実店舗がインターネットに勝てるポイント|店舗運営の基礎知識6

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実店舗がインターネットに勝てるポイント|店舗運営の基礎知識6

店舗運営の基礎知識
 
著者:中京大学 総合政策学部 総合政策学科 教授 坂田 隆文

前回は、店舗運営における変化とトレードオフについて解説しました。店舗運営においては、他社・他店と差別化を図るためにも変化し続けることが求められます。しかし、店舗にはさまざまな制約があり、その変化は簡単ではありません。その制約を打ち破ったのがインターネット販売ではあるものの、本連載ではあくまで実際の店舗の運営における差別化を念頭に、そこで最も重要な要素が何であるのかを考えます。今回は、最終回です。店舗がインターネット販売に勝つためのポイントを紹介します。

第6回「実店舗がインターネットに勝てるポイント」を解説していきます。

 

基礎知識DL

1. トレードオフを超えて

前回は、小売業者が利益をあげるために差別化を図ること、その差別化は模倣されやすいこと、模倣されないように差別化を継続するための変化が求められること、そして、変化を続けるにも、店舗運営においては多様なトレードオフを背負わされていることを説明しました。その一例として、魅力ある店舗運営を行うために品揃(ぞろ)えを変え続けようとしても、店舗面積という制約のために、品揃えの広さと深さというトレードオフからは逃れられないと言及しました。

ところが、実際にはこのトレードオフを超えた小売業者が存在します。インターネット販売です。代表的なものは、もちろんAmazonです。Amazonには、店舗面積という制約は存在しません。土地代の安い場所に巨大な物流センターを建てれば、大量の商品を取り揃えることができます。前回紹介した「集客を求めるために一等地に出店したいが、それには土地代がかかる」というトレードオフも、Amazonには該当しません。「営業時間を長くしたくても、それを行うと人件費や光熱費がかかる」というトレードオフも、いったんシステムを構築しさえすれば問題ないでしょう。「品切れを起こさないよう大量に在庫を持とうとすると、売れ残りが出るリスクを背負わなければならない」というトレードオフに関しては、一定の品揃え以上の在庫を生産者に背負ってもらうなどすれば、Amazonが売れ残りリスクを背負うことはありません。

さすが、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)と呼ばれるIT企業の雄の中で唯一の小売業です。トレードオフを超えた素晴らしいビジネスだと称賛できます。

しかも、Amazonは、レコメンデーション機能で、閲覧者・購入者に対してその人が購入しそうな商品を推薦することまでしています。あたかも、「奥さん、今日は大根が安いよ」と接客する八百屋さんのようです(図1)。昭和の販売スタイルが、AIあるいは統計解析によって的確かつ瞬時に行われているのです。昨今、オムニチャネル(企業とユーザーの接点となるチャネルをそれぞれ連携させ、ユーザーにアプローチする戦略)という概念で説明されているように、実店舗がインターネット販売に乗り出して、その利点を活用しようとしているのも頷(うなず)けます。

店舗とインター ネットにおけるレコメンデーション
図1:店舗とインター ネットにおけるレコメンデーション

筆者が理事を務める国内最大のマーケティング学会である日本マーケティング学会でも、昨年「オムニチャネルと顧客戦略の現在(近藤公彦・中見真也編著、千倉書房、2019 年刊行)」という本が日本マーケティング本大賞に選出されたほど、インターネット販売は現在、最も有力な販売手法の一つになっているといえそうです。

では、インターネット販売であれば変化し続けられ、模倣されることがないのでしょうか。具体的には、Amazonは他社から模倣されることはないのでしょうか。どうもそうではなさそうです。日本では、代表的な通販サイトとしてヤフーショッピングや楽天市場が存在しており、消費者にとってはAmazonでなくてはならないという理由は、それほど多くはないでしょう。例えば、筆者自身も中京大学の学生を指導しながら某社と協同でサイト企画や商品構成を練り、愛知の作り手の思いを伝える「だらりん」という応援サイトの運営に携わりました。こういった通販サイトの存在も、差別化と模倣の波の中に存在していくのでしょう。

インターネット販売は、その利便性から今後も広がり続けるでしょう。しかしながら本連載のテーマは店舗運営です。店舗というのは実店舗としての存在であり、店舗がさまざまなトレードオフを背負いながらも変化し続け、他店と差別化を図るためにどうすればよいのかを考える必要があります。これは、インターネット販売が主流になりつつある現代において、実に難儀なテーマです。

2. 店舗がインターネット販売に勝てるポイント

消費者が買い物をする際、特定の商品を購入する目的を持って来店する場合と、特に目的もなくフラッと店を訪れる場合とがあります。前者の場合、「消費者の目的に合致した商品が店頭にあるか」ということだけが問題になり、インターネット販売が最も強みを発揮できる土壌ともいえます。検索をかけてカートに入れ支払い登録をし、後は商品が届くのを待つだけです。一方、後者の場合、インターネット販売は逆に弱みにもなり得ます。暇つぶしにAmazonでも覗(のぞ)こうという消費者は、あまりいません。

しかし、実店舗なら「友達との待ち合わせまで少し時間があるので、時間潰しにそこのお店でも眺めていよう」という消費者は多数存在します。あるいは、デートで恋人とAmazonを見て楽しむなどという消費者が存在するでしょうか。対して、ショッピングセンターや百貨店で連れ添って歩いている恋人たちの姿ならば、いくらでも見ることができます。要するに店舗には、実際に買い物をしてもらえるかどうかを除外して考えれば、インターネット販売に勝てる要素が全くない、というわけではありません(図2)。

店舗とインターネット販売の比較
図2:店舗とインターネット販売の比較

しかし、小売業者がビジネスとして店舗を運営している以上、単なる暇つぶしの道具やデートスポットになればよい、というわけにはいきません。実売にたどり着いてこそ、店舗運営が成功したといえます。では、どうすればよいのでしょうか。

そもそも小売業は、昔から労働集約型の産業といわれています。つまり、事業活動の大部分を人の手に頼っている産業であるということです。もちろん、対面販売しかなかった時代からセルフサービスが導入されるようになり、販売員の数を減らすことはできています。近年、一般的になりつつあるセルフレジなど、代金の受け取りにすら人の手は必要ありません。それどころか、ファミリーマートは2024年度末には無人店舗を1,000店も出店すると公表しています(参考:日経新聞、「ファミマ、無人店1,000店 通常の品数維持規制の壁打開、小売りの生産性向上」、2021年9月11日)。

しかし、それでも、店舗運営においては労働力が欠かせません。それは、商品を店頭に並べるといった物理的な意味だけでなく、知恵を働かせるという知識労働という意味合いにおいても同様です(図3)。この知恵を、「お客さんに来てもらうにはどうすればよいか」、「来てくれたお客さんが商品を買ってくれるにはどうすればよいか」という思考に回しましょう。どんなにAIが発達しようとも、どれほどビッグデータを集約しようとも、それらは過去の統計でしかありません。未来を切りひらくのはあくまで人です。

人が切りひらく知識労働
図3:人が切りひらく知識労働

3. 店舗運営における人材育成

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 店舗を運営するとは
  • 第2回 プライベートブランドによる差別化
  • 第3回 店舗運営における事業システム
  • 第4回 店舗運営における差別化と模倣
  • 第5回 店舗運営における変化とトレードオフ
  • 第6回 実店舗がインターネットに勝てるポイント

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