リーダーシップを共有する|リーダーシップの基礎知識5

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リーダーシップを共有する|リーダーシップの基礎知識6

リーダーシップの基礎知識

著者:立命館大学 総合心理学部 総合心理学科 教授 髙橋 潔

前回は、リーダーシップと脳の関係として、楽観と悲観、現在思考と未来志向について解説しました。今回は最終回です。リーダーシップの共有について解説します。

第6回は、「リーダーシップを共有する」と題して解説していきます。

 

基礎知識DL

1. みんなでシェアすればリーダーシップも怖くない

大量生産・大量消費の伝統的な経済モデルに代わり、シェアリング・エコノミーが浸透しようとしています。個人や組織が保有している有形・無形の資産(もの、場所、スキル、時間、資金など)を、クラウド上のマッチング・プラットフォームを通して、他の人や他の組織も利用できるよう共有(シェア)する経済モデルです。

共有というのは、全く新しい考え方ではありません。昭和の時代であれば、余った部屋に居候を住まわせたり、お米やしょうゆを借りたり、自動車を相乗りしたりしていました。現代では、空き部屋を貸し出すAirbnb(エアービーアンドビー)(図1)や、余った食材を提供するフードバンク、自動車や交通手段をシェアするUber(ウーバー)などに引き継がれています。

iPhone 画面上の アプリケーションの Air bnb ロゴ、App Store、 2021
図1:iPhone 画面上のアプリケーションの Airbnb ロゴ、App Store、2021

有形な資産であるものや金だけでなく、無形の資産であるスキルに関しても、就業規則を盾にして会社が独占するのは、時代遅れといえるでしょう。翻訳や占いやプログラミングなどの専門スキルは、ウェブサイト「ココナラ」で共有されています。また、副業が解禁となっている組織では、従業員がスキマ時間を、スマートフォンを使って手軽に副業に当てることができます。

そんな現代だからこそ、リーダーシップもシェアされるというのが、時代感覚にマッチしています。しかし、スマートフォンやクラウド上でリーダーシップをシェアするサービスは、まだありません。そのため、別 の形でリーダーシップをシェアしなければなりません。

組織の形を究極的に突き詰めれば、それは官僚制に表れています。ルールや前例が順守され、権限がはっきりした階層制な縦構造の下で、トップダウンの命令系統をもって運営される組織です。軍隊をイメージすれば、分かりやすいかもしれません。その中では、リーダーのポジションに就いている一握りの人が、リーダーシップを発揮すればよいわけです。

「船頭多くして船山に登る」ということわざがあります。加えて、「役人多くして事絶えず」というものもあります。日本では、たくさんのリーダーが割拠すれば、組織は統一性を欠いてしまうため、少数のリーダーが大多数のフォロワーに担がれることが、組織のあるべき姿と考えられているのでしょう。

そのため、若い人にはリーダーシップは無用の長物であり、リーダーシップを積極的に身に付けようとする意欲も、インセンティブもありません。また、組織の中にも、若い人を積極的にリーダーに育成していく風土はありません。「若い力に期待している」と口では言いながら、自由放任で、本人に任せっきりにしています。

要するに、リーダーシップを身に付けていこうと思っても不利なのが、日本の実情です。リーダーシップ砂漠に覆われているといってもよいかもしれません。

その一方で、ピラミッド型の官僚組織は、過去のものとなりつつあります。少人数のグループで働いているケースであれば、リーダーシップは1人だけが示すものではありません。何人かがお互いに、場面ごと、分野ごとにリーダーシップを取り合うということが起こります。これは、シェアド・リーダーシップと呼ばれています。

シェアド・リーダーシップとは、リーダーシップの役割と影響力が、チームメンバーに共有されていることを意味しています。大抵は、メンバー同士で起こるインフォーマルなリーダーシップの分け合いです。代わ る代わるリーダーの役割を担ったり、自分の得意な部分を生かしたりして、リーダーの働きや機能を分け合います。

シェアド・リーダーシップには、以下の3つのカギとなる要素があります(図2)。

  • 1:リーダーの権限と役割が、チームメンバーに分散していること
  • 2:上下関係ではなく、対等の立場にあるピア(仲間)同士が、水平の影響を与え合うこと
  • 3:リーダー個人の特性ではなく、グループの中に、自然にリーダーシップが発生してくる創発特性であること
シェアド・リーダーシップ
図2:シェアド・リーダーシップ

2. 究極のシェア-オルフェウス・プロセス

ニューヨークにあるオルフェウス室内管弦楽団には、シェアド・リーダーシップの究極の形が見て取れます(参考:ハーヴェイ セイフター、ピーター エコノミー共著、オルフェウス・プロセス―指揮者のいないオー ケストラに学ぶマルチ・リーダーシップ・マネジメント、角川書店、2002年)。オルフェウス室内管弦楽団がよく知られているのは、演奏のクオリティと並んで、指揮者がいないことです。指揮者がいない代わりに、奏者全員が話し合いを重ねて、演奏全体の方向性やリハーサルの計画を決め、練習を重ねることで楽曲を仕上げていくというスタイルを採っています。

管弦楽団で指揮者がいないというのは、極めて異例のことです。新しく入ったメンバーであれば、びっくり仰天するでしょう。オルフェウス室内管弦楽団では、全員が指揮者と同じ権限と責任を持ちます。曲を完成させるプロセスでは、「そのパートが気に食わない」とか、「こんなふうに演奏してほしい」のように、お互いに注文をつけ合い、討議を繰り返します。

それでも、初期の喧騒(けんそう)がだんだんと合意形成に至り、初めは無であったものが、一つの曲として形を成していきます。このようにして、グループ全体としての一体感や、かけがえのない曲作りの体験を得ることができるため、興味は尽きません。

トップダウンは昔ながらのリーダーシップの在り方であり、指示命令や率先垂範(人の先に立って行動し模範となること)を常とする伝統的なリーダーシップは、オールドパワーに属しています。先輩・後輩や、上下関係を前提としてきた伝統的なマインドセットの下では、真の意味でのシェアは起こりません。

一方、シェアという言葉は、新しい価値観とニューパワーの特長を示しています(図3)。シェアリングを重視するニューパワーの下では、水平的な横のつながりによって、お互いに影響を与え合う姿が理想です。仲間内のいいかげんな態度や、他力本願では務まりません。各自が相応の自覚と責任を持って初めて、リーダーシップはシェアされます。それはきっと、新しい形の現代的なリーダーシップを予感させるものでしょう(参考:ジェレミー・ハイマンズ、ヘンリー・ティムズ共著、NEW POWER ―これからの世界の「新しい力」を手に入れろ、ダイヤモンド社、2018年)。

オールドパワーとニューパワーの図
図3:オールドパワーとニューパワー(参考:ジェレミー・ハイマンズ、ヘンリー・ティムズ 共著、NEW POWER―これからの世界の「新しい力」を手に入れろ、ダイヤモンド社、2018年)をもとに作図

3. シェアド・リーダーシップという東洋の知恵

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 リーダーシップとは
  • 第2回 マネジャーとリーダーの違い
  • 第3回 リーダーシップの理論を旅する
  • 第4回 いかなるリーダーもフォロワーであり、フォロワーはいつかリーダーになる
  • 第5回 リーダーシップと脳の関係
  • 第6回 リーダーシップを共有する

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