通過する交通量のカウント調査)を行い、道路状況、車種別断面交通量、平均走行速度などを把握します。
いずれの調査も、全国の自動車、幹線道路を対象とする非常に大規模な調査です。近年では、2020年に実施が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染が広がったため、延期されました。
3. 物の動きの調査~物資流動調査~
物(小売の商品だけでなく、産業のための原料や部品など、あらゆる物)の動きと、それに関連する活動を総合して、物流と呼びます(図3)。
都市圏においては、人が移動するだけでなく、多種多様な物も移動しています。広域的な都市計画や、都市交通計画の基本的な情報を得るために、人に着目した都市圏PT調査と併せて、物に着目する調査として、都市圏物資流動調査(以下、物流調査)が実施されてきました。物は貨物車や船舶で輸送されます。これは、PT調査では把握できません。
物流調査は、三大都市圏(東京都市圏、京阪神都市圏、中京都市圏)では継続的に実施されているほか、地方都市圏でも、仙台都市圏、北部九州都市圏、道央都市圏において実施されています。特に、災害時の物流計画はますます重要になってきています。通常は、10年ごとの都市圏PT調査の中間年に、物流調査が実施されています。
物資流動調査(物流調査)は、対象とする都市圏や調査時期により、調査内容が異なります。図4に、2013年に実施された第5回東京都市圏物資流動調査の調査体系を示します。
本体調査(1)である事業所機能調査では、都市圏内に立地している製造業、卸売業、サービス業、運送業、倉庫業、小売業・飲食店の事業所を無作為抽出し、調査票を配布します。図5に示すように、出発地域・到着地域、搬出事務所・搬入事務所、輸送目的、輸送品目、輸送時間、出発時刻・到着時刻を調査することにより、搬出、中継、搬入から成る輸送の流れを把握します。
補完調査(2)は、企業アンケート調査、企業ヒアリング調査、貨物車走行実態調査、端末物流調査の4つの調査から構成されています。企業アンケート調査、企業ヒアリング調査は、都市圏内で物流に関係した活動を行っている企業を対象に、物流施設の立地、物資輸送に関する考え方や企業戦略について調査します。貨物車走行実態調査は、物資を運ぶ大型の貨物車が走行する道路(走行経路)を調査し、端末物流調査は、商店街やオフィス街など、中心市街地における荷さばきの状況について調査を行います。
物流調査データを分析することにより、臨海部や郊外部の広域的な物流拠点の立地を支える基幹的な物流ネットワーク、物流拠点間の移動を担い、生活環境に配慮した物流ネットワーク、都市内における荷さばき施設などに関する検討を行います。
いかがでしたか? 今回は、人の動き、自動車の動き、物の動きに着目した実態調査を紹介しました。次回は、全国、大都市圏、地方都市圏の交通特性を取り上げます。お楽しみに!
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 交通実態調査
- 第2回 都市の交通特性
- 第3回 将来交通量の予測
- 第4回 交通マスタープラン
- 第5回 市民社会の交通計画
- 第6回 新しい技術の活用