店舗運営における差別化と模倣|店舗運営の基礎知識4

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店舗運営における差別化と模倣|店舗運営の基礎知識4

店舗運営の基礎知識
 
著者:中京大学 総合政策学部 総合政策学科 教授 坂田 隆文

前回は、店舗運営における事業システムについて解説しました。さて、店舗運営において最も大切なことは、他店と差別化を行うことです。ところが、いくら差別化を行っても、それがうまくいっていると知るや、競合店はその手段を真似ようとします。いわば差別化と模倣という相反する動きが、店舗運営の中で同時に進んでいくのです。流通論においては、このような差別化と模倣の関係を理論的に説明する概念があります。そこで今回は、業種と業態という概念を通し、店舗運営における差別化と模倣の関係を現実に照らして考えてみましょう。

第4回「店舗運営における差別化と模倣」を解説していきます。

 

基礎知識DL

1. 小売業の歴史

歴史上、最も古い小売業はと問われれば、史料で確認することはできなくとも、行商人であると推察できます。肩に天秤(びん)棒と呼ばれる棒を担いで魚や貝類などを売り歩く姿は、時代劇がお好きな方ならば見たこともあるでしょう。海産物や野菜などを採って、道行く人や家々に売って歩く。非常に原始的な小売業の姿であるといえます。その次に現れたのは、おそらく路面店でしょう。茣蓙(ござ)を敷いて商品を並べ、店じまいをする時には一式を持ち帰る。これも原始的な小売業の姿かもしれません(図1)。

天秤棒を担ぐ行商人と路面店
図1:天秤棒を担ぐ行商人と路面店

このような原始的な小売業では、まだ店舗といえるほどのものは存在していません。そこから徐々に小売業者が店を構えるようになり、今でいう魚屋や八百屋、服屋(呉服屋)、酒屋といった店舗が生まれ始めます。しかし、これらの店舗はまだまだ前回で紹介した事業システムといえるほどの仕組みを持っておらず、問屋から仕入れて来店客に売るという原始的な事業を営んでいました。元来、日本では小売業よりも問屋の方が力を持っており、「そうは問屋が卸さない」という慣用句があるほどです。問屋、すなわち卸売業者が存在しなければ、小売業者が商売を行うこともできなかったのです。

事業システムといえるものを日本で初めて導入したのは、日本で最初の大規模小売業者とも呼ばれる百貨店です(図2)。その誕生は1905年、現在の三越が新聞で「デパートメントストア宣言」という広告を出したのが始まりといわれています。それまで呉服屋だった三越が、「これからは品数を増やして、海外で広まっているデパートになります」と宣言したのです。

では、なぜ百貨店をデパート、つまり「デパートメント(日本語で領域とか部門といった意味)ストア」と呼ぶのでしょうか。それは、当時の小売業者は、規模が拡大すると暖簾(のれん)分けというかたちで店舗を異にするのが一般的だったのに対し、デパートは複数の部門にまたがった大規模な店舗を構えていたからです(もちろん、その背後には事業システムが存在します)。このため複数の部門を運営している店という意味合いで、デパートという名称が使われました。それを日本語で百貨店というのは、消費者の立場に立った時に、「百(「たくさん」という意味)」「貨(「宝物」というニュアンス)」を扱う店、という意味合いがあるためです。

明治時代の三越百貨店(引用:ウィキペディア)
図2:明治時代の三越百貨店(引用:ウィキペディア)

百貨店の次に誕生したのは、スーパーです。スーパーマーケット、直訳すると超市場ですね。当時一般的だった市場(「しじょう」ではなく「いちば」)の特別版という意味合いを持って名付けられたスーパーが、1950年代に次々と誕生しました。スーパーは、日本で初めてセルフサービス方式やチェーン展開といった仕組みを導入し、1972年にはダイエー(当時)が三越を抜いて小売業売上高第1位になるほどの成長を遂げました。

その次に誕生・成長したのが、コンビニエンス・ストアです。1973年頃、イトーヨーカ堂や西友、ダイエー、ユニー、イオンといった当時代表的だったスーパーが、子会社として次々にコンビニエンス・ストアを運営するようになりました。その後、均一価格店やドラッグストア、総合ディスカウントストア、家電量販店といった小売業者が続々と誕生し、消費者の買い物が便利になっていったことは周知のとおりです。

2. 業種と業態

業種とは、取扱商品の種類で小売業を分類するものをいい、業態とは、販売方法や経営方針などで小売業を分類するものをいいます。この2つについて説明します。

・業種
魚屋が取り扱うのは魚、酒屋が取り扱うのは酒類というように、「〇〇屋」とは、扱っている商品が「〇〇」であることがはっきり分かります。このように、扱う商品によって小売業を分類することを業種といいます。各種統計をとる際などは、この業種の分類によって店舗数や従業員数、売上高の推移などを集計します。歴史的には、百貨店登場以前の日本の小売業者には、業種店しか存在していなかったということもできます。

・業態
百貨店以降に誕生した小売業者は何を取り扱っているのかというと、「〇〇屋」というかたちで分類できないものが多数存在します。しかし、私たちは三越や伊勢丹、松坂屋や大丸が百貨店であるということも、イオンやイトーヨーカ堂、ユニーがスーパー(総合量販店:GMSとも呼ばれます)ということも、セブン-イレブンやファミリーマート、ローソンがコンビニエンス・ストアであるということも知っています。スギ薬局が、店名に「薬局」と付いているからと「薬屋であって、薬しか売っていない」と思う人もおらず、ドラッグストアという、業種とは違ったものだということも理解できるでしょう。

このように、取扱商品では分類できないものの、小売業者を分類する基準があります。それを業態といいます。業態とは小売業者の販売や経営のスタイルであり、商品をどのように取り扱っているかという基準による分類であるとされています。いわば、小売業を事業システムによって分類したものが業態ということです。最も分かりやすいのは、食品も文房具も、家具や雑貨すらも100円で売っているダイソーやセリアといった均一店でしょう。扱う商品では分類できなくても、価格を100円で統一しているという販売・経営スタイルで分類される小売業態であるといえます。

では、こうした販売や経営のスタイル、あるいは商品の取り扱い方には、どのような分類基準があるのでしょうか。例えば、百貨店とスーパーでは、対面販売かセルフサービスか、定価か高価格帯か、値引きか安価な品ぞろえか、あるいは、単一店(少数店舗)かチェーン店かといった違いがあります。小売業態を分類するのにこれという基準があるわけではなく、販売方式、商品の価格帯、店舗規模、立地、出店方式など、さまざまな分類軸が存在しています。さらに強調するならば、新たな分類軸を生み出すことが、新たな業態の誕生につながるともいえます。

3. 店舗運営における差別化と模倣

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 店舗を運営するとは
  • 第2回 プライベートブランドによる差別化
  • 第3回 店舗運営における事業システム
  • 第4回 店舗運営における差別化と模倣
  • 第5回 店舗運営における変化とトレードオフ
  • 第6回 実店舗がインターネットに勝てるポイント

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